【だから欲しい、この時計】時計ジャーナリストがブレゲに惹かれる理由。時計が伝える人生の在り方とは。

いい時計には求められる理由がある。そしてその理由も百人百様！業界の流行からマニアックなネタまで時計宝飾を知り尽くすジャーナリストがいま手に入れたい腕時計と、その魅力とは？
今回はウォッチ&ジュエリージャーナリストの野上亜紀が選んだブレゲをご紹介。

現代に蘇る、革新的な懐中時計の物語。
かつて文学研究の道を志していたことがある。しかし続けるうちに、私にとってそれは辛い歩みともなった。というのも未熟さゆえ、研究対象として小説や詩に触れていくうちに視野が狭まり、初めて読んだ時の喜びや、語り手の思いを素直に受け取ることができなくなったからである。いま仕事をしていてよく思うのは、やはりスペックなどの情報に目が行きがちなこと。しかしこの時計はその裏に、創業者が生きた時代の息吹や、現代に通ずる人生の在り方までをも伝えてくれる。時計ってやっぱりおもしろい、そう思わせる力がある。だから私はこの時計に惹かれてやまない。

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About Watch

現代に残る機構を数々発明し、時計の歴史を200年早めた人物として知られるアブラアン-ルイ・ブレゲ。「スースクリプション」とは、価格の4分の1の金額を支払うことで注文が確定するデポジット方式のことだ。それによりブレゲの工房は製作のための物資を獲得し、安定した生産を叶えることとなった。ブレゲ考案の広告パンフレットによって口コミが広まったという逸話にも、発明家であると同時に優れたビジネスマンでもあった人物像がうかがえるだろう。1本針で時刻を表示する独創性の裏側に、かの時代を生きた作り手の息吹もが蘇る。

＊「フィガロジャポン」2026年1月号より抜粋