Music Sketch

ザ・テンパー・トラップ ライヴ@恵比寿Liquid Room

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10月に入って楽しみにしていたライヴが連日行われていますが、なかでも一番楽しみにしていたのがThe Temper Trap。FIGAROjapon最新号にインタヴューを掲載しているオーストラリアのバンドです(現在はロンドン在住)。サマーソニック09のために初来日し、デビュー・アルバム『コンディションズ』も素晴らしい内容ですが、ライヴパフォーマンスも涙が溢れそうになるほど優美な情感に満ち、夏以降毎日のように聴いてきたアーティストです。

FIGARO#049A.JPG素晴らしい美声を聴かせるダギー・マンダギ。


まず先に、誌面に書ききれなかったことを少し書き足しておきますね。


このバンドの魅力は、昨今メルティング・ポットとして注目を浴びているメルボルン出身とあって、ダギー(ヴォーカル&ギター)はインドネシア出身、ロレンゾ(ギター)には半分イタリアの血が流れ、ツアーのサポートメンバーのジョセフはニュージーランド人......と国際的。

また結成のいきさつも、アートの勉強のためにインドネシアから留学してきたダギーが、同じ洋服屋で働いていたトビー(ドラムス)とバンドをスタートし、やはり近くの洋服屋で働いていたジョニー(ベース)が参加。ギターは何人か交代したのちにロレンゾが加入しましたが、どちらかというと友人が集まって始めたバンドとあって、とにかく仲良しです。


音楽のルーツはというと、力強く美しいファルセット・ヴォイスで魅了するダギーはカーティス・メイフィールドやアル・グリーンといったソウル・シンガーを敬愛し、ロレンゾも昔のソウル・ミュージックやブルーズが好み。ジョニーはレッド・ホット・チリ・ペッパーズやレイジ・アゲインスト・ザ・マシ-ンといったオルタナティヴ・ロック系、トビーはテレビジョンやジョイ・ディヴィションといったポスト・パンク系かドラムン・ベースといったクラブもの。

そしてバンドを継続しながら全員が大好きなバンドとして認識したのが、レディオヘッドとTVオン・ザ・レディオ。そんなに音楽に詳しくない方にごく極端な説明をしてしまえば、コールドプレイやレディオヘッドの哀愁を帯びた美しいメロディラインが好きな人なら、気に入ってもらえると思います。

FIGARO#049B.JPGギタリストのロレンゾはイタリアの血のせいか(?)、ロマンティックなフレーズで聴かせます。


10月9日のライヴは一般客も含めて全員が無料招待という内容で、身動きが取れないほどのキャパシティ900人満杯の入り。この日まで日本で一番テンパー・トラップを聴いていると自負してきた私も(他のファンの皆さん、すみません!)、待ちきれないファンの笑顔を見ているだけで嬉しくなってくるし、ライヴが始まると一緒に歌っている人が本当に多くて(特に女性ファン)実に感動的。みんなの彼らの音楽に対する愛情が会場を包み込み、それに応じるように感性と熱情に溢れた演奏がドラマチックに展開され、このまま永遠にライヴが続いて欲しいと願うほどでした。


で、感じたのですが、この雰囲気ってレディオヘッドの人気が急上昇してきた2作目『ベンズ』を発表した1995年に行われた新宿Liquid Roomでのライヴ、特に招待ということではコールドプレイが2作目『静寂の世界(A Rush Of Blood To The Head)』を発表後、2002年に同じく新宿Liquid Roomで行ったシークレットライヴに似ていると思いました。テンパー・トラップもこのくらいビッグになってほしいし、その可能性は十二分にあると思います。

FIGARO#049C.JPG超満員の観衆を魅了したライヴ・パフォーマンス。


パフォーマンスはいきなりテンションの高い演奏「INTRO」から幕を開け、ダギーのファルセット・ヴォイスで綴られる「REST」がスタート。たとえ歌詞がなかったとしても、儚さの中に意思と希望を含んだこの歌声が流れるだけで、この曲の伝えたい情感をたっぷりと受け取ることができます。この曲を聴くだけで、このバンドの魅力をわかってもらえると思います。

The Temper Trap(感情の罠)というバンド名が象徴するように曲調はヴァラエティに富み、ライヴはリズミックなポップ・チューン「FADER」、キーボードを演奏するなど繊細な音遣いも心に優しい「FOOLS」、アコースティック・ギターとハーモニーをフィーチュアした「DOWN RIVER」と、聴き心地のいいナンバーがライトアップされたステージから流れてきます。

FIGARO#049D.JPGアコースティック・ギターを使った曲もあります。


そして後半はアルバムの1曲目を飾る、テンパー・トラップにとって賛美歌のような響きを持つ「LOVE LOST」、明るく淡い色彩を放ちながら失望から希望へと緩やかに力強くダンサブルな展開に導いていく「SWEET DISPOSITION」と人気のナンバーが続き、そして「SWEET DISPOSITION」を陽とするならば、陰サイドを描く大作であり名曲「RESURRECTION」へと流れていきます。もうこのあたりは感情のサーフィンをしながら、気づかなかったエモーションを引き出されていくような感覚に。そして、エンディングは圧倒的なインストゥルメンタル・ナンバー「DRUM SONG」で。

まだまだ自分の筆力が未熟なので、彼らの音楽の魅力をここにうまく書き尽くすことができないのですが、音楽を聴いて気に入っていただければ、さらに歌詞を見て、もっと好きになる、そんなバンドだと思います。

FIGARO#049E.JPG天性の歌声といって過言ではないヴォーカル。


どんなに哀愁を帯びたメロディでも、優しさと希望に溢れた、時には生命力に溢れた意思の強いダギーのヴォーカルがそこに載ると、曲の表情が一転して変わります。そのダギーが話していました。

「でも、僕は意識して希望を歌っているわけではないし、問題の答えを出そうとしているわけでもない。自分の中での葛藤だったり、社会の問題だったり、それに気づいて歌っているだけ。これらの問題提議を人が聴いて、みんなそれぞれが答えを見つけてくれればいいんだ。解き方は1人1人違うからね」

「それに僕は、日々の生活から答えを見出したいから曲を書いているわけではない。ただ、曲を書くことはセラピーだと思っている。何故なら、普通、人に話せないような、とても正直な気持ちを歌っているからね」

だからこそ、共感できる人が多いのだと思います。歌詞について書くと長くなるので止めますが、歌詞も素晴らしいので注目していただきたいです。

FIGARO#049F.JPGライヴ後に楽屋でFIGAROを持ってパチリ。左からロレンゾ(G)、ダギー(Vo&G)、ジョニー(B&G)、トビー(D)、サポートのジョセフ(Key&G)。この後USツアーが始まるそう。


ライヴは、アンコールにシングル曲「SCIENCE OF FEAR」を演奏し、幕を閉じました。私は彼らの音楽が似合う場所を探しながらいろんなシチュエーションで聴いてきましたが、空気が澄んで夕景の茜色が濃くなっていく時期に、そして都会とはいえ夜空の星が多少見えるようになってくるこれからの肌寒い季節に、ますますテンパー・トラップの音楽が溶け込んでいくような気がしています。


ito31.jpgザ・テンパー・トラップ『コンディションズ』

LIVE PHOTO:TEPPEI

*to be continued

伊藤なつみ

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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