転職と天職

ジャンヌ、美容ジャーナリストから一家お揃いのパジャマへ。

特集

フィガロジャポン本誌にもビューティストとして何度か登場したことのあるJeanne Deroo(ジャンヌ・ドゥロー)。その当時はフランスのモード週刊誌のビューティジャーナリトだった。その職を去った彼女は、現在パジャマブランド「Holi Holi (オリ・オリ)」のオーナー・デザイナーとして満足の日々を送っている。今年34歳だ。

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ジャンヌ・ドゥロー。デニムに合わせているのはHoli Holiのパジャマのトップ。photo:Inside Closet

9年のジャーナリストライフに終止符

「出版社を辞めることにしたのは、第2子出産の1カ月前。その1年くらい前から、別のことをしたいって思っていたの。仕事はとっても気に入っていて、満足していたのよ。仕事仲間たちとの関係も、とってもよかった。最初に雑誌で働き始めた時は編集部全般の研修生として。その間に美容が自分の楽しめることだってわかったので、その分野に進み、自分が実際に使う品、信じられる品についてジャーナリストとして語れることにすごく満足していたわ。ニュースページも任されるようになって。だけど、9年たったところで、仕事を一周したという気もし始めていて……。それに以前に比べると、私、新製品をあまり紹介しなくなっていたのね。なぜかというと自分が信じられない品、自分が使わないだろうという品を読者に勧めるとことができなかったから。私の記事を読んだ人がその品を買って、雑誌にだまされたと思うような記事は作りたくなかった。自分らしく働けない。そう思うようになった頃、雑誌の売り上げも陰りが出て、ページのクオリティにも変化があって……」

2018年11月、先を決めずに退社した。それから、次に何がしたいのだろうかと考え始めたそうだ。ビューティジャーナリストではないことは確か。定刻出勤、定刻退社の会社員は子どもが2人いるので想像外。自分で起業することを見つけなければ、と。

「何も見つからないまま、3月に例年どおり春のホーリー(Holi)祭に参加するためにインドに行ったのね。そこで思い出したのは、妊娠中、いつもインドで働いている妹にパジャマを買ってきて!ってお願いしていたこと。パリでは手頃な価格の着心地のよいパジャマが見つけられずにいたので。インド製のはモチーフは私の好みではないから、心から欲しい品というのじゃないけれど、薄手の素材でとってもしなやかなので快適なのよ。ホーリー祭でインドに滞在してる間に素晴らしい縫製工場を訪問して、そこで家族全員がお揃いのパジャマを作りたい!というアイデアがわいたの。これは楽しめるわ、と思ったわ」

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ジャンヌの家族、友達……大人も子どももお揃いのパジャマで。ブランド誕生の背景にはこんな光景が。

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毎日新しいことを学んだ興奮の準備期間

いまでこそ夜間外出制限ゆえにフランスでパジャマは注目のアイテムだが、当時、ジャンヌが思いついたアイデアについて話すと、誰もが「えええ、パジャマ〜??」という反応。例外は、パジャマで過ごすのが大好きというご主人のパトリツィオで、成功を心から信じてくれたという。

「ブランドを設立する前の半年は経理、グラフィックデザイン、サイトの立ち上げといった技術的なことを学ぶ期間だった。9年間の雑誌の仕事で学んだこととは全然違うことばかり。私の脳に新しいスキルが!!!っていう日々。昨日知らなかったことが今日できる、っていうことで自分が豊かになってゆくのが毎日すごく楽しかった。やりがいあって……。どこかで誰かに習うというのではなく、すべて独学したの。いまの時代ってインターネットで山ほどのチュートリアルが見つけられるでしょ。これ、どうすればいいの?ってクリックすると、回答がある。それに私の周りには起業した女性たちが大勢いるので、いろいろなアドバイスをもらえたわ。まったく新しいことを始めるのは、毎日学ぶことがあるということ。このことにいちばん感激があった。だから、たとえ転職がうまくいかなくっても、それは大したことじゃないのよ。少なくとも何かを学んだのだものって、考えたわ」

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ストライプの「Riviéra」。大人95ユーロ、子ども50ユーロ、ベビー50ユーロ。パジャマは共布のバッグに入れて発送される。

2019年9月に“夜のコスチューム”とうたうブランド「Holi Holi(オリ・オリ)」を発表し、販売はクリスマスシーズンに間に合うように10月からというのが理想だったが、11月からとなってしまった。それでも、結果は上々だったそうだ。ブランド名の由来は、子どもが寝る時間がくると親たちが“au lit, au lit(オリ・オリ)”と声をかけてベッド(lit)に向かわせることから。それにHoli祭の時にパジャマのアイデアを得たことを掛け合わせてオリ・オリと決めた。Hを発音しないフランス人、ホーリー祭をオーリー祭と発音する。9年間雑誌で原稿を書いていた彼女にとって、こうした言葉遊びはお手のものだ。

