連載【石井ゆかりの伝言コラム】第12回「きのこ」&「落ち葉」

石井ゆかりの伝言コラム

第12回「きのこ」&「落ち葉」

きのこがおいしい季節がやってきました。
きのこ類はおいしくてローカロリー、たくさん食べてもまったく罪悪感がないので、本当にありがたいです。私はとても太りやすく、運動も続かないほうなので、若い時からカロリーにはとても敏感でした。ゆえに、スーパーに行くと食材が「魅力的だが危険な食べもの」「安全だが味気ない食べもの」「おいしくて味方になってくれる食べもの」などの分類に色分けされて見えてくる感じがあります。きのこは「おいしくて味方になってくれる食べもの」、頼もしいやらありがたいやらなのです。

しかし、きのこにはちょっとほろ苦い思い出も見え隠れします。というのも、私はごく幼いころは、つやつやの直毛だったのですが、10歳前後くらいから少しずつ髪が縮れて、バクハツ系の天然パーマ少女に変貌してしまいました。「くせ毛」などというなまやさしいものではなく、昨今ではテニスの大坂なおみ選手を見て、そのヘアスタイルに激しい親近感を覚える程度の本格派です。「ああ……彼女に憧れた人がどんどんああいうパーマをかけてくれて、この髪の毛も市民権を得るようになればいいのに……」と心から思いました。そんな髪質になったのにもかかわらず、小学校高学年から中学1年生くらいのころは短めに切っていたので、ぽっこり膨らんだ「きのこ頭」になってしまったのです。ゆえに「きのこ」というありがたくないあだ名で呼ばれる時期がしばらくあり、つらい思いをしました。きのこを見るといまも、あの時の恥ずかしさや情けなさをふわりと思い出し、心の奥がちくっと痛みます。

最近、白髪が増えてきて、人生も後半戦に入ってきたことをしみじみ、感じるようになりました。若い苗がそれなりに育ち、緑の葉をふさふささせたあとは、葉を落として、やがて枯れていくことになります。人生もそのとおりで、多少の時期のズレこそあれ、誰もが同じように老いていきます。この「老いてゆく」現象がつらくてたまらず、私たちはいわゆる「アンチエイジング」を試みますが、これとて「多少のタイムラグ」をつくってくれるだけなのだな、と思うと、儚さ虚しさが秋風のように胸にしみいります。
実は、私はもう長いこと、縮毛矯正をかけ続けてきたのですが、去年一念発起して、もとの縮れ毛に戻すことにしました。もうほとんどもとのちりちりに戻り、伸ばしに伸ばして、普段はまとめていますが、いざという時はムースでカールを出してみたりもします。白髪にはヘアマニキュアをして、できるだけこぎれいになるよう頑張っていますが、なかなか、たいへんです。

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思うに、縮れ毛も、加齢も、「私のせい」ではないのです。母も祖母も縮れていますし、これは明確に遺伝です。でも、私はなんとなく、自分の縮れ毛を長いこと恥じ、負い目を感じ、罪悪感さえ感じているところがある、ということに、最近、気がつきました。このちりちりは決して、私のせいではないのですが、なぜか「自分の怠慢」のように思ってしまっているところがあるのです。
自分のせいではないことを自分のせいだと思い込むのは、「認知の歪み」なのだそうです。幼い子が、離婚する両親を見て「自分のせいだ」と思い込むことがあるそうですが、その延長線上にあるような考え方です。世の中には、なんでも人のせいにする人もいれば、なんでも自分のせいだと思い込む人もいて、どちらも「認知が歪んでいる」ということなんだそうです。確かに、何もかもが人のせいではないし、何もかもが自分のせいなわけはないのです。

とはいえ、誰のせいにもできないことを「受け入れる」のは、けっこう、難しいことです。自分のせいであれ、誰かのせいであれ、いったん「それをどこに帰属させればいいのか」ということを決めないと、私たちはそのこと自体を受け止めづらいところがあるのかな、と思います。

ともあれ「このちりちりは、私のせいではない、私に責められるべきなにごとかがあるわけではない」と思えれば、もう少し気楽にこの髪の毛とつきあえるのかな、という気がしてきました。腹回りに肉がつくのも、傷の回復が遅いのも、目がかすんで本を読む時は眼鏡を外すのも、ぜんぶ私のせいではなく、みんな自然にそうなることになっているだけなのです。落ち葉がひらひら落ちるのを見ながら、ぶよぶよする腹回りをさすり「アレと同じ、自然なことなのだ」と自分を勇気づける今日このごろです。……いえ、少しウォーキングをしてみたりもしております。できるだけ毎日30分は歩くのです。そして、きのこ万歳なのです。人間は、どうにもあきらめの悪い生き物でもあるのです。

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illustration : SHOGO SEKINE

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