Music Sketch

悩みながら生きていく仲間や家族を描いた『mid90s』。

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ラストに2回、感動が押し寄せてくる。登場人物の背景はそれぞれ複雑だ。おそらく主人公スティーヴィーと兄イアンは父親が違うだろう。もしかしたら、スティーヴィーは自分の父親が誰なのかも知らないかもしれない。

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写真左から、兄イアン(ルーカス・ヘッジズ)と主人公スティーヴィー(サニー・スリッチ)。懐かしいゲーム機も登場。

誰もが心の拠り所を求めながら、素直になれないという葛藤

時代は1990年代半ばのロサンゼルス。スティーヴィーは少しでも早く大人になりたいと願う少年で、スケートボーダーの仲間になり、彼らと「自分の人生は最悪だと思うなかで、どうやって生きていくか」という悩みを抱えながら日々を過ごしている。しかしその悩みは、彼らの周辺にいる女子たちも、筋トレだけに生きがいを感じているスティーヴィーの兄や、心身の拠り所を求めている、シングル・マザーのスティーヴィーの母にしても同じである。そしてその不安は、いまの世相にも通じるものがあるだろう。

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主人公スティーヴィーのことを温かく見守るレイ(ナケル・スミス)。

心温まるシーンのひとつは、スティーヴィーが、彼にとって兄貴的存在であるレイと一緒に過ごしている場面だ。同世代の友人や家族は大切なものの、少し違った視点から見守ってくれる歳の離れた先輩がいることは、彼の人生にとって刺激的で安心感にも繋がっている。

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スケートボードと音楽を軸に、90年代のLAが蘇る

この『mid90s』では、さまざまな背景を持った登場人物がいるのと同じくして、当時を彷彿させるさまざまな音楽が次々と流れるのがいい。スティーヴィーがスケートボーダーたちの仲間に入るシーンではビッグ・エルの「Put It On」(94年の大ヒット曲、ビッグ・エルは24歳の時に射殺されている)、技を競い合うシーンにはファーサイドの「I’m The type of Nigga」(90年代の西海岸を代表するヒップホップ・グループのひとつ。92年のデビューアルバムに収録)といったアップテンポの音楽が、意味を持ちながら流れていく。

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スケートボーダー仲間を演じる5人は、実際にプロであったり、人気のチームに所属したりしている。

グランジやヒップホップ系の音楽が多いものの、世代を超えて誰もが知っている名曲も使用されている。スケーター仲間でLAのブルーバード(大通り)を滑っていくシーンには、ママス&パパスの「Dedicated To The One I Love」(西海岸で結成された男女のフォークグループ。ファイヴ・ロイヤルズのカヴァー曲で67年に大ヒット)。女子たちとのパーティの場面では、ハービー・ハンコック「Watermelon Man」(常に最先端のジャズを追求するハンコックが21歳の時、62年に大ヒットさせた)といった楽曲が映像に情感を添えていく。

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スケートボードとパーティの日々で、スティーヴィーの世界が広がっていく。ガールフレンド、エスティー(アレクサ・デミー)と。

モリッシーの名曲「We’ll Let You Know」が流れる場面に注目

音楽とともに引き込まれる、個人的に気に入っている見せ場は、スティーヴィーのことを心配するレイが、彼の心に寄り添うようにして自身の話を打ち明けた後に、夕方から明け方まで一緒に過ごすシーンだ。場面に合わせてモリッシーの「We’ll Let You Know」(ザ・スミス時代からカリスマ的人気を誇る。92年のソロ曲)をBGMに採用するセンスも見事だが、ブルーバードを滑るスティーヴィーが以前に比べて大人の表情になっている点にも注目したい。続くGZA(ギザ)の「Liquid Swords」(92年にNYで結成されたヒップホップ・グループ、ウータン・クランのメンバー。この曲はソロとして95年に発表)はジョナ・ヒル監督が子ども時代でいちばん決定的な曲だったので、どうしてもここで使用したかったという。

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劇中でプロスケーターとしての実力を披露するナケル・スミス。

このほか90年代へと一瞬にして誘う音楽が満載だが、この映画では無音のシーンも多く、その緩急の効果が観客をストーリーに釘付けにしていく。そしてなんと言ってもオリジナルスコアを担当したトレント・レズナー&アッティカス・ロス(ナイン・インチ・ネイルズ)の「Big Wide World」が心に染み込んでいくのだ。

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俳優ジョナ・ヒルが、スパイク・ジョーンズの勧めで脚本/監督を

この映画は気鋭の映画スタジオA 24(『ムーンライト』、『レディ・バード』、『ミッドサマー』ほか)によるもので、しかもいまや映画音楽の分野でも実績を残しているレズナー&ロスが担当しているというだけでも気になっていた。そして、監督/脚本はコメディ映画などを中心に活躍している性格俳優ジョナ・ヒルというのも興味深い。さらには、ジョナ・ヒルから脚本のアイデアを聞いたスパイク・ジョーンズがヒルにアドバイスしたことで、半自叙伝的なストーリーとして実現したというエピソードまである。注目されて当然だろう。

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写真右:ふたりに演技指導するジョナ・ヒル監督

ネタバレしたくないので詳細は書かないが、おそらく母親は自分が欲していた愛に近いものを、スティーヴィーの仲間がソファで爆睡している姿に見出したのだろう。そして、そこからの展開も違う意味で最高なのである。ジョナ・ヒルが「自分は編集好き」と話しているだけあって、85分という長さに収め、しかも最後の最後まで、うまい!と思わせる作品だ。

『mid90s ミッドナインティーズ』
●監督・脚本/ジョナ・ヒル
●出演/サニー・スリッチ、キャサリン・ウォーターストン、ルーカス・ヘッジズ、ナケル・スミスほか
●音楽/トレント・レズナー、アッティカス・ロス
●2018年、アメリカ映画
●85分
●配給/トランスフォーマー 
●全国公開中
www.transformer.co.jp/m/mid90s
© 2018 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.

※新型コロナウイルス感染症の影響により、公開時期が変更となる場合があります。最新情報は作品のHPをご確認ください。

*To Be Continued

伊藤なつみ

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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