TAO'S NOTES

Vol.33 聖地シャスタ山で考える、環境問題。

TAO'S NOTES

アメリカはほとんどの人が2度のワクチン摂取を終え、最近では日常が戻りつつある。

私たち夫婦も5月頭に2度目を打ち、誕生日を兼ねて、ずっと行きたかったシャスタ山に行ってくることにした。

シャスタ山はカリフォルニア州の北、オレゴンとの州境近くに位置する。昔から先住民たちに聖なる山として崇められたいた、標高4300m超えるこの高峰は、日本からもたくさん観光客が来る有名なパワースポットだ。

楽しみにしながら車で向かっていると、途中まず見えてきたのが何十マイルも続く焼けてしまった山々。カリフォルニアの山火事は温暖化により年々激化しており、70年代と比べると毎年5倍もの土地が燃えてしまっている。

つい先日も私の住んでいる地域の近くで山火事があり、庭からは向こうの山で赤い炎が燃えているのが見えるほどで、避難バッグの準備までしていつでも逃げられるように、そわそわしながら三日ほど過ごしていた。(これを書きながらまた近所で火事があったらしく、庭から黒い煙を傍観している)

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毎年どんどん被害を増すカリフォルニアの山火事の爪痕。

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気を取り直し着いたシャスタ山の麓の気温は、5月下旬でも肌寒かった。

翌日は楽しみにしていたハイキング。同じ登山口からも複数のトレイルに別れており、私たちはほかの登山客が少ない空いているトレイルを歩き始めた。大自然を独り占めしているような静けさにさっそく圧倒されていたなか、急に夫が「熊が出てきたらどうしよう」とざわつき始めた。呑気な私は、「目を合わさないで後退りでゆっくり逃げるんじゃない?」などと、どこかで聞いたことがあるだけの対処法でどうにか前進しようとしていたが、心配そうな夫は「不安だからもっと人通りのあるトレイルにしよう」と言い出し途中で順路を変更した。

何組かの登山客とすれ違うくらいの、それでも空いている大きめのトレイルを歩くこと1時間半。ネオンイエローの苔や山頂を渦巻く雲、鳥の声やキラキラ光る雪解け水に感動していると、途中地点に山小屋が見えてきた。

そこにはキャンパーたちをガイドする管理人の男性が居て、明らかに登山素人の格好をした私たちを暖かく迎えてくれた。

最初は違うトレイルを進んでいたけど、あまりにも人気がなくて熊を恐れてルートを変えたんですと伝えると、70年代までに熊はすべて狩られてしまい、シャスタ山にはもう熊が居ないと教えてくれた。
もちろん熊には遭遇したくないが、ハンターたちに絶滅させられたと聞くとなんとも心が痛んだ。夫が別のトレイルで熊の心配をしている時、ネットで情報検索をしていたが、身を守るために銃を持って登山する人も居るという記事を読んだ。人間のほうが勝手に森に侵入しているのに、恐怖と保身からそこに住んでいる生き物を銃で撃ち殺そうという考えがとても理解できなかった。そこまでして登山をする人は、果たして本当に「自然を愛している」といえるだろうか。

4時間近くかけて登山口に帰ってきた私たちは、シャスタ山にお礼をし、ほかの有名スポットにも行ってきた。車で1時間弱走った先にはバニーフォールズという美しい滝があるキャンプ場があり、近くには映画『スタンド・バイ・ミー』のワンシーンで有名な古びた線路跡地もあった。

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シャスタ山はずっと雲隠れ。全貌は拝めず!

