オペラ座で年に一度開催される昇級コンクール(後編)
そして、ジェルマン・ルーヴェがエトワールに!
パリとバレエとオペラ座と。
スジェ8名が争ったプルミエの1席。獲得したのはジェルマン・ルーヴェだった。1月1日からプルミエ・ダンサーに、という直前の12月28日、『白鳥の湖』の主役を踊った彼を、芸術監督の推薦を基にオペラ座総裁がエトワールに任命した。これは少々特殊な飛び級例だ。なお、彼のエトワール任命によりプルミエ・ダンスールの席が空いたわけだが、コンクールで第2位だったダンサーが繰り上がって昇級することはなく、この空席は2017年のコンクールで争われることになる。
2016年12月28日、『白鳥の湖』でジークフリート役を踊ったジェルマン・ルーヴェがエトワールに任命された。右はオーレリー・デュポン芸術監督とステファン・リスネールオペラ座総裁。photo:Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris
ジェルマンのエトワール任命が遠くないことは、11月のコンクールの時点ですでに噂されていた。というのも、オレリー芸術監督は、主役にはエトワールを配役する! と宣言していたにも関わらず、年末の公演の『白鳥の湖』の主役にエトワールと共にスジェの彼を3公演に配役していたからだ。
コンクールの後、昇進が決まった時に彼はこれについて次のように語っていた。
「これは子供の時から踊りたいと夢見ていたバレエ。だから、配役されたことを知った時はうれしかったですね。主役のプリンスを踊れるなんて、スジェの僕にはとても幸運なことです。でも、エトワールに混じって僕が主役に配役されている、ということゆえに、実は11月のコンクールではいつも以上にプレッシャーを感じてしまいました。上層部の僕に対する期待に応えられる存在でなければ、ということで。 プリンスを踊るということについても、スジェの僕が! ということを考え出したらストレスが大きくなってしまって……だから、ベストを尽くし、自分も舞台で楽しめ、観客とそれを分かち合えることだけを考えよう、と」
『白鳥の湖』より。ジェルマンのパートナーはエトワールのリュドミラ・パリエロだった。photos:Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris
その結果のエトワール任命である。エトワール・ダンサー数に規定はないので昨年2月にバンジャマン・ペッシュが引退したが、その枠を埋める必要はない。とはいえ、彼が去った後、次に誰がエトワールに任命されるのだろうかと、バレエ・ファンの間ではいろいろと憶測が飛び交っていたのである。
今年24歳になるジェルマンは、ブルゴーニュ地方の出身。4歳からダンスを習い始め、12歳でオペラ座バレエ学校に入学し、順調に6年で卒業した。カンパニーに入団したのは2011年だから、マチアス・エイマン同様に5年間でオペラ座のピラミッドの頂点まであがったことになる。2001年に入団し、2004年にエトワールに任命されたマチュー・ガニオに次ぐスピード昇進だ。ジェルマンは『白鳥の湖』以前にも、前芸術監督バンジャマン・ミルピエ時代に、すでに『くるみ割り人形』『ロミオとジュリエット』でレオノール・ボーラックを相手に主役を踊る機会に恵まれている。そのミルピエによる創作『クリア、ラウド、ブライト、フォーワード』にも参加したので、映画『ミルピエ パリ・オペラ座に挑んだ男』で彼に目をとめた人もいるだろう。オペラ座来日ツアーに参加する彼は東京文化会館での公演「グラン・ガラ」で、『ダフニスとクロエ』をアマンディーヌ・アルビッソンと踊るので、これは新生エトワールの生の舞台を見る絶好の機会だ。
プリンスを踊るに相応しい容貌の持ち主であり、フレンチ・スタイルの素晴らしい継承者である。正確さとしなやかさが自分のクオリティで、跳躍や回転は特技ではないと本人は謙遜する。しかし、舞台上で彼が手脚を広げると、まるで舞台の袖から引っ張られているかのように身体が大きく伸びて空間を埋めるのだ。この瞬間、これは観客には至福の時間といえる。
左:『白鳥の湖』より。photo:Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris
右:バランシン『ソナチネ』より。photo:Sébastien Mathé/ Opéra national de Paris
左:リュドミラ・パリエロと『Blake Works』。photo:Julien Benhamou/ Opéra national de Paris
右:レオノール・ボーラックと『くるみ割人形』。photo:Sébastien Mathé/ Opera national de Paris
次は誰がエトワールに? というのは、バレエ・ファンの間では尽きぬ話題である。ジェルマンの名前が挙がる以前には、男性ダンサーでいえばプルミエ・ダンスールのユーゴ・マルシャンとフランソワ・アリュという名前が次期エトワールとして何度もささやかれたものだ。 ジェルマンとはダンスのタイプも身体も異なる2人であるが、彼同様大変優れたダンサーだ。複数の審査員がジャッジするコンクールに比べると、エトワール任命というのは主観的な要素が大きい。現在の芸術監督の目指すオペラ座バレエ団がどういったタイプのエトワールを必要としているのか、どんな人物をエトワールとして相応しいと考えているか。こうした要素に左右されることも忘れてはならない。この先ジェレミー・べランガール(アデュー公演不明)、エルヴェ・モロー(アデュー公演は2018年4月)の引退が控えている。それまでの間にエトワール候補に相応しい新しい名前が増えるかもしれない。エトワール任命劇は、いつの時代もとてもスリリング!
Mariko Omura
madame FIGARO japon パリ支局長
東京の出版社で女性誌の編集に携わった後、1990年に渡仏する。フリーエディターとして活動し、2006年より現職。主な著書は「とっておきパリ左岸ガイド」(玉村豊男氏と共著/中央公論社)、「パリ・オペラ座バレエ物語」(CCCメディアハウス)。