Music Sketch

ハイムの三姉妹が、待望のニューアルバムについて語る。

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コロナ禍で自粛が求められ、しかも気候の変化で体調を崩しやすかったり、気分がすぐれなかったりすることの多い昨今。そんな時にオススメのアルバムが、ハイムの最新アルバム『WOMEN IN MUSIC PT.Ⅲ』だ。アコースティックな響きの多い脱力系というか、何より本人たちがリラックスして演奏しているのが心地よい。実際、このアルバムを制作したことが彼女たちのセラピー効果となり、三姉妹ともに成長した自分たちを認めている。

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最新アルバム『WOMEN IN MUSIC PT.Ⅲ』。発売中。写真左から、長女エスティ(Ba, Vo)、次女ダニエル(Gt, Dr, Vo)、三女アラナ(G, Vo)。歌詞は3人で共作している。

■曲が出来た時の雰囲気を重視したアルバムに。

ハイムはカリフォルニア出身の三姉妹バンドとして2012年に「Forever」でデビューし、翌年にアルバム『Days Are Gone』が世界的に大ヒットした。テイラー・スウィフトのツアーに誘われたことでさらに爆発的な人気を呼び、いっぽうダニエルは話題になる前からジュリアン・カサブランカス(ザ・ストロークス)のツアーにギタリストとして参加するなど、ミュージシャンとしての評価も高い。

しかし人気者ゆえ、常に売れなくてはいけないというプレッシャーもあった。鬱状態に陥ったこともあれば、私生活で悩みを抱えていた時期もある。

前作『Something to Tell You』以来の2年ぶりのシングルとなった「Summer Girl」は、2枚目のアルバム制作時に、ダニエルのパートナーで、アルバムの共同プロデューサーでもあるアリエル・レクトシェイドが重い病気にかかった時に(現在は完治)、ダニエルが落ち込んでいるアリエルを照らす光になりたい、希望になりたいと、口ずさんでいたフレーズから生まれた曲だ。

そして、曲を完璧な演奏や音響で仕上げるよりも、「いい曲ができた!」と思った、その雰囲気を重視した形でリリースすることを決めたという。それが昨今のように頻繁に新曲を発表するハイムのスタイルへと繋がっている。

「Hallelujah」は、アラナの親友が20歳の時、最初のツアーが始まる2週間前に不慮の自動車事故で亡くなったことが曲のベースになっている。アラナがしばらく蓋をしていた悲しみの扉を開け、そこにふたりの姉が、姉妹や大切な人たちとの絆を込めて歌詞を連ねていった歌である。

また、ここ数年#MeToo運動をきっかけにエンターテインメント業界でもフェミニズムやジェンダー平等に関する発言が活発化しているが、ハイムも積極的に発言しているアーティストである。そのせいかアルバムには、性差別的な男性との会話をウィットに富んだ歌にした「Man From The Magazine」のような曲もある。

さらには、ハイムがすべて自分たちで決めて活動していることを宣言したという「The Steps」のミュージックビデオをはじめ、インスタグラムなどで三姉妹は下着姿を見せることが増えているが、それはセクシーというよりも、男性が普通にトランクス姿で登場するようなカジュアルな感覚を思わせる。このように今回のアルバムで、前作以上に伸び伸びとオープンになっているハイムを感じることができる。

そういった心情を吐露した歌詞が、ジョニ・ミッチェルやシェリル・クロウを想起させるような、さらにはスカやR&B、ヒップホップなどをミックスした緩やかなサウンドに乗って流れてくるのだ。

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■鬱の経験や病気のことを、曲の中で話せるようになった。

7月1日に、ロサンゼルスで別々の場所にいる3人に質問を投げかけてオンラインインタビューを試みた。

――最新作を含めてこれまでアルバムを3枚発表しましたが、それぞれ自分たちのどのような面が表現されてきたと思いますか?

アラナ・ハイム:『Days Are Gone』での私たちは、ベイビーだった。

ダニエル・ハイム:(笑)。

アラナ:『Days Are Gone』には、アルバムのレコーディングの5年前に作っていた曲もたくさん入ってる。だからこのアルバムを振り返ると、この時の私たちはすごく純真だった。実家のリビングルームで曲を作り、LAの外に出てショウをやることを夢見ていたわ。LA以外の場所なら、どこでもいいって思っていたの。そして、このアルバムで私たちはそれができるようになった。2枚目の『Something to Tell You』では、何を表現したかったのかな?

エスティ・ハイム:私たちは、自分たちを表現するために奮闘していたと思う。どうやってコミュニケーションするかを探ろうとしていた。それがあのアルバムの大きなテーマだったんじゃない?

