Music Sketch

マイケル・ジャクソンの映画『THIS IS IT』

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10月28日に世界同時公開された『THIS IS IT』を、公開当日に観てきました。


マイケル・ジャクソンに関しては、『文藝別冊 マイケル・ジャクソンKING OF POPの偉大なる功績』(河出書房新社)で、"映像のスターか、舞台のヒーローか。パフォーマーとしてのマイケル・ジャクソン"という原稿を書かせていただいたのですが、奇しくも今年の夏に"最後のコンサート"としてロンドンで開催されるはずのステージが、結局"最期のコンサート"としてスクリーンで世界同時公開されることになったわけで、そんなことを思いながら、ずっと観ていました。

pic56063.jpgコンサートに懸ける姿勢にマイケルの真の姿を見ます。


映画は、今年4月から6月にかけて行われた、100時間以上にも及ぶリハーサルと舞台裏の貴重な映像から構成しています。ここまで完璧なリハーサルを行い、華麗なダンスも披露していたマイケルが自殺するはずもなく、ファンでなくても涙腺を熱くしてしまうシーンばかりなのですが、3歩引いて『THIS IS IT』というコンサートがどのように構築されていくかを追っていくだけでも、十二分に楽しめる映画です。


マイケルに舞台監督を任されていたのは、全世界で大ヒットした『ハイスクール・ミュージカル』の一連のシリーズなど、ディズニー系の作品で一躍有名になったケニー・オルテガ。マイケルは全世界の子供たちを熱狂させた彼の才能を高く評価して、依頼したのでしょう。ケニーには実際に会ったことがありますが、とてもオープンでフレンドリーという人を惹き付ける魅力に溢れる一方で、当然ながらものすごい知識とアイディアに優れ、それでいて細やかな気遣いもできる人に感じました。それゆえ、マイケルとのコミュニケーションの取り方にしても彼の心情を丁寧に汲み取っていて、マイケルが安心して彼に任せているのがスクリーンから伝わってきました。

ito22m.jpg通しリハも完璧に行われていたようです。


マイケルの完璧主義ぶりは既に有名ですが、次のシーンに移る際の合図ひとつにとっても、彼の呼吸に合わせなくてはならず、演奏に関しても「月光に染みる感じ」「余韻を残したから」と、ちょっとした響きにも細かくこだわります。天才的な歌唱力を持ち、さらに幼少時から超一流のレコーディング・スタッフに囲まれて作業してきただけに、耳が非常に鍛えられていたのでしょう。日本公演の際に立ち会ったスタッフから、「リハーサル中、自分のダンスに夢中になっているようで、生演奏の音のちょっとした狂いも許さず、必ずきちんとチェックしていた」と聞いていたのですが、映画ではまさにそういったシーンが多数出てきます。マイケルは自分でも曲を作っていたので、そういった面からもどう表現し、どう伝えるのがベストなのか追求し続けたのだと思います。ファンを喜ばせることを第一に考えるエンターテイナーであり、ステージに魂を捧げるプロデューサーとしての姿にも感服します。


映画は、ダンサーのオーディションのシーンからスタート。ダンサーの他に、ミュージシャン、衣装デザイナー、ステージ関連のスタッフなどのインタヴューも多数交えています。当然ながら、誰もがマイケルと仕事ができることを光栄に思っていて、最善を尽くし、何としてでもマイケルの桁外れの世界、未体験のゾーンへついていきたいと頑張っています。

ito_11.jpgダンサーと交流する様子からもマイケルの人柄が伝わってきます。


リハーサルとあって、本気で歌っていなかったり、踊っていなかったりする場面もありますが、ステージの下からダンサーやスタッフが歓声を上げて踊りだすのを見て、つい本気になってパフォームしてしまうマイケルには、可愛い!と思ってしまったり。自分をノセてしまう彼らに、ちょっと怒った表情を見せつつ、でも仲間たちと和気藹々と楽しんでいる雰囲気が伝わってきます。また、指示するときも、「怒っているんじゃないよ、ラヴだよ」と、1人1人に愛情をもって接する姿には、さらに好感を持ちました。1つのとてつもないエンターテイメントを完成さえるために、極限に向けて切磋琢磨すると同時に、共有している空間を楽しんでいるマイケルの柔和な表情も見ることができて、幸せな気分にもなります。でも逆に、そういう笑顔を見ると、もう彼がこの世にいないことが思い出されて、泣けてしまうんですよね。


「ビリー・ジーン」のために準備された惜しみなく電飾を使った衣装や、ステージで使う予定だった映像の撮影風景も紹介され、特に「スムース・クリミナル」や3D映像で制作していた「スリラー」のメイキングの様子を見ていると、実際にステージで使われなかったことが残念でたまりません。マドンナやビヨンセなど、コンサートで別撮り映像が使われることは今や日常になっていますが、このようなメイキング映像を見ていると、本当に手間隙かけて制作しているのが実感できます。でもそれを言ったら、瞬間移動するなど、仕掛けのあるエンターテインメント性の強いコンサートが普及したのも、マイケルがきっかけですよね。コンサートとしての『THIS IS IT』は、"キング・オブ・エンターテイナー"と呼ぶにもふさわしい構成になっていたと思います。


もともと、舞台裏をDVDか何かで発表するつもりで、マメにリハーサルの様子を撮影していたのでしょうが、見事な編集ぶり。リハーサルとはいえ、ステージで熱演するマイケルを目で追っているうちに彼の世界に引き込まれて、彼に合わせて右手を大きく振りそうになったり、拍手しそうになったり、いつのまにかコンサート会場にいるような気分に......。私は試写会で見たのですが、きっと一般上映では盛り上がるのでは?と思ってしまいました。


最後の「ヒール・ザ・ワールド」のあたりの構成が、いろいろな想いが差し込まれた分、少し整理されていないような気がしたのですが、また観直すと違ってくるかもしれません。大きいスクリーンが似合う、規模の大きい映画『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』ですが、DVDになってからも何度も観たくなるような濃い内容の作品です。それもそうですよね、"キング・オブ・ポップ"の彼が、最後のコンサートとして意気込んで制作していたのですから。

配給:ソニー・ピクチャース エンタテインメント 10月28日(水) 丸の内ピカデリーほか全世界同時公開

ito4.jpg『文藝別冊 マイケル・ジャクソンKING OF POPの偉大なる功績』(河出書房新社)

ito5.jpgマイケル・ジャクソン『THIS IS IT』CD


*to be continued

伊藤なつみ

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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