
コトリンゴの最新作は『birdcore!』 【前編】
Music Sketch
今回はフィガロジャポン本誌でも人気の、コトリンゴのニュー・アルバム『birdcore!』に関するインタビュー。4月30日に発表されたこのアルバム制作のきっかけは、TVドラマ『明日、ママがいない』の主題歌の曲作りを依頼されたことから(作詞:野島伸司)。続いて、Perfumeの振付けで知られるMIKIKOから、彼女主宰の女性だけのダンスカンパニーelevenplayのダンス・インスタレーション『MOSAIC』公演に向けて楽曲提供を頼まれ、「あたま、こころ」を作曲。このタイミングにアルバムを、ということで、そこから集中して曲を次々と制作していった。
ボストン・バークリー音楽院では、ジャズ作曲科、パフォーマンス科を専攻した。ソロ作の他に、CMや映画音楽なども手掛ける。
■ 変わりたいというか、変わらなきゃという気持ち
----どのようなアルバムにしたいと考えていたのですか?
コトリンゴ(以下、K):「最初は『ツバメ・ノヴェレッテ』の続編も考えていたし、アルバムは1つの流れでひとまとめにできたらいいなと思ったので、いろんなテーマや画集、言葉とかキーワードを探していて。でもなかなか"コレっ"ていうのが見つかっていなくて。ある日、"ハードコア"という言葉を見て、"あっ、バードコアって面白いかな"って思ったんですよね」
---- コトリンゴさんの核となるものが詰まったアルバムという?
K:「はい」
---- なかでもコアっぽい曲というと、どれになるの?
K:「いろんな部門があるんですけど、自分的に私っぽいと思うのは『ツバメ号』、でも、できて嬉しかったのは『o by the by』ですね。歌詞の作り方とかこれからちょっとこういうやり方が面白いなと思ったのは『読み合うふたり』とか『ballooning』。全体的には今までのアルバムからガラッと変わったという感じはしていなくて、ちょっと自分の中で変わりたいというか、変わらなきゃというか、そういうもがいている感じのアルバムなんじゃないかなと自分では思っています」
---- 1曲目の「種まき」は最初から1曲目のつもりで書いていたの?
K:「はい。この歌詞はちょっと気持ち悪くないですか? "種を撒いたら人間ができて歩き出す"っていうのがちょっと。ゾンビだなって思った(笑)植物って面白いなっていうのがあって」
---- そこまでは考えていなかったわ(笑)。続く「terrarium」と合わせてこの2曲は同じような気分で書けたのでは? お友達っぽいし、コトリンゴさんっぽい。
K:「はい、お友達で(笑)。『あたま、こころ』以降に最初に作り始めたのが『terrarium』で。これを早く仕上げれば(アルバム制作の)何か突破口になるんじゃないかなと思って。前向きの歌詞にしたくて、自分の状況もあったんですけど、"ちょっと環境を変えて飛び出したい、その準備はいいかな"という。ガラスの容器の中に植物はあって、ガラスの容器が割れたらってことも考えて書いています」
---- トイ楽器演奏家の良原リエさんの音色も楽しいです。そして、続く「ツバメ号」もいいですよね。ここでアレンジがガラッと変わって、クラシカルな感じになって。
K:「この曲は実は気に入っているんです。歌詞も一瞬でできて。これはわりとノンフィクションで、自転車を作ってもらう予定だったのに思い切りこけてしまったんです。あんまり言いたくないんですけど、自分の歌というのは」
---- 何故クラシカルなアレンジメントに?
K:「今まで同じパターンを繰り返すっていうのは何となくやっていたんですけど、もうちょっと厳格に同じパターンを繰り返す曲を作ろうと思って。これはずっと弦の同じ音がデデデデっていうのをやりたくて、パターンを繰り返すっていう」
植物や鳥を眺めるのが好きで、今は誕生日の誕生花でもあるギボウシが大好きだそう。本人撮影。
■ 考えてシンプルにするって、面白い
---- TVドラマ『明日、ママがいない』の主題歌「誰か私を」は、相当苦労したみたいで。
K:「番組のスタッフから"(曲調が)難しい"とは何度も言われて、みんなが歌えるようなメロディとか展開とか、転調もちょっとしていたのでそこを歌いやすいように直したり。考えて考えて凝った作りにするんじゃなくて、考えてシンプルにするって面白いなって思いました。歌い方に関する注文はなかったけど、ドラマが始まってない時に録っていたから、どういうイメージで録ったらいいのか凄く考えていて、雨の駅前で飼い主を探す子犬という設定で歌っていました」
TVドラマ『明日、ママがいない』の主題歌になった「誰か私を」
---- ポップという点でいえば、続く「白い鳥」は今までにないほどポップですね。
K:「それは確信犯的です(笑)。南波志帆ちゃんに"今度ラヴソングばっかりのアルバムとかどうですか?"って言われて、ラヴソングも書きたいけど、"私の年齢でしっくりくる歌って何だろう?"と考えていて、わりと正直なことをセンシティヴに書いたんですよね」
---- 赤ちゃんのことを意味する"こうのとり"が歌詞に出てきて、歌の内容はかなりダイレクトなことを歌っていますよね。
K:「そうですね。ドラマのこともあったりしたので、いろんな取り方ができるといいなと思って。あとは暗い気分じゃなくて、普段の前向きの感じで作れたらいいなと。だから曲調はポップにしようと」
---- ピアノのコードの感じも珍しい。
K:「そうですよね。ここまでわかりやすくしたのはあんまりないかもしれないです」
シングル曲「誰か私を」
時にはファンタジーも感じさせる独創的な世界観と浮遊感溢れるサウンドで、クラシックからジャズ、ポップス、エレクトロニカといったジャンルを自在に行き来するコトリンゴのミュージック。後半は、さらにこだわりの世界に入っていきます。
*To be continued