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家族全員お揃いのパジャマをインドで生産

ブランドの特徴は彼女の発案どおり、同じプリントでベビー、子ども、女性、男性のパジャマが揃っていることだ。これは既存のパジャマ専門のブランドのどこもしていない。プリントによっては着物タイプの部屋着も作っている。2カ月にひとつのペースで新しいプリントの新作を出し、ゼブラ、パンテール、トロピカルの3つの柄は定番として常に販売しているそうだ。

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このブルーのプリントは「Amazonia」。

「プリントは既存のものだけでなく、私が選んだモチーフをオリ・オリ用にプリントしてもらってるのもあるわ。ゼブラ、パンテールがその例ね。素材はインドの薄手のコットンを使用。冬でもパリのアパルトマンの中は暖かいので、厚手のパジャマっていらないと思うの。生産はインドだけど、いまの時代、What ‘s up(モバイルメッセンジャー・アプリケーション)があるから、現地に赴かなくても仕事は進められるでしょ。どうしてもチェックしなければならないことが起きたら、インドに住んでる妹に工場に行ってもらうの。でも、それだって年に2〜3回程度よ」

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パジャマと部屋着(75ユーロ〜)。

ジュエリーデザイナーのマリー・エレーヌ・ドゥ・タイヤックを叔母に持つジャンヌ。彼女のいちばん下の妹がインドで叔母の仕事を手伝っているのだ。そうしたこともあり、ジャンヌはインド人の仕事についてよく心得ている。ときにパジャマのタグが上下逆さま!なんてこともあるが、「彼らとの仕事には少しばかり忍耐が必要ね。私、マニアックにならないようにしてるわ。インド生産は少しばかり仕事がアバウト。たとえばこのパジャマを見て。ストライプのプリントも部分的に縞がずれていたりするでしょ。私はこうした面も人間的で好きなのだけど、正確さ、完璧を商品に求める人たちには受け入れがたいことだと思う。たとえば日本のブティックに卸したら、私の家は返品の山になってしまうでしょうね(笑)」

昨年ボン・マルシェで販売したが、基本的に販売はオンライン・オンリー。アパルトマンと同じ建物の最上階にオフィスとストックルームを構え、商品の発送もそこから行っている。パジャマライクなプレタポルテがトレンドということに加え、夜間外出制限が続くフランスでは在宅時間が通常より長いので、パジャマの売り上げも好調だ。

「自宅で過ごすのに外出着は不要でしょ。いま人々が買うとしたら、家のなかでぐずぐずするのに適した品。私も一日中ということはないにしても、日曜などけっこう長時間パジャマで過ごしているわ。私だけでなく家族全員で。それにいまの時期に限らず、うちでは一日の早い時間にパジャマに着替えることがよくあるの。夕方帰宅してシャワーを浴びたら、パジャマに着替えて。だから一家揃ってパジャマで夕食……これは、我が家だけにこれは限らない。同じようにしている友達、けっこういるのよ」

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モデルも撮影場所も友達ネットワークを活用するジャンヌ。この写真はHotel des Deux Garesにて撮影された。

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自分が楽しめることが第一

昨年末は巨大なトートバッグも作ってみた。セクシーな下着で知られる「Henriette H(アンリエット・アッシュ)」のサラ・スタリアーノと親しいことから、彼女とのコラボレーションでショーツも作った。また夏には内側がゼブラ柄のボブハットも作る予定でいるが、この先、シャツを作るなど分野を広げることは考えていない。

「もしかするとシーツは作るかもしれないわ。“眠り”の世界を続けてゆくつもり。大切なことは、私自身が楽しめること。たとえば、いまは気の合うグラフィックデザイナーと夏のパジャマのプリントについてやりとりしているところ。インスタグラム用の写真撮影も友達、家族……仲のいい人たちと一緒で愉快にやってるわ。これは購入する人たちが自分たちの姿を投影でき、ブランドへの親しみやすさを感じられる写真だと思う。さまざまな面で私、本当に楽しんでいるの。とりわけうれしいのは、発見することがたくさんあることね。それに自由! 時間だけでなく、突然牛のプリントのパジャマが欲しい!と思ったら、それを実現できるクリエイションの自由もある。ビューティジャーナリストからの転職に、後悔はまったくないわ」

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ジャンヌ(写真左)もモデルとして撮影に参加。遊び心あふれるパジャマ写真がブランドのインスタグラムを賑わしている。

幼い頃、彼女は建物のコンシエルジュ(管理人)になりたいと夢見ていたそうだ。建物内で起きているすべてを知ることができるから、と小さな頃から好奇心いっぱいだったジャンヌ。ジャーナリスト時代は信念をもって自分の意見を伝える喜びを味わっていた。昨夏まで暮らしていたアパルマンのエントランススペースに“C’est la fête(It’s a party)”と掲げていたように、ご主人ともども楽しみ方を知る彼女。そんなジャンヌが自分らしさを求めた転職、それが一家お揃いのパジャマだったのだ。

「起業することに、恐れも不安も全然なかった。それに万が一うまくいかなくっても、ほかのことをすればいいだけ。もしパジャマはもういいわ、となったら、別のことを探す。これが企業家であることのいいとこね」

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réalisation : MARIKO OMURA

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