Music Sketch

優美な歌声を堪能できる、アンドレア・ボチェッリの映画。

Music Sketch

アンドレア・ボチェッリの映画『アンドレア・ボチェッリ 奇跡のテノール』を観た。彼は世界最高峰のテノール歌手であり、失明しながらも成功の座をつかんだことでも知られている。ボチェッリの名前が聞かれるようになったのは、映画でも紹介されているが、イタリアを代表する国民的ロック歌手のズッケロからの依頼で共演が実現した頃だったと思う。

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ボチェッリことアモス・バルディを演じるトビー・セバスチャン(左)と、マエストロ役のアントニオ・バンデラス。

■ボチェッリなくしてイル・ディーヴォの成功はなかった。

オペラ歌手が他ジャンルと交流するようになったのは、“三大テノール”のひとりであるルチアーノ・パヴァロッティが、1992年から自身の地元モデナで始めたチャリティコンサート『パヴァロッティ&フレンズ』の影響が大きかったように思う。毎年多彩なミュージシャンが参加し、私が観に行った95年にはズッケロのほかに、U2のボノ&エッジ、ブライアン・イーノ、サイモン・ル・ボン(デュラン・デュラン)なども参加していて、ミュージシャンの交流はもちろんのこと、オペラファンの枠を広げることに貢献していた。なかでも当時AORシンガーとして人気だったマイケル・ボルトンが、パヴァロッティと歌劇『道化師』の第一幕の歌曲で共演し、その歌唱力に驚かされたことが思い出される。実際、彼は96年にアリアを歌ったアルバムを発表したほどだ。

ボチェッリは94年のサンレモ本選新人部門で優勝し、そこから本格的にクラシック音楽へチャレンジしていくことになる。96年にヨーロッパ各国に向けて『ヴィアッジョ・イタリアーノ』を発表し、そこではイタリア人になじみの深いナポリの歌や人気の高いオペラのアリアを歌ういっぽうで、97年には世界デビューとなる『ロマンツァ』をモダンなアレンジで発表。このアルバムは現在までに2000万枚のセールスを記録するほど人気を決定づけた。

当時を振り返ると、2000年にはイタリアからフィリッパ・ジョルダーノ、01年にはアメリカからジョシュ・グローバン……と、オペラにポップスの感覚を取り入れた、クラシカル・クロスオーバー、もしくはポップオペラと呼ばれた音楽が世界的に注目されるようになった。これは明らかにオペラからポップスまで自在に歌えたパイオニア、ボチェッリの存在が大きい。04年にはイギリスから、まさにボーイズグループの大人版として、多国籍の個性豊かな歌手を集めたイル・ディーヴォが結成されてデビューした。彼らの成功は、ボチェッリなくしてあり得なかっただろう。

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■アントニオ・バンデラス演じるマエストロの役がカギを握る。

この映画『アンドレア・ボチェッリ 奇跡のテノール』は、ボチェッリ自らが執筆した自伝的小説『The Music of Silence(沈黙の音楽)』をマイケル・ラドフォード監督が映画化したもの。歌うのが好きなボチェッリ少年こと主人公のアモスがコンテストで歌うシーンなどは、この歌声を聴いているだけでこちらも幸せな気持ちになるほどだし(実際はベアトリス・コルッテラの吹き替え)、変声期を経て、複雑な気持ちを抱えながら音楽と対峙していく過程にも、彼の心の動きが読み取れ、感情移入してしまう。

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早くからアモスの歌の才能を見抜いていたジョヴァンニ叔父さん(エンニオ・ファンタスティキーニ)は、彼をコンテストに参加させ、見事優勝を獲得。子役の少年の美声にも癒やされる。

また、この温かみあふれる歌声は、ボチェッリを支えてきた両親や叔父、親友、恋人たちの愛情があったからこそ、と思えるほど、彼を取り囲む人々がイタリア人らしい人情派で魅力的だ。後半は、アントニオ・バンデラス演じるマエストロがレッスンで語る言説に説得力があり、ボチェッリの著書『The Music of Silence』の意味が明かされる。そして、1993年5月31日にステージに立ち、この映画のクライマックスを迎えるのだ。

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父親(ジョルディ・モリャ)も、積極的にアモスに人生を謳歌させようとする。

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■周囲の人たちの愛に支えられた、彼の歌の魅力を描くことに注力。

存命のミュージシャンやバンド、シンガーの半生が映画化されるのはいまや珍しくないし、最近でもオアシスやエリック・クラプトンのように当時の貴重な映像を使ってドキュメンタリーとして描いたものから、クイーンやエルトン・ジョンのように、当時の映像を挟みながらも俳優を使って映画化しているものもある。

また、オアシスのドキュメンタリー映画でギャラガー兄弟はアシフ・カパディア監督とともに製作総指揮に名を連ね、クラプトンは彼自身がナレーションを担当しているから、自身の思いが反映されて映像化されたとみて間違いないだろう。いっぽうで、亡くなった後に発表されたカート・コバーンやエイミー・ワインハウス、ホイットニー・ヒューストンに関する映画は、監督の意向で彼・彼女の人生が再構築されてしまっている。

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映画では、最初の妻エレナ(ナディール・カゼッリ)との関係が描かれている。劇中のボチェリの名前アモスは、最初の妻エンリカとの最初の子どもの名前だ。

では、ボチェッリは自伝的小説に書かれていることと映画には多少差異はあるものの、どのような気持ちで映画化を許可したのだろう。自分が歌の境地に到達するまでの葛藤を残したかった気持ちもあるだろうが、純粋にジャンルを超えた歌というものの魅力を伝えたかったのではないだろうか。上に挙げた映画とは意を異にして、純粋に彼の優美な声をさらに世界に届けるために、多くの人が協力し、本人の弛まぬ努力を経て実現した、歌を楽しむ音楽映画のように感じる。

最近のボチェッリはエド・シーランやエリー・ゴールディング、デュア・リパといったポップス系の若手アーティストや、最初の妻エンリカとの間に生まれた次男のマッテオ・ボチェッリとの共演を楽しんでいる。これらの作品もジャンルレスで堪能できる作品に仕上がっている。

『アンドレア・ボチェッリ 奇跡のテノール』

●監督/マイケル・ラドフォード
●脚本/アンナ・パヴィニャーノ、マイケル・ラドフォード
●出演/トビー・セバスチャン 、アントニオ・バンデラスほか
●2017年、イタリア映画
●115分
●配給/プレシディオ、彩プロ
●11月15日(金)より新宿ピカデリーほか全国順次ロードショー
http://bocelli.ayapro.ne.jp

© 2017 Picomedia SRL.

*To Be Continued

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