ザラの新社長マルタ・オルテガ37歳ってどんな人？

37歳のマルタ・オルテガが、スペインで最もパワフルな女性になることは決定的だ。父は10年の時を経て、ZARAなどを擁するスペインのアパレル企業最大手、インディテックスの社長に娘がふさわしいと判断した。

ヴァレンティノのファッションショーに登場したマルタ・オルテガ。(パリ、2019年9月29日) Getty Images

本社に“ザリナ（スペインのメディアがマルタにつけた愛称）”のオフィスはない。ZARAのチームと一緒にオープンスペースで仕事をしている。1975年に最初の妻ロザリアとスペインブランドを設立し、1985年にはインディテックスグループを設立した85歳のファッション界の大物である彼女の父アマンシオ・オルテガは、常にこのようなことを行ってきた。2022年4月1日から、スペインのアパレル企業最大手の次期会長に就任する37歳のガリシア人、マルタ・オルテガのことを同社の従業員はよく知る。もちろん、彼女は創業者の娘である。カラフルな色合いのミニマルファッションに情熱を注ぐ彼女は、グループの最高のアンバサダーの一人となっている。彼女のモードでシック、機能的な着こなしは、簡単に真似することができる。しかし何よりも、彼女の黒い瞳とふんわりしたブロンドボブの奥には、オルテガ家の極めて重要な相続ストーリーが隠されている。

何年もの間、アマンシオ・オルテガの3人の子供（サンドラ、マルコス、マルタ）のうち末っ子が、約870億ユーロ（約11兆3000億円）といわれるガリシア帝国を継ぐことが決まっていた。家長は長い間検討していたが、その結論は秘密のままだった。しかし、今回のマルタの就任は、2011年に父であるアマンシオが会長を退任したことに始まる、一族の長い引き継ぎの集大成のようなものだ。

マルタ・オルテガと父のアマンシオ・オルテガ。(ア・コルーニャ、2018年6月20日) photography: Getty Images

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"彼女は父親よりもファッションに精通している“

マルタ・オルテガは、現在17万5千人以上の従業員を抱える同社で、15年間、歯を食いしばって働き、彼女はインディテックスの社内事情を知ることができた。彼女は、正式な役職にはつかずに、ほとんどすべての部署を経験した。近年は、ZARAのレディースファッションをコレクション責任者のベアトリス・パディンと共に監修し、ブランドのイメージアップを図っている。ジャーナリストのザビエ・R・ブランコは、「アマンシオ・オルテガ」など、インディテックスに関する複数の著書を執筆しており、ゼロからZARAまで、「父親よりもファッションに精通している」と語る。

これは、2017年以降、同ブランドのキャンペーンを、この分野で著名な写真家であるスティーブン・マイゼルとマリオ・ソレンティが撮影していることにも表れている。ZARAは現在、ファッション誌に近いビジュアルの美しさを追求している。また、最近ではシャルロット・ゲンズブールとのプレミアム・コレクションを発表するなど、セレブリティとのコラボレーションも行っている。マルタ・オルテガは、自分の名前を出したファッションイベントなどを通じ、ネットワークも構築している。12月初旬には、ア・コルーニャで彼女の「個人的な支援」による写真家ピーター・リンドバーグの初回顧展が開催されたばかりで、ナオミ、ケイト・モス、リンダ・エヴァンジェリスタ、クレア・ワイト・ケラー、エマニュエル・アルトなど、ファッション界の知識人たちを招待した。2019年9月に亡くなった写真家に敬意を表し、合計百数十名のデザイナー、アーティスト、スタイリスト、写真家、俳優、モデル、インフルエンサーが集まった。これは、ZARAがファッション界の重鎮たちに嫌われていた時代が、だいぶ前に終わった証拠である。

マルタが有名になるきっかけは、彼女が23歳の時だった。スペインの日刊紙「エル・パイス」によると、父親がこっそり彼女をロンドンに送り、ヨーロッパ・ビジネス・スクールのすぐそばにあるZARAのショップで販売員として働き、「あまりうまく行かなかったものの、粘り強くビジネスを勉強した」と言う。

後に彼女は、「最初の1週間は仕事を続けられるとは思わなかった。でも段々お店にハマり始めた」とウォール・ストリート・ジャーナル誌に語っている。手首にロレックスの時計を身につけていることに気づいた人もいたが、彼女は自分の正体を同僚に明かさなかった。それもそのはず、オルテガ一族は秘密主義が特徴なのだ。しかし、その後も末っ子はマスコミの注目の的となった。マスコミは華やかなイメージを拒否する一族を華やかに演出しようとしたのである。両親は、好奇の目から逃れ、ア・コルーニャの街角で普通の生活を送ることを望んでいた。

