
エミリアナ・トリーニ ライヴ&取材
Music Sketch
シンガー・ソングライターでの活動に加えて、数々のコラボレーションからも注目されているアイスランド出身のエミリアナ・トリーニ。FIGARO本誌でも2度にわたって紹介していますが、特に最新作『ミー・アンド・アルミーニ』の内容が素晴らしいので、12日に原宿アストロホールで行なわれたライブを楽しみに観に行ってきました。
ちょっとした1音や一声で空間の色合いを変えてしまう、見事な演奏力と歌唱力。
アルバムを発売後、2年間にわたって休まずツアーをしているほど評価の高い作品、そして絶賛されてきたパフォーマンス。それは評判通りの内容で、オルガンやスチール・ギターをはじめ、さまざまな楽器を使いこなす職人気質のミュージシャンたちから奏でられる音色があまりに美しいうえに温もりもあり、まず、1音1音の音色を追いかけたくなるほど。そこに軽やかで、小鳥のさえずりや鈴の音を思わせるエミリアナの歌声が流れます。
デビュー時はポスト・ビョークとも言われましたが、また違った味わいのあるエミリアナの歌世界。
とはいっても、曲調はアコースティック・ギターの伴奏に合わせて歌うフォーキーなものから、激しいビートを軸にした怒りを顕にしたエナジェティックなナンバーまでさまざま。レゲエ風のアレンジやブルージィなものもありますが、不思議と同じトーンで聴くことができます。どのように曲ができていったかというと、プロデューサーのダン・キャレイがスタジオに入って適当にギターやベースを爪弾いている時に、気に入ったフレーズがあれば、エミリアナがそこに歌詞を乗せていくという作風。自由なジャムセッションの中から浮かんできたものを言葉に変えていくので、どの曲も型にはまらないスタイルになったそうです。
「Gun」のような怒りを込めた歌では、動きも激しくなります。
ロック系のコンサートが行なわれることが多いアストロホールには、これまで数え切れないほど足を運んできましたが、こんなにハートウォーミングなサウンドが聴けるなんて!と思えるほど芸術的で、それぞれの曲が描く絵画の世界に誘引されるような思いで、1つ1つの個性的な楽曲を聴いていました。自由そのものの空間で、エミリアナは、昔カヴァーしたというピチカート・ファイヴの曲を突然口ずさんだり、ベース奏者も曲によってプレイヤーが交代したり......。最も自由度の高いインプロバイゼイションを感じさせる曲「Bird」では、途中の楽器だけの演奏の際は会場が波間に漂っているような感じを覚えたし、「Gun」での深みのあるギター音色は、シンプルなフレーズの繰り返しにもかかわらず、音に酔うような魅力的な情感を響かせていました。
全21曲、現実を瞬時に忘れさせてくれるような本当に素晴らしいライヴでした。
あまりにライヴが素晴らしかったので、急遽インタヴューを申し込み、翌朝の10時から滞在先のホテルのカフェでお話を聞いてきました。
急な取材だったのにもかかわらず、とても感じの良かったエミリアナ。
――どのように曲を組み立てていくのですか?
「ダンと一緒に曲を作っていくのだけど、スタジオに缶詰になるのではなく、出掛けたくなったら出掛けたり、お酒を飲みたくなったら飲み始めたり、とてもリラックスできる状況で作ることができたのが一番良かったわ。前作の『フィシャーマンズ・ウーマン』は自分自身で手掛け、そして自分を赤裸々に出した分、とてもハードな作業だったから。今回は作業そのものが楽しかったし、ダンの演奏に合わせて感情が一気に流れ出す感じだったの。たとえば『HA-HA』は、むかついた気分とかね(笑)。でも、無意識に出てくる部分が多いので、あとからもっとメロディに合うようにと、言葉を足したり、抜いたりしたわ」
1問1問、丁寧に答えてくれました。
――自分の声が放つ感情について。
「私の場合、意識していなくても、自然と曲に合う感情が声から表現されるのよ。それぞれの曲に合う感情を声が表現できないと、いいシンガーじゃないわよね。つまり、1つの曲の中で1つの感情に集中してしまうと、いいシンガーになれない気がするの」
――あなたにとって音楽は?
「音楽=私の人生。音楽がない人生なんて、考えられないわ。"音楽がなかったらどうするの?"って訊かれただけで、ストレスが溜まって、ブラックホールに入りたくなる。何故なら、私って他に何もできないから。人生の中で他に働いたのはスノーボード・ショップの店員とキャビア工場の現場だけど、パッとしなかったわ(笑)。私は16歳から本格的に歌い始めて、曲を書き出したのは21歳と遅いけど、今や音楽のない人生なんて考えられないの」
本人が一番気に入ってくれたショット。シャイというわりにはお喋り好きで、結局1時間も話し込んでしまいました。
――音楽をやっていることがあなたに人生にどのような効果を生んでいますか?
「曲を書いていると同時に、何か予感みたいなものを感じる時があるし、音楽をすることは、究極のスポーツのように感じることがあるわ。自分が恐れていること、苦手に思うこと、自分の中で自信がないようなことに対して、音楽を通して向かい合わないとならない。でも、音楽をやっていると、体と魂の中を新鮮な空気が流れる気分を感じることができるし、すごく清潔な気持ちになるわ。曲を書いたときは、体も心も軽くなる。そして何よりも、他のものとは比べられないくらい幸せになるの。まるでトランスに入るような雰囲気よ。こんなに大好きなことをしていられることに関しても、幸せを感じるわ」
父はイタリア人、母はアイスランド人。今はイギリスのブライトンに住み始めて10年以上経つそうで、周りが気の置けないアーティストばかりでとても過ごしやすく気に入っている様子。とはいえ、取材の最後には母国アイスランドの情勢の話になり、とても心配していました。
Live Photo : オナビス/シバノジョシア
*to be continued