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大満足して宿泊先のロッジに帰って夕ごはんを食べた。登山客で賑わうロッジには、共同で使えるキッチンがあり、長期で滞在している人たちは自炊をしているようだった。そこに置いてあったゴミ箱を開けてみると、燃えるゴミ、生ゴミ、缶やペットボトル、ワインの瓶までもごちゃ混ぜになって捨てられていた。近くには「リサイクル」と書かれているゴミ箱もあるのに、なぜこんなに配慮がされていないのかと愕然とした。ショックを受けるだけではナイーブなので、今回はちゃんとホテルにメールを書くことにした。

山が好き、自然が好きだと言いながらこの地に来た人たちが取る行動とは思えなかった。誰かが後で分別してくれるとでも思っているのだろうか? アメリカは日本のように学校教育で教室やみんなで使う共同スペースを掃除するという教育がなく、残念ながら誰かがやってくれると思い込んでいる人も多い気がしている。

先日私のポッドキャストに、お笑いコンビ、マシンガンズの滝沢秀一さんにゲストで出演していただいた。ごみ収集員としての仕事もされている滝沢さんは、「ゴミ育」というものがとても大切になってくるだろうと言っていた。日本は地域によっては厳しく分別を推奨しているが、それでもやはり気にせずごちゃまぜになったゴミを捨てる人も少なくないそうだ。自分さえ良ければいい、自分が見えている範囲だけきれいであればいいと思う感覚は、やはり小さい頃に教わった教育の影響が大きいだろう。

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毎回発見があるポッドキャスト。たくさんの方に聞いていただきたい!

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実際のところは環境汚染をしているという感覚がある人はそんなに多くなく、知らず知らずのうちに加担してしまっている人がほとんどではないだろうか。

たとえば化学繊維で出来ている洋服や食器のスポンジは、洗うたびにマイクロファイバーという小さなプラスチックが海に流れ出ている。パタゴニアが日本で販売しているグッピーバッグというランドリーバッグなどを使用したり、天然素材のスポンジや布巾を使わない限り、このマイクロファイバーは排水から海に流れ出し、魚が誤って飲み込み、それを食べる人間に戻ってくる。1ヶ月にクレジットカード一枚分のプラスチックを体内に摂取しているといわれるが、最近は胎児からも見つかるなど、どんどんその怖さが明らかになってきている。

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大自然と触れ合うことで、自然保護がどんなに大事かリマインドされる。

ペットボトルから飲料水に溶け出すプラスチック成分のこともまだまだ多くの人には語られていないし、日本などの先進国はそのプラスチックゴミを途上国に押し付けるという不正義まで行っているが、ペットボトルを買っている人に、自分がそんなことに加担しているという意識のある人は少ないだろう。

ここでは挙げきれないほどの環境問題を、私自身も学びながら発信している私のポッドキャスト、「エメラルドプラクティシズ」をいま一度多くの皆さんに聞いていただきたいと思う。そして知らなかった! と思うことがあったら、家族や友だち、周りの人にも伝えてほしいなと思った。

今回の旅は自然の美しさと人間活動の恐ろしさを同時に感じ、ますます気候危機や動物の権利について勉強し、取り組んでいきたいと原点回帰させられるものになった。私自身も決して完璧ではない、というか、環境に負荷を与えずに生きていくということは、現代においてほぼ不可能である。だからこそ知り、実践可能な限り努力を続けたい。
自然に汚れて欲しい、動物に絶滅して欲しいなんて思っている人なんて、この地球に居ないはずなのだから。

TAO

千葉県出身、LA在住。14歳でモデルを始めた後、2013年『ウルヴァリン:SAMURAI』のヒロインとして女優デビュー。以降、『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』(16年)やドラマ「ハンニバル」「高い城の男」(ともに15年)など話題の映画やテレビドラマに出演。18年はHBOドラマ「ウエストワールド」に出演、日本では『ラプラスの魔女』や『マンハント』が公開され、国内外で活躍の場を広げる。インスタグラムのアカウント@emeraldpracticesでは、バイオダイバーシティや環境問題について投稿。新たにポッドキャストにて「エメラルド プラクティシズ」をスタート、ゲストを迎えてグリーンなライフスタイルへのヒントを発信していく。

※TAOのオフィシャルインスタグラムでは、連載「TAO'S NOTES」で読みたいテーマを随時募集中。コメントまたはDMにてお知らせください。@taookamoto

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