Music Sketch

音楽の源であるインディアンたちの音楽ドキュメンタリー。

Music Sketch

『ランブル 音楽界を揺るがしたインディアンたち』は、その副題が示すように、ミュージックシーンにしっかりと爪痕を残してきたインディアン(ネイティブ・アメリカン)のミュージシャンたちを取り上げた映画である。

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先住民族のボーカルグループ、ウラリ。©︎Rezolution Pictures  

コメントを寄せるために登場した豪華な顔ぶれから、インディアンの音楽がどれほど影響を与えてきたかがわかるだろう。映画監督のマーティン・スコセッシにはじまり、クインシー・ジョーンズやジョージ・クリントン、トニー・ベネット、バディ・ガイ、スティーヴン・タイラー(エアロスミス)やスラッシュ(ガンズ・アンド・ローゼズ)……、ほかにも歴史研究者や詩人など、数多登場する。それだけではない。ジミ・ヘンドリックスの祖母や妹といったミュージシャンの家族が貴重な証言をしたり、レアな映像も次々と流れたりするなど、引き出しをテンポ良く開ける毎に、個性的な音楽家が紹介されていく。

 

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■自分たちの存在意義を音楽に託したインディアン

アメリカと呼ばれる広大な大陸に入植してきた白人による、アフリカから奴隷として連れてきた黒人に対する扱いの酷さは言うまでもなく、先住民に対する扱いにも酷いものがあった。歴史家/遺伝学者のマリック・ジャーヴィスが説明しているが、「先住民は狩猟民族ゆえ、逃げる方法も反撃する方法も知っている。そこで、先住民は女性を残して男性はアフリカへ送られ、また、アフリカから運ばれた奴隷の9割は男性だったため、南北戦争以前のアフリカ系アメリカ人は先住民の先祖を持つ人が多いのだ」という。明治学院大学の野口久美子准教授の記事によれば、入植当時、200以上の言語を話す、500以上のインディアン部族がいたという。

19世紀を代表する作家ナサニエル・ホーソーンの小説に代表されるように、当時のインディアンは邪悪なものとされていた。先住民が土地の所有権を主張すると射殺されるのは当たり前のことで、19世紀末のアメリカ軍は、女性や子どもを中心とした300人を超すダンサーを殺害し、文化や音楽さえも弾圧しようとしていた。

キンクス、ジミー・ペイジ(レッド・ツェッペリン)、ピート・タウンゼント(ザ・フー)らに大きな影響を与えたリンク・レイ。

しかし、そのような境遇の中で生き長らえ、引き継がれてきたインディアンたちのメロディやリズム、音楽のアイデアは、肌の色を超えたミュージシャンたちの心を震わせ、音楽の未来を創っていく。音を思い切り歪ませ(ディストーション)、いままで聞いたこともないようなフィードバックされたノイズで圧倒したリンク・レイ(ショーニー族)による楽曲「ランブル」(1958年)を皮切りに、この映画では歴史を遡りながら、その存在意義を託した音楽の魅力を伝えていくのである。

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演奏のセンスを絶賛されたギタリスト、ジェシ・エド・デイヴィス。ジャクソン・ブラウンの曲「Doctor My Eyes」でのギターが特に評判を集めた。photo : Getty Images

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■アメリカ南部の生活や祭り、昔の貴重な映像も紹介

この映画は、インディアンの血を引くミュージシャン側からの視点で語られるいっぽうで、音楽の影響に加え、インディアンの衣装がヒッピーに好まれたことなど、文化面での影響も取り上げられていて興味深い。

