Music Sketch

マシュー・ボーンの近未来版『ロミオとジュリエット』

Music Sketch

昨年、舞台で公開されて話題を集めたマシュー・ボーンの『ロミオとジュリエット』が、日本でも映画『マシュー・ボーン IN CINEMA/ロミオとジュリエット』として公開されることになった。毎回斬新な解釈で観客を魅了する英国バレエ界の鬼才マシュー・ボーンだが、この作品はシェイクスピアの古典とは、舞台設定からしてまったく違うものになっている。

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ロミオ(パリス・フィッツパトリック、右)とジュリエット(コーデリア・ブライスウェイト、左)。

それゆえ、バレエやダンスにあまり関心がなかった人でも、エキサイティングな動きや優美な踊りはもちろんのこと、コミカル感のあるパフォーマンスは無条件で楽しめると思う。また、この戯曲の結末を知っていても、ここではどのようにストーリーが運ばれていくのかドキドキするに違いない。

■22歳の振付師が加わり、斬新なダンスが展開される。

何より音楽と身体が、まるで表現力を競い合うかのようなマシューの演出によって、スリリングな最高潮を迎える。イギリスのガーディアン紙の記事(2019年8月11日)によれば、今回、アリエル・スミスという弱冠22歳の振付師が参加したことで、若いダンサーたちの動きにさらに新鮮さと躍動感が加わったそうだ。

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アクロバティックなダンスもあり、目が離せない。

舞台はヴェローナにある「ヴェローナ・インスティチュート」。いまからそう遠くはない未来にある収容施設という設定で、収容された若者たちの白い制服や建物の白い壁といったシンプルさは、観る側がどのようにでも想定できるキャンバスのようだ。ただ、ジュリエットの赤い髪だけが情熱そのものを象徴していて、彼女が舞台のどこにいてもすぐに見つけることができる。

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シンプルな舞台ゆえにミステリアスでもある(この写真にはジュリエットはいない)。

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■音楽と身体がせめぎ合うようにして一体化していくすごさも。

オープニングは曲「Dance of the Knights」で重々しく始まり、その後もこのスコアのフレーズが幾度もアレンジされて象徴的に流れてくる。もちろん音楽はプロコフィエフのオリジナルを基盤にしつつも、「Morning Dance」をはじめ、エキセントリックであったり、ダイナミックであったり、音質が強調されているように感じてしまうのは、ダンスと常に共存している視覚効果からだろうか。

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どれひとつとして同じようなダンスシーンがなく、飽きさせない。

編曲を担当したテリー・デイヴィスは、イギリスの国立劇場の音楽監督をはじめ、それこそシェイクスピア劇のオーケストラで指揮を行うなど、キャリア十分の指揮者/作曲家である。現在はマシューの会社ニュー・アドベンチャーズの一員として、すでに5作品のスコアを担当。『プレイ・ウィズアウト・ワーズ』(2002年)では03年にローレンス・オリヴィエ賞の最優秀エンターテインメントをマシューとともに受賞した。今回は、演出・振付を担当するマシューとのゼロ・コンマ数秒の狂いも許されないコラボレーションを完成させている。

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■ロミオ役のパリス・フィッツパトリックにぜひ注目を。

ストーリーは、ロミオが厳格な政治家の父と母に見放されるかのようにして「ヴェローナ・インスティチュート」へ連れて来られるところから始まる。ダンスパーティでジュリエットと出会い、すぐに恋に落ちるが、ここではシェイクスピアが書き上げた両家間における悲恋ではなく、抑圧された環境下での悲恋へと置き換えられている。また、古典ではジュリエットの母の甥であるティボルトが、ここではジュリエットに目を付けた監視員というように、配役もリメイク。また、精神的な病やセクシュアルハラスメントなども描かれ、問題提起も随所に登場する。

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ラストのラストまで、台詞不要のふたりの熱演をぜひ見届けてほしい。

最後になってしまったけれど、繊細な少年ロミオを演じるパリス・フィッツパトリックと、情熱的なジュリエットを演じるコーデリア・ブライスウェイトの演技が、まさに新星登場!といった輝きと情熱にあふれていて実に素晴らしい。マシューはこの古典から抑圧された10代の悲恋を抜粋し、そこを存分に描きたかったそうだが、ここでは女性の方が逞しく描かれているせいか、パリス・フィッツパトリックの切ない表情が特に胸に響く。10代に限らず観る人多くの心に、誰にも止められないほど人を愛することの情熱をよみがえらせるような熱演ぶりだ。

『マシュー・ボーン IN CINEMA/ロミオとジュリエット』
●演出・振付/マシュー・ボーン
●出演/パリス・フィッツパトリック、コーデリア・ブライスウェイト、ダン・ライト、ベン・ブラウン、ジャクソン・フィッシュほか
●2019年
●91分
●配給/ミモザフィルムズ
●6/5(金)よりYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
http://mb-romeo-juliet.com
© Illuminations and New Adventures Limited 2019

※映画館の営業状況は、各館発信の情報をご確認ください。

*To Be Continued

伊藤なつみ

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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