【虹の刻 第3章】村上虹郎×山田智和×中村文則。
虹の刻
フィガロ本誌3月号より始まった新連載「虹の刻」は、俳優の村上虹郎と映像作家の山田智和、そして各回ごとに変わる文筆家と音楽家を招き、”とある瞬間”を表現する連載企画。
章ごとに変わる文筆家の第3回目には、中村文則が登場。そしてムービーの楽曲は、踊Foot Worksでラップを務めるPecoriが制作。
とある日の朝、霧に包まれた大地に足を踏み入れた。3人の表現者がそれぞれに描く「瞬間」を追い求めて。
コート¥152,280、シャツ¥54,000、ジャンプスーツ¥142,560、シューズ¥131,760/以上ドリスヴァン ノッテン
「瞬き」 中村文則
いつの頃か、正確に覚えていない。
視界が揺れていたのは、まだ立ち始めたばかりで、足が不安定だったからかもしれない。一人で外を歩いていた。
視界の高さに、長く光る白いものがある。眩しくて瞬きをした。ガードレールだったかもしれない。そのまま目を閉じなかったのは、その先を見たいと思ったからかもしれない。
長く光る白いものが言う。この先に行ってはいけない。この先にあるのは自動車ではない。もっと大きなもの。無造作なもの。草が勝手に生え勝手に死んでいく場所。時折覗く白い太陽は生きている者も死んでいる者も同時に照らす。そこに意志はない。ただ光を照らす。
構わず歩くと、無責任にあらゆるものが広がっていく。それらの名を僕はまだ知らない。その広さそのものに、僕は怯み瞬きをする。でも目は一瞬しか閉じない。すぐまた目は開く。体が見たいと欲している。こんなものを見たいのか。僕の体は。
しっかり見ることができるように、これらに名をつけていく。あれは「ル」。これは「カ」。名がある方が親しめる。その名を否定され、また瞬きが増えたのはもっと先のこと。既に決められた名を受け入れ、それでも美しいと思えたのはさらに先のこと。
Tomokazu Yamada
1987年生まれ、東京都出身。クリエイティブチーム「TOKYO FILM」主宰。Caviar所属。サカナクションや米津玄師などのミュージックビデオをはじめ、CMやドラマ、映画などのディレクションを行う。WIRED CREATIVE HACK AWARD2013グランプリ受賞、ニューヨークフェスティバル2014銀賞受賞、GR Short Movie Awardグランプリ受賞。
Nijiro Murakami
1997年生まれ、東京都出身。 カンヌ出品作『2つ目の窓』(2014年)で主演を務め、俳優デビュー。 17年公開『武曲MUKOKU』で、第41回日本アカデミー賞優秀助演男優賞を受賞。 映画『チワワちゃん』が公開中のほか、5月には舞台「ハムレット」に出演予定。公開待機作に、映画『楽園』、『ある船頭の話』、『”隠れビッチ"やってました。』。
Fuminori Nakamura
1977年生まれ、愛知県出身。福島大学卒業。2002年、『銃』(新潮社刊)で新潮新人賞を受賞しデビュー。04年『遮光』(新潮社刊)で野間文芸新人賞、05年『土の中の子供』(新潮社刊)で芥川賞、10年『掏摸(スリ)』(河出書房新社刊)で大江健三郎賞を受賞。14年、日本人初の米文学賞「David L.Goodis 賞」を受賞。18年、『その先の道に消える』(朝日新聞出版刊)。
1994年生まれ、静岡県出身。2016年、ギターのTondenhey、コーラスのFanamo’とともに踊Foot Works結成。自身はラップを担当。17年3月、1stミニアルバム『ODD FOOT WORKS』をフリー配信。同年5月、ベースのSunbalkan正式加入後、フジロックフェスティバルで新人アーティストの登竜門、ROOKIE A GO-GOに出演。19年4月24日(水)、1年ぶりのフルアルバム『GOKOH』を全曲配信でリリース。
réalisation : TOMOKAZU YAMADA, direction de la photographie et montage : YUKI SHIRATORI, musique : PECORI (ODD FOOT WORKS) , acteur : NIJIRO MURAKAMI, texte : FUMINORI NAKAMURA, stylisme : HAYATO TAKADA, coiffure et maquillage : KOTARO for SENSE OF HUMOUR