心に響く、映画体験。

フィギュアスケートを芸術に高めた孤独な男の人生を追って。

心に響く、映画体験。

家でも外出先でも映画が観られる時代になったけれど、照明が落ち、予告編に続いて始まる劇場での映画体験って特別なもの!
2020年に創刊30周年を迎えるフィガロジャポンは、松竹マルチプレックスシアターズが運営する新宿ピカデリーや全国のMOVIXなどを主な上映劇場とし、世界各国から選りすぐりのミニシアター系作品の公開に力を入れるピカデリー プライム レーベルとタッグを組み、「人生の一本」となるような映画体験を応援。ピカデリー プライム レーベル作品レビュー第2弾は、実在のスケーターにフォーカスした『氷上の王、ジョン・カリー』。ジョン・カリーの残されている映像は粒子の粗いものも多く、劇場の大スクリーンに映すのは少々大胆かもしれない。けれど、ひとりの人間の、偏りはあれどひたむきすぎる人生は、スクリーンで観ることでより強く大きく訴えかけてくるもの。美しさと哀しみに満ちたジョンの人生と向き合ってください。

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残されている映像や写真から、せいいっぱいジョン・カリーの人生を追う。彼の恋人だった元スケーターや、恋の戯れにふけった時期のこともストレートに語られる。

日本では、羽生結弦の活躍で空前のフィギュアスケート・ブームが続いているが、1976年インスブルック冬季オリンピックの男子シングルの金メダリスト、ジョン・カリーのことを知っているだろうか。『氷上の王、ジョン・カリー』は、アイススケートをスポーツから芸術へと昇華させた伝説のスケーターの知られざる光と影に迫る、必見のドキュメンタリーだ。1949年生まれのカリーは、幼い頃からバレエに夢中だったが、父親に「男らしくない」と禁じられてしまう。スケートなら、スポーツだからという理由でスケートを習うことを許され、7歳からレッスンを始めた。氷の上にいると父の呪縛からも解放され、自由でいられる氷上に何時間いてもまったく苦にならなかったという。19歳になると本格的にバレエのレッスンを始め、文字通り氷上のバレエを目指すようになってゆく。

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栄光時代のジョン・カリー。この映画の魅力のひとつは、町田樹が字幕監修にかかわっていること。フィギュアスケートの専門用語なども、徹頭徹尾精確、かつ伝わりやすくなっている。

ところが当時は、男性スケーターが優雅に踊ることを良しとしなかった時代だったそう。またしても「男らしくない」と批判されたカリーは、それならばと、堂々、文句のつけようがないジャンプ(当時は3回転)を組み込み、全英チャンピオンに輝くのだ。

さまざまなハンディを乗り越え、堂々、1976年のオリンピックで輝くいた。ところが、マスコミが書き立てたのは、初のゲイをカミングアウトした金メダリスト誕生というセンセーショナルなニュース。ゲイに対する偏見が現代の比でなかった時代、カリーは好奇の目に晒されながらも、自らのセクシャリティについて否定せず、プロ転向後は自らのカンパニーを立ち上げ、フィギュアスケートを芸術の高みに押し上げるべく創造を重ねた。

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ジョンは繊細な心の持ち主だった。スケートシーンだけでなく、プライベートの彼の告白が多用されているのも興味深い。

しかし「僕の魂には才能と同じだけ、悪魔が宿っている」とカリーは語る。父親から受けたことのトラウマや英国社会の偏見、底知れぬ孤独と愛の渇望。それゆえ、ときに攻撃的、破滅的になり、愛に飢え、そしてエイズに倒れる。その44年の人生は、カリーの死の1年前に同じくエイズで逝ったヌレエフの生涯を思い起こさせる。ヌレエフもまた、幼少時に軍人の父からバレエを否定されながらも、生涯バレエに人生を捧げ、一方で気性の難しさでも知られていた。ヌレエフは“ニジンスキーの再来”と呼ばれたが、カリーが自らのカンパニーを立ち上げ、初めて披露した演目のひとつがニジンスキーが踊った「牧神の午後」だった。

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「牧神の午後」より。粗い画面で観ても息をのむ美しさと緊張感! 素晴らしい演出だ。

この「牧神の午後」や、カリーが滑るたびに涙を流したという「ムーンスケート」、いつになく生を肯定し「友情」をテーマした最後の作品「美しく青きドナウ」など、息をのむほどに美しいカリーの貴重なパフォーマンスと、その舞台裏での魂の叫び、そして攻撃的といわれながらも映像に残る数々のチャーミングな笑顔に、映画館で静かに熱く対峙してほしい。

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「美しく青きドナウ」より。最後にジョンが心のよりどころとしたのは友情。そのために創られたプログラムだ。

texte : REIKO KUBO

『氷上の王、ジョン・カリー』
●監督/ジェイムス・エルスキン 出演/ジョン・カリー、ディック・バトン、ジョニー・ウィアーほか 
●2018年、イギリス映画 
●89分 
●配給/アップリンク
●5月31日より、新宿ピカデリー、東劇、アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺ほか全国にて公開
©New Black Films Skating Limited 2018 / © 2018 Dogwoof 2018

2019年7月公開のピカデリー プライム レーベル作品『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』の試写会にご招待します!

※こちらのご応募は終了いたしました。

※応募締め切りは2019年6月9日

応募は終了しました。

texte : REIKO KUBO

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