心に響く、映画体験。

ゴッホが見た世界を、映画作家シュナーベルが描いた、『永遠の門 ゴッホの見た未来』。

心に響く、映画体験。

家でも外出先でも映画が観られる時代になったけれど、照明が落ち、予告編に続いて本編が始まる劇場での映画体験って特別なもの! 2020年に創刊30周年を迎えるフィガロジャポンは、松竹マルチプレックスシアターズが運営する新宿ピカデリーや全国のMOVIXなどを主な上映劇場とし、世界各国から選りすぐりのミニシアター系作品の公開に力を入れるピカデリー プライム レーベルとタッグを組み、「人生の一本」となるような劇場での映画体験を応援します。6作目は『永遠の門 ゴッホの見た未来』。誰かが知っていたゴッホ伝を伝えようとするのではなく、ゴッホが見た南フランスの風景、人々の表情などを、ゴッホ本人の目線で描いたという点でとてもユニークな作品だ。自ら画家でもある映画監督ジュリアン・シュナーベルが、印象派の画家の人生を通して見えるフランスの風景をスクリーンから届けてくれる。今回は、来日してくれたシュナーベル監督にインタビュー。創り手の言葉から、作品の味わいを広げてください。

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自身も画家だからこそ描きたかった、ゴッホの見た風景。

自らも画家であり、『潜水服は蝶の夢を見る』(2007年)(カンヌ国際映画祭監督賞受賞作)等、登場人物の「視線の物語」を得意とする映画監督ジュリアン・シュナーベル。孤高の画家を描く『永遠の門 ゴッホの見た未来』は、燃え立つようなヒマワリや糸杉を見つめるゴッホの視線を体感させつつ、狂気と隣り合わせの孤独と、目に映る真実を描き取ろうとする激しい情熱を焼き付けた。自ら画家でもある鬼才、シュナーベル監督は、観るものを驚かせる手法で本作を表現。このインタビューには美しいパートナー、ルイーズ・クーゲンベルグを伴って現れた。

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Julian Schnabel   1951年10月26日、ニューヨーク生まれ。ヒューストン大学で美術を学ぶ。ガウディの建築に魅了され、絵画制作を始める。世界各国で展覧会が開かれるほど有名に。96年『バスキア』で映画監督デビュー。ほかに『夜になるまえに』(2000年/ヴェネツィア国際映画祭審査員特別賞受賞)、『潜水服は蝶の夢を見る』(07年)など。本作ではゴッホ役のウィレム・デフォーとともに来日した。ウィレム・デフォーは本作でカンヌ国際映画祭男優賞を受賞、米国アカデミー最優秀男優賞にノミネートされた。

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――この映画は、アントナン・アルトーの「社会が自殺させた者」という言葉を引用した、オルセー美術館での『ヴァン・ゴッホ展に、シュナーベル監督が脚本家のジャン=クロード・カリエールとご一緒したことから始まったそうですが、おふたりの間でどんな対話がありましたか?

シュナーベル(以下S) ゴッホの「自画像」をまず見て、それから『ゴーギャンの肘掛け椅子』『医師ガシェの肖像』『古靴』といった作品を見て、一枚づつ、どうやって描かれたのかを私がジャン=クロードに説明したんだ。映画の完成後、彼はその時のことを「ヴァン・ゴッホから話しかけられているみたいだった」と語っていたね。ヴァン・ゴッホの絵を見た感覚、印象を積み上げ、美術館を出る頃には画家の人生が見えてくる。そんな感覚を映画に移し替えられるんじゃないかとジャン=クロードと話し合ったんだ。

ルイーズ(以下L) 展覧会に行った日からカリエールが関わってきたのは確かだけれど、その時初めて映画が始まったわけではないわ。これまでにたくさんのゴッホの映画が作られてきて、なぜまたゴッホなんだ?と乗り気じゃなかったところに、カリエールとジュリアンが話をして。これまでのゴッホの映画とは違う、画家本人が見た、画家の視点から、新たな映画を作れるんじゃないかということで、カリエールとの仕事が始まったの。

S 確かに最初にゴッホの映画を作ろうと言われた時はノーと言ったんだ。僕はプロの映画監督ではなく、そもそも画家なんだ。僕とゴッホとの関係は、この映画のプロジェクトをスタートさせたいというところから始まったのではない。僕の背中を押したのは、アートについての映画をやりたいという気持ち。もっと言えば、アートそのものを創り出したかったんだ。

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ゴッホがどんな絵に囲まれて生活していたかが画面で語られる。そして、複製も本作のために丁寧に作成された。

――ゴッホの伝記を語るというより、彼の眼差し、彼の絵画、彼の人生の中に観客を放り込もうとする試みだったわけですね。

S だから今回の映画は彫刻を造るようなプロセスで進んだ。そこに人がいて、どこに木があり、どんな風景なのか。そして道はどこにあり、人をどのように置くのか。すなわち、ゴッホがどこまで、どのくらいの距離を歩いて絵を描いたのか。そういうことも観客に体感させたかった。実際に僕らもこの風景の中を歩き、インテリア・アーキテクトであるルイーズの視点も共有しながら作業していった。冒頭と真ん中と最後がわかったから、もう観なくていいという映画は山ほどある。でも私はそういう映画ではなく、アートを創る時の、いわばドラッグのような感覚を味わえる映画を作りたかった。ゴッホという人物は、そういう状態に入り込む入口なんだ。