アラナ:そうね。

エスティ:何かを感じたその瞬間に、その感情を的確に表現するのは難しいのよ。自分たちを正直に表現したいけど、それと同時にためになるやり方で表現したいし、繊細でもありたいし。だから、それをどうやるかということを私達は『Something to Tell You』で感じていたことだと思う。そして今回の『WOMEN IN MUSIC PT.Ⅲ』では、私たちはこれまでで最高に正直で、無防備になってる。まるで一周して元に戻ったような感じ。コミュニケーションに関しては、もっと学んで、より良いやり方を知ることができるだろうとは思うけれど。

アラナ:いまも私たちはそれを学んでいるけど、前よりは良くやれるようになったのよ。

エスティ:そうね。前より良くなった。自分たちを落ち込ませるようなことを、前よりもラクに話せるようになったと思う。鬱の経験とか、喪失の経験とか、病気のこととか、自分たちを信じて無防備になって、曲の中で話せるようになったわ。

ダニエル:このアルバムは、少しふざけてておもしろい作品だと私達は感じてた。そうやって、物事をあまり深刻に捉えすぎないようにしている。それは変わってないと思う。私たちはいまでもふざけ合っているし、大変な状況にあっても、楽しもうと試みている。そうやって楽しもうとしないと、クレイジーになってしまう気がする。

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写真左から、ダニエル31歳、エスティ34歳、アラナ28歳。

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■コロナの自粛生活で、私という人間を愛する必要性を感じた。

――「The Steps」はどういうきっかけから生まれた曲ですか?

アラナ:多くの人が「The Steps」は恋愛関係の曲、パートナーのことを歌った曲だと思われているみたいだけど、そうじゃない。私たちが一緒に仕事をする人たちに、すごく誤解されていると感じていることを歌っている。私たちは常に自分たちで舵を取って決めてきたし、私たち自身の会社のCEOだった。でも時々、ハイムのビジョンを疑われて、一緒に仕事している人に、「いや、こうするべきだよ」とか指図される。それで「あなたたちはわかってない、何もわかってない」って思い続けていて、それを曲にしたわけ(笑)。

――この曲の映像をはじめ、3人とも下着姿をミュージックビデオやインスタグラムなどでも見せることが増えたように思います。ありのままの自分たちを表現したかったからですか? 

アラナ:私たちはただ、やりたいことをやりたい時に、やりたいようにやってる。それが私たちのやり方なのよ。

エスティ:そして、そのやることについて弁解しない。

――すでに完成していた曲が、新型コロナウイルスの影響でアルバムが2カ月発売延期になったことで、新たな意味合いを持つようになった曲はありますか?

アラナ:「I Know Alone」は、長い間ツアーに出ていた後に家に戻ったら、その間に自分がいないところでたくさんのことが起こっていたのに気づいて、家族や友達の中に飛び込んで彼らと繋がりたいのに、とても疎外感や孤独感を感じたことについての曲だった。どうやって彼らとまた繋がったらいいかがわからなくて悩んでいたの。

――そうだったんですね。

アラナ:そしてコロナで自粛生活が始まった後は、自分の頭の中や感情の中で孤独になるだけじゃなくて、自分の家の中で孤独になった。家にひとりでいて、鏡の中の自分を見て、私はこの私とずっと一緒にいられるかしらって。毎日、私と一緒にいなきゃならないんだから、私という人間を愛する必要があるって思ったわ。だから、この曲はそんな風に変化して、まったく新しい意味を持つようになったの。

自粛中の撮影となり、リモートで振り付け指導されたことも話題になった。

――リスナーにも深い意味をもたらしそうですね。今回のアルバムで、歌詞がまとまるのにいちばん苦労したのはどの曲ですか?

アラナ:そんなに苦労はしなかった。でも「Hallelujah」はアルバム制作の初期に作った曲だったから、この曲を書き上げたことで、『WOMEN IN MUSIC PT.Ⅲ』の制作の旅路が本当に開かれたような気がする。この曲を作った経験がなかったら、私たちはアルバムの他の曲で、ここまでオープンになることはなかったように思う。

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■ポール・トーマス・アンダーソンとは家族のような関係。

――ハイムは他のミュージシャンからコラボレーションに誘われることが多いですが、あなたたちがいま、気になっているミュージシャンやシンガーはいますか?

エスティ:私は、ロザリアがすごく好き。

アラナ:ロザリアは素晴らしいよね。それから、ソランジュも良く聴いてる。彼女は最高だと思う。あと、クレイロ、サッカー・マミーも大好き。素晴らしい音楽をたくさん女性たちが発表しているわ。私たちは、すべての女性アーティストの大ファンよ!

――前のアルバムから映画監督のポール・トーマス・アンダーソンがミュージックビデオを撮影していますが(この記事で紹介した中では、「I Know Alone」「Don't Wanna」以外のすべてを監督)、センスがとても合う感じなのでしょうか?

ダニエル:知り合ったのは2015年か、2014年ね。

アラナ:私たちは昔から彼の大ファン。初めて『ブギー・ナイツ』を見た時、「これ最高」って思ったのを覚えているわ。それで、共通の友人のエレクトリック・ゲストのエイサ(・タッコーネ)が引き合わせてくれたの。会った瞬間に、彼と気が合って家族のような関係になった。いまでは彼は、私たちのレコード制作プロセスにおいて重要な役割を担っているわ。心から信頼していて、彼と一緒に仕事ができて本当にありがたいと思ってる。

――SNSにはハンソンの「MMMBop」をカバーしたおもしろい映像をアップしていたり、クスッと笑える写真や映像がよく載っています。そういったウィットに富んだおもしろいことを言い出すのは三姉妹のうちで誰が多いのですか?

ダニエル:エスティよ(笑)。

アラナ:でも、あのコスチュームのために、あなたのブレース(矯正装置)を作ったのは私よ。

エスティ:そうね。でもウィッグを被ったのは誰よ?

アラナ:あなたがウィッグを被って、私がコスチュームを着て、ブレースを着けた。最高だったわ。

エスティ:私はおもしろいのよ、すごく(笑)

*To Be Continued

伊藤なつみ

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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