祭りから演奏風景まで印象的なシーンは多く、なかでも1965年のアメリカのTV番組にザ・ローリング・ストーンズのブライアン・ジョーンズとミック・ジャガーが出演し、ブルーズを愛する2人がハウリン・ウルフ(チョクトー族)を紹介する場面は衝撃的だ。ウルフは、若い女の子たちがキャーキャー熱狂する場面で登場すると、「いったいあと何年、俺をこんな目にあわせるんだ?」と歌い始めるが、腰を振って歌うからだろうか、若者たちはそれを笑顔で手拍子するのである。なお、ストーンズやビートルズなどイギリスのバンドを通じて、ブルーズがアメリカの白人に知らされたというのは周知の事実とされている。近年白人の若者の間でも人気の高いヒップホップの現状にも、アフリカン・アメリカン等による歌が生まれる背景と白人の理解とのギャップは確実に存在している。

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チャーリー・パットン(チョクトー族)。デルタ・ブルーズの父と呼ばれる。
©︎From the collection of John Tefteller and Blues Images

そしてアイヴァン・ネヴィル(チョクトー族/ザ・ネヴィル・ブラザーズ)は、ニュー・オーリーンズの名物料理であるガンボを例にあげ、「いろんな味が混ざっておいしくなる」としながら、自分には先住民とハイチ人とフランス人とイタリア人の血が入っていると説明する。現在まで多様化している人種同様に、音楽も先住民の4つ打ちリズムとアフリカから渡ってきたポリリズムが融合し、それをアメリカの音楽の基本としながら、さらに多彩になっているのである。

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■インディアンの血を引く著名ミュージシャンが続々登場

この映画の制作の総指揮を担当したのは、スティーヴィー・サラス(アパッチ族)。私が彼の音楽に夢中になったのは彼がジミヘンの再来といわれていたアルバム『Stevie Salas Colorcode』(1990)の頃だけれど(それ以前はPファンク系やロッド・スチュワートのツアーギタリスト等で活躍)、最近は日本でもB’zの稲葉浩志との共演などで新たなファンを増やしている。

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スティーヴィー・サラス。卓越したギタープレイで日本での人気も高い。©︎Rezolution Pictures

ほかにもロビー・ロバートソン(モーホーク族)、ジェシ・エド・デイヴィス(カイオワ族/ジャクソン・ブラウンやロッド・スチュワート等のギタリストとして活躍)、ランディ・カスティーヨ(イスレタ・プエブロ、アパッチ族/オジー・オズボーンのバンドでドラムス担当)、タブー(ショショーニ族/ブラック・アイド・ピーズ)など、世界的に活躍してきたミュージシャンや注目されてきた楽曲が多数登場する。

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タブー(ブラック・アイド・ピーズ)も自分のルーツと音楽について語る。photo : Chris Rutkowski

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バフィ・セイント・マリー(クリー族)。現在は社会活動家としても活動中。photo : Getty Images

過酷な歴史の中でインディアンが引き継いできた音楽や文化を知り、そこからさらなる発展を遂げた音楽の素晴らしさを再認識できる。加えて、出自を大切にするメッセージにより、「生きる意味を再考しよう」と観る側にも問いかけるような貴重なドキュメンタリー映画である。

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ミルドレッド・ベイリー(コー・ダリーン族)。女性で初めて楽団専属歌手として活躍したジャズ歌手。photo : Getty Images

『ランブル 音楽界を揺るがしたインディアンたち』
●監督/キャサリン・ベインブリッジ 
●共同監督/アルフォンソ・マイオラナ
●出演/リンク・レイ、チャーリー・パトン、ジミ・ヘンドリクス、ロビー・ロバートソン、ジェシ・エド・デイヴィス、タブー(ブラック・アイド・ピーズ)、マーティン・スコセッシほか
●2017年、カナダ映画
●102分
●配給/マーメイドフィルム、コピアポア・フィルム 
●8/7(金)より渋谷ホワイト シネクイントにて公開、ほか全国順次ロードショー
http://rumblethemovie-japan.com

※新型コロナウイルス感染症の影響により、公開時期が変更となる場合があります。最新情報は各作品のHPをご確認ください。

*To Be Continued

伊藤なつみ

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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