Music Sketch

デヴィッド・バーンとスパイク・リーが評判の舞台を映画化!

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デヴィッド・バーンとスパイク・リーがタッグを組んだと聞けば、それだけで興奮する人はいると思う。もちろん自分もそのひとりだ。デヴィッド・バーンといえば、アート系の大学の友人たちと結成し、一世を風靡したトーキング・ヘッズでの活動を筆頭に、世界各地のユニークな音楽に着目したルアカ・バップ・レーベルの設立や、ブライアン・イーノ、ファットボーイ・スリム、セイント・ヴィンセントなどと多彩な組み合わせで音楽を発表してきた。このほか、映画音楽や写真、イラスト、エッセイ等、多岐にわたる才能でも知られる。なお、映画でいうなら、トーキング・ヘッズ時代の『ストップ・メイキング・センス』(1984年、ジョナサン・デミ監督)が有名だ。

スパイク・リーは人種問題を扱った映画『ドゥ・ザ・ライト・シング』(1989年)をはじめ、『マルコムX』(92年)など衝撃的な傑作を発表し続け、最近は『ブラック・クランズマン』(2018年)でアカデミー賞の作品賞、監督賞等にノミネートされ、脚色賞を受賞。その後はネットフリックスから、アフリカ系アメリカ人のベトナム帰還兵たちを主人公にした『ザ・ファイブ・ブラッズ』(20年)を発表している。ここでは白人/黒人という二項対立に加え、アメリカ兵/ベトナム兵、さらにはフランス人、ドイツ人と何層にも描き、アフリカ系アメリカ人とアジア人による共感部分や、公民権運動の拡大や反帝国主義など、ドメスティック面からもグローバル面からも人種差別反対運動を取り上げた秀作となっている。

210423-main.jpg照明を効果的に活かすためにグレーの衣装にしたという。

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ミュージシャンとして、さらに責任のある行動に出たかった。

同時代にニューヨークでデビューし、活躍してきたバーンとリーは、早くからお互いをリスペクトしていたという。そしてバーンは、ソロアルバム『アメリカン・ユートピア』(18年)を元にブロードウェイ向けに再構成したショウが大好評だったため、映画化するにあたり、その監督をリーに依頼することを思いついたそうだ。

210423-sub1.jpg写真中央のデヴィッド・バーンを含め、ダンスにも目を奪われる。

アルバム制作時の資料によれば、このユートピア(理想郷)はトランプ政権下におけるアメリカへの皮肉ではなく、「アルバムの曲で、いまの自分たちが住む世界を描こうとした」という。その世界を見つめることで「もっと良い方法、異なった別の方法はないのか?」と自問自答することとなり、「ここに収録した曲は間接的にそれらの問いかけについての歌だ」と、説明していた。そして今回、「いま、世界で起きていることを表現したかった。ミュージシャンとして、これまでよりもさらに責任のある行動に出たかったんだ」と、バーンは話している。

このショウを収めた映画『アメリカン・ユートピア(原題/DAVID BYRNE’S AMERICAN UTOPIA)』では、トーキング・ヘッズ時代の曲が9曲、『アメリカン・ユートピア』から5曲、その他にもファットボーイ・スリム、セイント・ヴィンセントとコラボしたアルバムからも1曲ずつ、ソロ作からの曲もあり、ファンにはもちろんのこと、どこかで耳にしたことのある曲が流れてくるはずだ。“home”を意識した曲が多いことからも、違和感のない選曲になっており、バーンらしいリズミカルで躍動感のあるアップテンポのナンバーが心身を踊らせる。

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人間性は頭の中だけではなく、他者との繋がりでできあがる。

冒頭で脳の模型を手にして現れたバーンは、人間の神経細胞や脳の進化について語り始める。これがうまいことに、映画を観終えた後に、最初に戻って観なおしたくなる仕掛けのように感じられるのだ。舞台に上がった12名の動きにまったく無駄やズレがないように、MCも的確で、トーキング・ヘッズ時代の曲「I Zimbra」の演奏前には、ナチスによるファシズムの時代に個人の独立の精神を貫こうとしたダダイストの話から、その芸術家のフーゴ・バルの詩を歌詞に使用した話が導入される。また、スコットランドからニューヨークへやってきたバーンは、「移民なしでは結成できなかったバンド」として、多国籍のバンドメンバーを紹介し、移民の国アメリカならではの選挙の重要性についても強く訴える。

210423-sub2.jpg脳の模型を手にしながら話すデヴィッド・バーンは学者のよう。

さらには、17年1月の大規模なウーマンズ・デモで披露されたことでも注目されたジャネール・モネイの「Hell You Talmbout」を、モネイから許可をもらって歌っていると説明した上で披露。白人からの暴力の犠牲となったアフリカ系アメリカ人の名前を連呼し、彼や彼女たちの写真をスクリーンに映し出しながら追悼した。ここでは監督であるリーの協力や意図もあったであろうと想像できるほど、強烈なインパクトを残す。ショウの終盤には、「僕らの人間性は幸いにも頭の中だけではなく、他者と繋がることによってできあがっていくのです」と、バーンはメッセージを送る。

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ここはユートピアではないが、実現する可能性についても伝えたかった。

こう書いていくとメッセージ性の強いステージのように思えるかもしれないが、観客の笑顔や揺れる会場が示しているように、見た目からして楽しく、洗練されたパフォーマンスに釘付けになる。黒人音楽の特徴であるマーチングバンドを想起させるパーカッションを重視した演奏をはじめ、計算し尽くされた動作やダンスは、リーの視点によって象徴的に記録され、さらには今年69歳になるというバーンのエネルギッシュなパフォーマンスに魅せられる。60歳を過ぎても常に表現者として問題提起していくバーンとリーの姿は、観る人々を刺激する。そしてその場で体感しているような生命感や臨場感に溢れるこの映画は、終演後の様子、最後の最後まで楽しませてくれるのだ。

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振り付けや舞台装置も見事だが、随所のカメラアングルも素晴らしい。

『アメリカン・ユートピア』のニューヨーク公演は2019年10月から2020年2月まで上演されたが、コロナ禍以前に開催されたことは、いまや奇跡のように思えてくる。バーンは、このタイトルに込めた思いとして、次のように語る。「僕たちがいるのはユートピアではないが、それを実現する可能性についても伝えたかった。言葉で語るのではなく、それを見ることができる。そして、その心地いい手ごたえを感じることもできる」

未だにこのような熱情に触れられる機会は激減するばかりだが、少しでも、ライヴ感をスクリーンから体感していただければと願う。


『アメリカン・ユートピア』
●監督/スパイク・リー
●製作/スパイク・リー、デヴィッド・バーン
●出演/デヴィッド・バーン、ジャクリーン・アセヴェド、グスタヴォ・ディ・ダルヴァ、ダニエル・フリードマン
●2020年、アメリカ映画 
●107分 
●ユニバーサル映画
●配給:パルコ
©2020 PM AU FILM, LLC AND RIVER ROAD ENTERTAINMENT, LLC ALL RIGHTS RESERVED
2021年TOHOシネマズ・シャンテ、渋谷シネクイントほか全国ロードショー。
※2021年5月28日(金)より、全国順次公開。(5月27日更新)
https://americanutopia-jpn.com/

 

*To Be Continued

伊藤なつみ

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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