Music Sketch

大橋トリオ ライヴ@九段会館

Music Sketch

時間が経ってしまいましたが、1月30日に九段会館大ホールで行なわれた大橋トリオのライヴについて書きます。

FIGARO068A.jpg(シルク)ハットがトレードマークの大橋トリオこと、大橋好規。

大橋トリオとは大橋好規のソロ・プロジェクト。元々映画音楽などを担当し、アルバムを発表していました。ある日、女性シンガーをプロデュースするにあたって、自分の書いた曲に仮歌を入れてデモを作成したところ、その歌を聴いたスタッフから「自分で歌ってみたら?」と勧められ、シンガー・ソングライターとしてのデビューが決定。以前から趣味のような感じで、海外の歌を人前で歌うことはあったので、さほど違和感なくプロジェクトが進んだそうです。

大橋トリオの音楽の魅力のひとつは、当然ながらその楽曲の素晴らしさ。ジャズをポップスにどう表現するかを考えているうちに、独自の世界観が生まれたそうですが、「作曲家としての自分が、"こういう曲があったらいいな"と思いながら、メロディとして気持ちのいいものを作っているから、歌うには難しい曲が多くて、ヴォーカリストとしての自分が一番苦労しますね(笑)」と話すように、意外性を含みながら心の中に入り込んでいくメロディは心地良く、一度聴いたら忘れられないエモーションを与えてくれます。

高校生の頃から「バンド演奏よりも、自分の頭の中のアイディアを形にしていくのが楽しかった」と、自然とマルチ・プレイヤーになっていた彼。CDでは自ら楽器を演奏している曲が目立ちます。そのため、ライヴではどのように彼の頭の中の音楽を立体化していくか楽しみでした。

FIGARO068B.jpg歴史あるコンサートホールにふさわしい雰囲気溢れるステージセット。

前置きが長くなりましたが、コンサート会場は1934年に竣工したという雰囲気のある九段会館大ホール。味わい深い大橋トリオの音楽を聴くのに最適と思われる場所でした。実際ステージには懐かしさを感じさせる色とりどりのライトが吊るされ、60年代を想起させるような温もり溢れるセッティングになっていました。

ショウは「sing sing」からスタート。トレードマークとなったハットを被った大橋はアコースティック・ギターを弾いたかと思うと、3曲目「Here To Stay」ではピアノを奏でるなどして、自在に自分の音楽世界を構築していきます。軽いトークを挟んで、4曲目「僕と月のワルツ」ではバンジョーを、5曲目「君は雨」ではアコースティック・ギターを手に叙情的に歌い、この頃には演奏の硬さも取れて音楽全体が会場に馴染んでいきます。1人1人に語り掛けるようなマイルドなヴォーカルに、川のせせらぎのように滑らかに流れていくメロディ。観客の誰もが求めていた音空間が具現化されていきます。

FIGARO068C.jpgマルチ・ミュージシャンの大橋好規はピアノやギター、バンジョーなどを演奏。

オーガニックを重視した楽器構成のせいか、音量は通常のコンサートに比べて大きくはありませんが、それだけに1つ1つの音色に聴き入ってしまい、中盤のインプロヴァイゼイションなどとても楽しむことができました。特にベース奏者の鈴木正人&ドラムス奏者芳垣安洋というスーパー・ミュージシャンの演奏が素晴らしく、時には雰囲気に流されそうなサウンドに強弱を付け引き締めていきます。ただ、「Voodoo」あたりのファンキーな曲は、もっとノリノリで攻めていっても良かったのでは?と思ったり。

最新アルバム発売前にインタビューした際には、アルバム『I Got Rhythm?』のタイトルのように、お客さんを躍らせるライヴを展開したいと話していたけれど、このホール会場ではそれは難しいのか、そして後半もバラード「Emelard」などでしっとりとした雰囲気が浸透していきます。ただ最後は、「A BIRD」「Winterland」の2大人気ナンバーを緩急を効かせて展開。明るさと力強さにみちた手拍子に包まれるように大橋も気持ちよく歌い上げていました。

FIGARO068D.jpg3月10日には赤坂BLITZでツアー最終日を迎えます。

アンコールに入ると、トークはさらに滑らかになり、3月10日に発売するカヴァー・アルバム『FAKE BOOK』で、トム・ウェイツやジェイソン・ムラーズの楽曲を取り上げていることを紹介。そして会場の熱気をさらに高めながら、そのアルバムからキング・ハーベストの「dancing in the moonlight」をエレキギターを手に、力強く歌います。さらに「Happy Trail」へと転じたときに、照明がいきなり落ちて会場は真っ暗に!けれどオーガニック系の楽器が主だったことが幸いして、生楽器の音を頼りに、そして会場からの手拍子、しまいには会場全体が大合唱となって最後まで歌い終えることができました。会場の一体感が最高潮となり、音楽の温かさ同様、大橋トリオの音楽を愛して集まった人々の温かさも感じられた瞬間となりました。

度重なるアンコールの最後は、大橋好規1人によるピアノの弾き語りで「Lady」。照明が落ちたのは、コンサートのあとで本人に聞いたところ、誰かがコードに足を引っ掛けて電源が抜けたからだそうですが、そんなアクシデントを大合唱に変えてしまうなんて、「心に一番響く音がアコースティックだと思うし、感情表現で言えば"喜び"を一番表していきたい」と以前話していた、彼にふさわしいライヴになったとも思います。

今回のツアーの〆として、3月10日に赤坂BLITZでコンサートが行なわれるので、ゆったりとした温かい空間と心優しいメロディやサウンドに触れたい方は、ぜひ足を運んでみてください。


Live Photo:安彦幸枝
*to be continued

伊藤なつみ

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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