Music Sketch

音楽だけを捉えても見応え十分、第92回アカデミー賞。

Music Sketch

2月9日、ロサンゼルスのドルビー・シアターで開催された第92回アカデミー賞授賞式は、音楽の点から注目したい点が数多くあった。

■松たか子ら、9カ国からエルサが集合して「アナ雪2」の歌を。

まずオープニングに、クィアであると公言しているアフリカン・アメリカンのアーティスト、ジャネール・モネイが登場したことだろう。「It’s a Beautiful Day in This Neighborhood」の歌い出しからアカデミー賞やノミネート作品に絡めた内容の歌詞に変え、『グレイテスト・ショーマン』の「Come Alive」へ続くと、それぞれのノミネート作品を思わせる衣裳を着た多様な人種のダンサーが登場。ビリー・ポーターも加わってエルトン・ジョンの「I’m Still Standing」のカバーを歌うと、ジャネールは「私は黒人で、クィアのアーティストとしてここに立ってストーリーを伝えることをとても誇りに思っているわ。黒人歴史週間おめでとう」と発言。その後は客席の皆を歌に参加させるわ、寝転んで歌うわ、自由奔放に振る舞い、最後には「いまこそ目覚めて、自分自身を生きて」と熱唱。5分強とは思えないほどメッセージ性とエンタメ性が共存したパフォーマンスで幕を開けた。

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映画界でも音楽界でも才能を発揮するジャネール・モネイ。photo:Getty Images

続くパフォーマンスは、『アナと雪の女王2』から「Into the Unknown」。本作品のエルサを担当したイディナ・メンゼルをトップバッターに、次に歌った松たか子をはじめ、計10名のエルサがポーランド語やタイ語、スペイン語などの母国語で歌った。世界中で愛されているウォルト・ディズニー・アニメーション、しかもミュージカル・ファンタジー映画とあって、 誰もが笑顔になるこの試みは大成功。そして日本人のシンガーがアカデミー賞の舞台に立ったのは初めてのことで、とても喜ばしいニュースとなった。

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イディナの他、9カ国からエルサが大集合。まさに夢あふれる世界に。photo:Getty Images

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■エミネムがサプライズで登場。

さらなるサプライズは、エミネムの登場だ。「映画における楽曲や音楽が場面にどのような影響力を与えるか」というコーナーの中で、『8マイル』の映像がやや長めに映って懐かしく思っていたところだった。コーナーの映像が終わると突然、彼が現れ、その主題歌で2003年に歌曲賞に輝いた「Lose Yourself」のパフォーマンスを始めたのだ。正直、自分も一瞬何が起こったのかわからなかったし、会場でも熱狂する人もいれば、唖然とする人もいるしで、本当にサプライズだったようだ。そして残念ながら、いまも変わらない社会問題が蔓延している。

歌曲賞にノミネートされた楽曲はすべてパフォーマンスされたが、なかでも圧巻だったのは『ハリエット』から「Stand Up」を歌った主演女優でもあるシンシア・エリヴォだった。

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式の冒頭から最後まで存在感を放っていたシンシア・エリヴォ。photo:Getty Images

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■歌曲賞は2度目のエルトン・ジョン。盟友のB・トーピンは初受賞。

他の候補曲を紹介すると、ランディ・ニューマンが弾き語りをした『トイ・ストーリー4』の「I Can’t Let You Throw Yourself Away」、クリッシー・メッツが熱唱した『Breakthrough』の「I’m Standing with You」などもそう。後者はラブバラードでもお馴染みのダイアン・ウォーレンによる作詞作曲だ。彼女の名前は舞台奥に曲名とともに大きく映し出されたが、今回で10回目のノミネートとなるものの、またもや受賞できず。結果、『ロケットマン』の「(I’m Gonna) Love Me Again」が獲得した。エルトン・ジョンと苦楽を共にした作詞家のバーニー・トーピンが、「53年間の努力で到達した」と感慨深げにスピーチをしていたのが印象に残った。

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サー・エルトン・ジョンと、数々の名曲を一緒に生んできたバーニー・トーピン。photos:Getty Images

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■作曲賞は、役作りにも影響を与えた『ジョーカー』に。

作曲賞は『ジョーカー』を担当したアイスランドの作曲家であり、チェロ奏者でもあるヒドゥル・グドナドッティルが受賞。この映画は、彼女がトッド・フィリップス監督から送られた脚本を読み、登場人物の内面の変化を汲み取りながら作曲、監督はそれらの曲からインスピレーションを得て撮影に臨んだことで知られている。主演男優賞を受賞したホアキン・フェニックスも、メインテーマとなっている「Bathroom Dance」を聴いたことでジョーカーの役作りの方向性が定まったそうだ。

私は元々、チェロの音色は大好きだが、ここまで心の深淵をさぐるような、えぐるような響きを聴いたことがなかった。悲哀と温もりと揺るぎない決意とが混在し、しかも感情を押し殺したようなインパクトの強いスコアで、出だしの数秒だけで『ジョーカー』の音楽だとわかってしまう。

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■ビリーなりの哀悼の歌に心が震えた。

パフォーマンスとして最後を飾ったのは、先日のグラミー賞で18歳の若さで主要4部門を独占し、計5部門受賞したビリー・アイリッシュ。急遽出演が決まり、007シリーズの最新作『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』の主題歌を歌うのでは?と噂されていた。実際は、昨年亡くなった映画関係者を追悼する「イン・メモリアル」のコーナーで、ビートルズの「Yesterday」を兄フィニアス・オコンネルのピアノの伴奏に合わせて歌った。

1分48秒あたりに京マチ子の紹介があることにも注目を。

子どもの頃に合唱団で歌っていたことがあるほど美声の持ち主ではあるものの、痛みを抱えた悲しみにあふれた声を絞り出し、心に染みるパフォーマンスとなった。清らかな癒しの歌ではなく、澱んだ感情を歌にして浄化させていく、ビリーなりの哀悼の歌に心が震えた。

受賞結果については他に記事があるのでここには記さないものの、今回はプレゼンターたちも受賞した方々も、いままで以上にさまざまな背景を持つ人たちが壇上に上がっていた。アメリカ国籍にしたとはいえ、日本出身のカズ・ヒロ(辻一弘)は2018年に続いて『スキャンダル』でメイク・ヘアスタイリング賞を受賞した。

アメリカの最大の映画祭から、世界中の映画を平等に評価する映画祭に変わりつつあることを感じさせた今回のアカデミー賞授賞式。スピーチも世界の人々に呼びかけるメッセージを含んだものが多く、誰もが手を取り合おうとした授賞式になったのではないだろうか。まだ観ていない話題作が多々あるので、できる限り観ておきたいと思う。

*To be Continued

「第92回アカデミー賞授賞式 ダイジェスト」
放送日:
2月16日(日)20:15[字幕版]WOWOWプライム 他
3月1日(日)22:00[字幕版]WOWOWプライム 他


アカデミー賞授賞式関連の情報は特設サイトへ! 
https://www.wowow.co.jp/extra/academy/

 

伊藤なつみ

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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