俳優、斎藤工。そして、映画監督、齊藤工。表舞台であらゆる「男」を演じ、裏方にまわり物語をクリエイトしていく。齊藤工がいま見つめるものとは、何か。彼自身がシャッターを切り、選び出す。モノクロームの世界に広がる、「生きた時間」を公開していきます。

「同性の俳優の方を撮影していると、ホスピタリティというか、佇まいを返そう、としてくれているのを感じます」と齊藤は言う。今回、健太郎を撮影するなかで、スタートはこの写真のシチュエーションからだった。

渋谷駅近くの小さなミーティングルーム。その場にあるライトだけでシャッターを切る齊藤が、撮った写真を見せると、「健太郎はモノクロだから光が大切、とすぐ気付いてくれて。その後はどんどんスムーズに撮れました」

小部屋を出て、ビルの外へ。雑居ビルの１階の階段に齊藤は健太郎を座らせた。

「健太郎とドラマ『昼顔』で共演した時に感じたのは、決して浮かれることがない、間違いのない人間だな、ということ。どこか老成していて、その現場を引っ張って行ってくれるようなものを持っていた」

確かに、目の前で齊藤に撮影されている彼はとても静やかな雰囲気の持ち主だ。あまりしゃべらず、問うこともなく、穏やかに齊藤のリズムに合わせていく。

「若いからなんでもかんでもではなくて、一歩一歩、健太郎としての轍を作っていくような意志を感じる。こういう人間が、しっかりと頂上まで辿り着くのだと思う」

もう少し違うシチュエーションにトライしてみようと選んだ撮影場所は、開発真最中の渋谷駅前歩道橋。帰宅ラッシュの人通りが多い時間帯ゆえ、ふたりに気付く通行人が足を止めることも。それでも撮る者・齊藤工と、撮られる者・健太郎は、ともに意に関せずだ。

「彼らの世代が持っている、私の世代や時代にはない感覚を勝手に期待の眼差しで見ています。疑似体験のような、親戚のおじさんの目線のような。彼ら世代は皆、地に足が着いていて、たとえ派手に見えても根は真面目。そんな中でも、誰より正々堂々センターに立てて、センター以外でも輝ける人物、それが健太郎なのだと思います」

あと数年後にはまったく違う景色になっているであろう変わりゆく街・渋谷。いまこの写真の中に息づく健太郎が、眺め感じるものとは？　推測してみたくなる。

TAKUMI SAITOH
移動映画館プロジェクト「cinéma bird」主宰。映画監督作に『半分ノ世界』（2015年・国際エミー賞ノミネート)。国内外の映画祭にて作品賞、監督賞、俳優賞等、現在6冠を獲得した初長編監督作『blank13』が現在一部地域にて公開中。www.b-b-h.jp/actor/saitohtakumi