ピーター・リンドバーグ回顧展でのマルタ・オルテガ。ピエールパオロ・ピッチョーリ、ナオミ・キャンベル、カルロス・トレッタが同伴した。(2021年12月1日、ア・コルーニャ)  photography: Getty Images

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イエズス会とジェットセット

2021年8月、マルタは初めて父の神聖なルールの一つである「マスコミの取材に応じないこと」を破った。彼女が沈黙を破ったのは、「Zaraの秘密兵器」として紹介されたウォールストリート・ジャーナル紙だった。アメリカの経済誌の付録は一面を彼女の特集とし、ファッション写真家スティーブン・マイゼルの手によって撮影され、彼女の不朽の名作となった。

ア・コルーニャにあるインディテックスの本社で行われたこのインタビューは、同社が直面している中国の少数民族ウイグル人の強制労働に関する告発を遡るものではないが、その目的は極めて具体的である：アマンシオ・オルテガ氏の娘で、グループ内の管理職には就いていない（ただし、不動産部門には就いている）同氏を、後任として正式に就任させるためだ。実際、この記事では、父親の最初の結婚相手であり、2013年メノルカ島で夏の休暇中に脳卒中で亡くなったロザリア・メラとの間の2人の兄たちについて、一切の憶測を排除している。

 

 

 

 

 

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マルタと15歳年上の異母姉サンドラ、重度脳性まひの異母兄マルコス（創業者の次男）との関係はほとんど知られていない。しかし、細かなところを見て行くと、家族間でもギャップがある。オルテガ家に生まれたからと言って、教育の平等が保証されるわけではない。サンドラは公立学校、マルタはア・コルーニャのイエズス会系の学校で学んだ後、スイスのトップスクールでバカロレア（大学入学資格）を取得した。スペイン第2の富豪である姉は、メディアへの露出を極力控えているが、マルタは定期的にスペインの社会面に登場している。マルタは乗馬に情熱を注ぎ、プロの障害飛越競技に出場している。また、デザイナーのピエールパオロ・ピッチョーリが手がけるヴァレンティノのオートクチュールショーのフロントローにも登場している。そして、シャルロット・カシラギやスペインのレティシア女王が出席するガラ・ナイトにも数多く参加している。

マルタ・オルテガと、2番目の夫であるカルロス・トレッタ。(2018年6月12日、マドリード)  photography: Getty Images

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2回の結婚

マルタは、父の伝説的な厳格さにも関わらず、メディアにおける自由を勝ち取った。そして、2度に渡る結婚の際にも説得に成功した。1度目は、騎手のセルジオ・アルヴァレス・モヤとである。2012年に結婚を発表し、颯爽と笑顔で登場した（夫婦は男児を出産し、2015年には騒動もなく、別居に至った）。2度目は、2018年にモデルのカルロス・トレッタとである。アマンシオ・オルテガがすべての手段を尽くし、クリス・マーティン、ノラ・ジョーンズ、ジェイミー・カラムの音楽演奏で祝宴が行われた。

マルタの2番目の夫は、自分の居場所を見つけたような雰囲気を醸し出す。第二子の父親であることに加え、現在はZARAのコミュニケーション担当として、義父母のビジネスに関わることが多くなっている。スペインのメディアは、オルテガ家は結束力が強いと述べているが、それはプライベートだけではない。カルロス・トレッタは常に妻のそばにいて、常に彼女と公の場に現れ、ZARAのオフィスでも離れない。カルロスは、相続人であるマルタのため、彼女を待ち受ける試練に対する秘密兵器のような、ゆるぎないサポート役でありたいと願っている。数多くの試練が存在するからだ。

マルタの就任が発表されたとき、株価は6％下落した。この政権交代は、投資家には不評だった。彼らのメッセージとは？

10年間会長を務めたパブロ・イスラが去った後、マルタ・オルテガは、健全性の危機で揺らぐアパレル最大大手の成長を導く手腕を人々に示さなければならない。さらに、SHEIN（シーイン：中国発ファストファッション）など急成長を遂げる競合に対する戦略、厳しい持続的開発プログラムの適用、中国の少数民族ウイグル人による強制労働の非難に立ち向かう能力なども然りだ。これら多くの障害は、彼女にとって新たな人生の仕事となるだろう。