ビヨンセは第63回グラミー賞で何部門受賞できる?
Music Sketch
先日、2021年3月14日(日本時間3月15日)に開催される第63回グラミー賞授賞式のノミネーションが発表された。(当初は1月31日の予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて延期となった)
最多ノミネートは9部門に名前のあがったビヨンセで、彼女のシングル曲「ブラック・パレード」とミーガン・ジー・スタリオンの楽曲でコラボした「サヴェージ・リミックス」が、それぞれ主要部門のひとつである年間最優秀レコードにノミネートされ、「ブラック・パレード」はさらに年間最優秀楽曲、最優秀R&Bソング、最優秀R&Bパフォーマンスにノミネート。「サヴェージ・リミックス」は最優秀ラップ・ソングと最優秀ラップパフォーマンスにもノミネートされた。加えて、ビジュアル・アルバム『ブラック・イズ・キング』が最優秀ミュージック・フィルムに、「ブラウン・スキン・ガール」は最優秀ミュージック・ビデオの候補になっている。
3児の母親でもあるビヨンセ、39歳。photo:Getty Images
圧勝が予想された第59回は、9部門中2部門の受賞。
グラミー賞でのビヨンセといえば、すぐに思い浮かぶのが17年に開催された第59回授賞式だ。この時のビヨンセも9部門にノミネートされていた。シングル「フォーメーション」のミュージック・ビデオはニューオーリンズを舞台に撮影され、歌の内容は、基本は女性賛歌でありながら、映像では2005年に起きたハリケーン「カトリーナ」の災害余波やBlack Lives Matterという人種問題、さらに現地特有の文化などについても焦点を当てていた。この曲を含むビジュアル・アルバム『レモネード』ではビヨンセのルーツを扱ったほかに、夫ジェイ・Zの浮気問題が浮上したこともあって、かつてなく自身の感情を露わにした作品として注目された。
ビヨンセが全身全霊をつぎ込んだとされるこれらの作品は圧倒的な注目と高い評価を得て、2016年はビヨンセ旋風の一年となった。しかし翌年の第59回授賞式では、主要部門は全て逃し、2冠のみとなった。多くの音楽ファンは、ビヨンセが黒人女性だから受賞できなかったのだろうと思ったはずだ。アデルは主要3部門を独占したことで困惑し、ステージから最前列に座っていたビヨンセに賛辞を贈り、ビヨンセがその言葉に涙ぐんだシーンは印象的だった。
「フォーメーション」の映像を見ればわかるように、黒人の少年と警官隊は争わずに平和を望んでいるし、黒人女性がカラフルなウィッグを楽しんでいるのも、自分たちの美を生かした白人女性とは違う個性を楽しみたいのであって、全体的に人種的正義を冷静に語りかけているものだ。しかし、主要部門をひとつも受賞できなかったのは人種問題が根底にあるからだとされた。そう思われても仕方がないだろう。
コーチェラ・フェスやディズニー作品で黒人文化の偉大さを表現。
第59回グラミー賞の授賞式の時に双子がお腹にいたビヨンセは、出産後、歴史的快挙と呼ばれた2018年のコーチェラ・フェスティバルでの大舞台Homecomingを成功させ、2019年には超実写映画『ライオン・キング』の声優と併せてアルバム『ライオン・キング:ザ・ギフト』を制作。2020年には、そこからの流れで黒人文化を描いたビジュアル・アルバム『ブラック・イズ・キング』を同じく発表した。
「ブラック・パレード」は今年Black Lives Matter運動が再燃した際、ビヨンセが故郷テキサス州で1865年6月19日に発令された黒人奴隷解放宣言をした記念日(Juneteenth)に配信した楽曲だ。まったく戦闘的な内容ではなく、アフリカン・ハーモニーを生かしたナンバーで、黒人の生き方を問い、母国を称えた、黒人賛歌である。
また、「ブラウン・スキン・ガール」は『ライオン・キング:ザ・ギフト』に収録され、娘のブルー・アイビーも共演、またミュージック・ビデオでも出演していることでも話題になった。さらにこの曲は『ブラック・イズ・キング』にも収録され、ビジュアル・アルバムでは歌詞に登場するナオミ・キャンベルやケリー・ローランド、メキシコ生まれのケニア人で、女優でありオスカーを受賞した映画監督でもあるルピタ・ニョンゴらが出演。ビヨンセは薄い肌色である自分を前面に出すより、より濃い肌色で成功した著名女性を前面に出すことで、自分の娘を含めて、ブラウンや黒い肌の女性を称賛した。
ビヨンセは、これまで白人のミュージシャンが中心となりがちだったコーチェラ・フェスで、黒人女性のソロ・アーティストとして大トリを務め、そこで歴史的黒人大学を象徴するマーチングバンドの演奏から始まる、黒人文化をテーマにしたショーを展開した。大成功の結果、ビヨンセのニックネームQueen Beyから“ビーチェラ”と呼ばれるほどにまでなった。さらに、白人主義と言われがちだったディズニーで、黒人女性が中心となって黒人文化を扱ったビジュアル・アルバムと呼ばれる作品『ブラック・イズ・キング』を製作した意義も大きい。
アルバムは常に映像とセットで発表し、その意義を伝えてきたビヨンセ。
このビジュアル・アルバムというのは、彼女が13年12月13日に突如iTunesから発売した『ビヨンセ』の時から使用している名称で、この時は14曲とミュージック・ビデオ17本で構成した作品となっている。以後、ビヨンセはアルバムを発表する際は必ず映像と楽曲をセットにして発表。『ブラック・イズ・キング』は今のところディズニー・プラス限定で視聴でき、そのまま映画のように観ることができるが、ミュージック・ビデオの連続としても鑑賞できる。
娘ブルー・アイビーが誕生した時は、娘の将来を案じてフェミニスト宣言をするなど男女平等の世界を声高に歌ってきたビヨンセだが、男女の双子が生まれてからは『ライオン・キング』の主人公シンバに息子の姿を重ねながら、黒人として生まれた威厳についても考えるようになったという。しかしながら、この『ブラック・イズ・キング』の最後では男性のナレーションで「男はいくつかのことを教えてくれたが、女はもっとたくさんのことを教えてくれた」といった、母なる大地を語るかのような言葉で締められている。
もちろんほかにノミネートされた楽曲もアルバムも、そしてアーティストたちにもそれぞれ素晴らしいものが多いが、人種問題が再燃し、また大統領がトランプからバイデンに交代するこのタイミングに、黒人の威厳を誇り、また女性賛歌を歌い続けてきたビヨンセにどのくらい票が集まるのか気になるところだ。言い換えれば、今回主要部門を1つも獲れなかったならば、いったいどのような作品を発表すればビヨンセは受賞できるのだろうか。
第62回グラミー賞授賞式より
2021年3月15日(月) 9時より生中継(予定) [WOWOWプライム]
「第63回グラミー賞授賞式」 ※字幕版
2021年3月15日(月)22時より [WOWOWプライム]
グラミー賞授賞式の最新情報は特設サイトへ。
https://www.wowow.co.jp/music/grammy
*To Be Continued