連載【石井ゆかりの伝言コラム】第5回「エイプリルフール」&「ゴールデンウィーク」
石井ゆかりの伝言コラム
第5回「エイプリルフール」&「ゴールデンウィーク」
私は「筋トレ」というウェブサイトを気づけばもう17年も運営しているのですが、2005年ごろから、4月1日にはエイプリルフールの企画をするのが恒例となりました。3月31日から4月1日に日が変わった瞬間に更新し、昼ごろには撤収しなければならないので、毎年この2日は少々忙しく過ごします。
楽しみに待っていてくださってノリツッコミをくださる読者も多い一方、完全に信じてくださって、戸惑いや苛立ちを表明される方も少なくありません。また、ネタバレ後に怒りのコメントを頂くこともありまして、我ながら「いやな思いをする人がいるのに、なんでこんな苦労をして仕込むのかな……」と自問自答したりします。もちろん、人を傷つけるようなネタではないのですが、そもそも騙されたということ自体に悲しみや怒りを感じる、というのは、当然の反応だと思います。
とはいえ、1年に一度くらい、本気でふざけたっていいじゃないか!という遊びゴコロで、いろんな方がエイプリルフールを楽しんでいるわけですが、昨今では別の機能もあるのかもしれない、と思うようになりました。というのも、「フェイクニュース」という言葉が一般的に用いられるようになったからです。日本では「デマ」のほうが解りやすいかもしれませんが、何らかの意図をもってつくられたウソの情報が、まことしやかに広まる現象は、すでに日常的なものとなっています。ある研究では、「本物の情報」よりも「デマ」のほうがずっと広まりやすいという結果が得られたそうです。そもそもデマは「できるだけ広めてほしい」という意図のもとにつくられるわけで、人の心に響きやすくできているのは当然のことです。
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エイプリルフールに「ウソ」に騙されて、いい気持ちのする人はいないかもしれません。でも、エイプリルフールではない日でも、本当のようなウソがまかり通っていて、それを見抜くのが非常に難しい現代社会では、エイプリルフールは新しい価値を持つのではないでしょうか。すなわち「自分は盛大に騙されることがある」「多くの人が信じている情報でも間違っていることがある」という現象を、むきだしで体感できるからです。ウソというものは、世の中から決してなくならない、と私は思います 。ウソは「ある」のです。もちろん、ウソをつかずに生きていけたらそれがいちばんいいことですが、一度もウソをつかずに生きている人など、ごくマレではないかと思います。「あってはいけないこと」と「ない」ということは、別のことです。本来、あるべきではないことでも、そこにあるなら、それは「ある」と認識しなければなりません。「ある」ところから始めなければなりません。「なかったこと」にするわけにはいきません。そうしたむきだしの現実を、エイプリルフールは、笑いにくるんで見せてくれているような気がするのです。
占いというもの自体、「本当かウソか」と問われたら、限りなく「ウソ」に近いものです。未来について語るということは、その時点でもう、事実ではないのですから、ウソの一種といっていいでしょう。エイプリルフールも何もなく、私はずっとウソを書き続けている、ということもできるわけで、内心、忸怩たるものがあります。
とはいえ、フィクションの物語や占いのように、それがウソであっても、人に必要とされるもの、というのは存在しています。
ちなみに、フリーランスの私には、ゴールデンウィークというものは何の意味も持たないのですが、会社勤めのはずの編集者さんの中にも、ゴールデンウィークにじゃんじゃん仕事メールをくださる方がいます。世に言う「ゴールデンウィーク」も、ひょっとすると壮大な「ウソ」なのではないか……と、ときどき疑ってみたくなります。
Illustration : SHOGO SEKINE