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南仏の大きな空。ゴーギャン役は「スター・ウォーズ」シリーズにも出演しているオスカー・アイザックが演じている。

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ゴッホの内面を追体験。

――ゴッホにとって、パリの画壇は冷たいグレーに沈んでいますが、ゴーギャンと出会い、アルルに行くと、その瞳に生命力あふれた自然の色が飛び込んできて、まさに彼の心理を追体験する心地でした。

L 私たちはゴッホの内面に入り込む視点も描こうとしました。パリからアルルに向かい、自由にあふれ、色彩に満ちた世界を見せたかったのです。

S とにかくゴッホの見た世界は自然光を生かし、色の補正はしたくなかった。ただ1ヵ所だけ、ゴッホが精神病院から抜け出したシーン、そこだけは彼の興奮を表すために黄色のフィルターをかけたんだ。

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自らの耳を切り落としたゴッホ。

――ゴッホは視覚性共感覚、視覚障害等の特性があったなどと言われることがありますが、『永遠の門』では画面の下方がぼやけて映し出される場面があります。彼の目には世界があのように見えていただろうということですね?

S そう。彼の目から見た風景はこんな風だったのではと思って、レンズにスプリットディオプターをつけて映したんだ。私自身、映画の画面も絵のようにところどころぼやけていてもいいと思っている。人の関心を引くために、すべてにきっちりフォーカスが合っている必要がないんだ。そのほかにも、映画にはゴッホの一人称の主観的なシーンと、他者の客観的な目から見るシーンが交ざっている。とにかくいままで誰も見たことがない映像を作りたかった。

L 映像に身体性を持たせることも大切だった。ゴッホが歩いている時には歩いている感じが大事だったし、画面が真っ暗になることがあるけれど、あれはゴッホが目を閉じて考えている時間。声だけが聞こえて。観客にもゴッホの息遣いを感じてほしかったの。

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監督が絶対的信頼を寄せるゴッホ役ウィレム・デフォー。

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美しい台詞の数々。

――アートを生み出すプロセスを体感させる映画は、いっぽうでゴッホの魂を表現する台詞も秀逸です。これらの台詞は、手紙等に残されたヴァン・ゴッホ自身の言葉ですか? それともジャン=クロード・カリエールが脚本で紡いだものですか。あるいは、監督自身の芸術に対する言葉でしょうか。

S   ある時、ジャン=クロードが「キリストは、死後3、40年経つまで世に知られた存在ではなかった」と話してくれて、それは台詞にいいねと。ゴッホは自らをキリストになぞらえていたりもしていたので、司祭とのシーンに使おうということになって。実は私は『巨匠とマルガリータ』(ソビエト社会から弾圧されたウクライナ出身作家ミハイル・ブルガーコフの小説)を映画化したかったんだけれど、その中にキリストを十字架にかけるかどうかを判断したポンテオ・ピラト総督の話が出てくる。彼は実はキリストを磔にしたくなかったわけだ。この映画の司祭はゴッホを正常かどうかを判断する役目を担っていた。また、ガシェ医師が「なぜ、絵を描くのか?」と問うた時に、ゴッホが「考えるのを止めるため」と答えるけれど、絵を描いていると思考が停止して、自分の中と外がひとつになるというアボリジニのアーティストから聞いた言葉を使ってみたんだ。『バスキア』で、クリストファー・ウォーケン演じるインタビュアーがバスキアに「どこからこの言葉が出てくるの?」と聞くと、「いろんなところから。あなたの言葉はどこから来るの? あなたは、マイルス・デイヴィスにその音はどこから来たかって聞くかい?」って答えるよね。そこにも通じる台詞だね。

――最後にお聞きします。ゴッホの眼差しと情熱をスクリーンに焼き付けたウィレム・デフォーの演技にも打たれました。37歳の画家を64歳のデフォーが演じたわけですが、やはり彼以外には考えられなかったわけですね。

S   そうなんだ。彼は30年来の友人で、対象に向かう探究心と想像力、そして身体的スタミナと運動神経、すべてに絶対的な信頼を置いている。彼のような役者はほかにいないから、彼以外なんて頭に浮かばなかった。私の好きなシーンなんだが、スケッチに向かうウィレムの微笑みを見逃さないでほしいね。

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ヨーロッパの名優が出演している。聖職者にはマッツ・ミケルセン、ゴッホの死の間際に親交があったガシェ医師にはマチュー・アマルリック。両人とも、007シリーズでの悪役を演じた経験がある!

『永遠の門 ゴッホの見た未来』
●監督・共同脚本/ジュリアン・シュナーベル 
●出演/ウィレム・デフォー、ルパート・フレンド、オスカー・アイザック、マッツ・ミケルセン、マチュー・アマルリック、エマニュエル・セニエほか 
●2018年、イギリス・フランス・アメリカ映画 
●111分 
●配給/ギャガ、松竹
© Walk Home Productions LLC 2018

texte : REIKO KUBO

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