
ザ・ビッグ・ピンク 取材
Music Sketch
イギリスの音楽誌NMEが、その年に最も期待される新人におくるNME RADAR AWARD。今年、その受賞をきっかけに一躍脚光を浴びたのがザ・ビッグ・ピンクです。待望のデビュー・アルバム『ア・ブリーフ・ヒストリー・オブ・ラヴ』が9月末に発売になったので、遅くなりましたが、サマーソニック09に出演するために来日していた時に行なったインタヴューをご紹介します。
ザ・ビッグ・ピンクは、ロンドンを拠点に活動するロビー・ファーズとマイロ・デーコルによる2人組。ロビーはアレック・エンパイアのギタリストを務めていたことがあり、また、マイロはクラクソンズやザ・ホラーズを輩出したMEROKレーベルを立ち上げた人物としても有名。2人は10年ほど前から友人で、以前はデジタル・ハードコアやノイズに特化したレーベルHATE CHANNELを運営していました。そしてザ・ビッグ・ピンクが契約したレーベルはというと、かつてコクトー・ツインズやデッド・カン・ダンスといった耽美派からピクシーズなどの気鋭のバンドまでが属していたこで一世を風靡した4AD。アルバムジャケットは、まさに4ADらしいテクスチュアになっています。
右がロビー、左がマイロ。
――ユニットを始めるきっかけは?
ロビー:2000年に、ロンドンで行われていた巨大なレイブ会場で仲良くなって、そのまま一緒に家に帰ったんだ。それからさらに凄く仲良くなり、一緒にレーベルを始めようか、ということになって、凶暴な音楽だけをかけるHATE CHANNELを立ち上げた。凶暴さだけだったら成功したんだけど(笑)、あまりにニッチなマーケットで全く売れなかった(笑)。で、それは自然消滅して、僕がアレック・エンパイアのギタリストとして活動を始めたら、マイロがMEROKというレーベルを始めた。しばらくお互い違うことをやっていたけど、アレック・エンパイアのツアーが終わったらから、また一緒になって、今度は2人で音楽を作ることにしたんだ。
――特にマイロはいろいろなバンドの音楽を聴いて世に紹介してきただけに、自分たちのバンドでは「こういう音楽をやりたい」というヴィジョンがあったのではないですか?
マイロ:そうだね。最初のイメージはヴェルヴェット・アンダーグラウンドのデジタル盤。昔から部屋に集まっては、いろんなエフェクターを重ねてはそこに楽器をつないでどんどんレイヤーでサウンドを重ねていくという手法をやっていたから、ザ・ビッグ・ピンクでもドローンっぽいことをやろうと思った。昔、デジタル・ハードコアをやっていた頃はビート重視のところがあったけれど、ザ・ビッグ・ピンクはそこは影を潜めて、初期のジーザス&メリーチェインみたいな感じをイメージしていたかな。
――曲を作るモチベーションはどこから?
ロビー:だいたい曲を作る時は二日酔いの時で、だいぶつらい次の日だったりするんだ(笑)。パーティをした翌日に曲を書くことが多いので、そのパーティが楽しかった時はそれがアップビートな感じで表れたり、でもダウン系の時もあって、その日の僕ら2人の気分の状態によって曲が変わっていくんだよね(笑)。
――愛について歌った作品が多いのは何故ですか?
ロビー:それは......、たまたまこのバンドを始めた時に、2人とも長い恋愛関係を終えて彼女と別れた後だったから、悲しい感じになっているんだと思う。何しろ僕らはこの2, 3年間ずっと一緒にいたから、いろんな感情をシェアし合っているんだよ(笑)。でも、人生讃歌みたいな歌もあるよ。2人が経験してきたことを、単純に曲にしているんだ。
――クラブに行った翌日にできた曲が多いそうですが、クラブが現実からの逃避だとすると、曲作りは現実へ戻るための足がかりだったりします?
マイロ:全部が逃避だね(笑)。バンドをやっていることもそうだし、遊びに行くのもそう。僕にとっては音楽は重要な部分であって、昔から学校に行っているよりは音楽をやっていた方が楽しかった。だから音楽重視のエスケイピズム。遊びに行くことも音楽をやるにあたって大事なパートであるんだ。
(ちなみに、マイロの父親である故デニー・コーデルは歴史的名曲のプロコル・ハルムの「青い影(A Whiter Shade Of Pale)」(1967年)を手がけた他、ムーディー・ブルースといった当時の主要なロックバンドと交流があり、のちにレオン・ラッセルと共にShelter Recordsを立ち上げたほどの人物。育った環境を思うと、この発言には説得力があります)
――イギリスでは昨年10月に「Too Young To Love/Crystal Visions」でデビューしてクラブで大ヒット、その後も、深遠かつ耽美なサウンドが魅力の「Velvet」、日本でもヒットした親しみやすいポップ・チューン「Dominos」など、独特の美意識を携えた曲が注目されてきましたよね。アルバムの中で、特にチャレンジした曲はありますか?
ロビー:シンプルにできたよ、どの曲も1日で作ってしまったし、「Tonight」は午後だけでサッととできてしまって。変に凝ったりこだわったりしなかったから、サラッと聴きやすいアルバムになったんじゃないかな。
マイロ:そうだね。確かに凄く簡単にできた。意識の流れのままにできてしまって、それぞれの曲がカップルのような組み合わせでできていったイメージかな。
――たとえば「AT WAR WITH THE SUN」はどんな曲なんですか?
ロビー:ずーっと起きている完徹の曲みたいな。だからこそ、戦え!みたいな(笑)。なんとなくイメージとしては、70年代のみんなが世の中に反抗していた頃のイメージ。映画で言うと、マット・ディロンが出ていた『Over The Edge(邦題:レベルポイント)』のような若者に対する讃歌だね。
――アルバムタイトルを"A BRIEF HISTORY OF LOVE"にしたのは?同名の曲がありますが、ここから取ったのですよね?
マイロ:単純に、そのタイトルがアルバム全体を表わしている気がしたんだよね。"A BRIEF HISTORY OF THE BIG PINK"でも良かったけど、結局愛の話が多かったり、身近な愛の物語を歌っているということで、このタイトルにしたんだ。
ザ・ビッグ・ピンク 『A Brief History of Love』
*to be continued