ジェームスによる映像も見どころの『トリスタンとイゾルデ』

パリとバレエとオペラ座と。

≫ 前編 ドロテ・ジルベールとジェームス・ボルトの素敵な関係。

オペラ・ガルニエでは、愛娘を連れてバレエを見に来るジェームスの姿が時々見受けられる。もちろん、その日舞台で踊るダンサーは、妻のドロテ・ジルベールである。

「知り合った当時、彼女は『ドン・キホーテ』の公演があった時期だったので、彼女が踊るのを初めて僕が見たのは、この作品なんです。4〜5回見たでしょうか。彼女が踊る喜びを感じる作品に、どうしても僕はインスパイアされますね。『マノン』や『ロメオとジュリエット』など……。オペラ座のダンサーたちはみな優れた踊り手で、役の解釈によって違いが生まれます。ドロテは演技の点で評価の高いダンサー。だから、『Naissance d’une étoile』のために彼女が必要としたのは、彼女が感じることをいかに言葉に託すか、ということだけでした」

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ドロテ・ジルベールが女優として初出演した短編映画『Naissance d’une étoile』より。©Fulldawa Films

トリスタンとイゾルデの悲劇

ドロテの女優デビューについては次の機会に語ることにし、今回は、二人が関わったひとつのバレエ作品を紹介しよう。それは来年1月、東京の東急シアターオーブで開催される「ル・グランガラ」にプログラムされている『トリスタンとイゾルデ』である。この作品が全幕で踊られるのは、日本では今回が初めて。まずバレエから簡単に紹介しよう。

中世の騎士トリスタンと彼の伯父である英国コーンウォールのマルク王の妃となるイゾルデの愛の物語は、原典を9世紀のケルト伝説に遡り、西欧諸国では『ロミオとジュリエット』と肩を並べる愛の悲劇として名高い。惹かれ合うものの結ばれる運命にない二人。毒薬と誤って愛の媚薬を飲んだため、うねるような愛の嵐に身を任せることになり、叶わぬ愛の苦悩は二人を死へと至らせる、というのが大雑把なストーリー。物語には複数のバージョンがあるが、このバレエを創作した振付け家のジョルジオ・マンチーニはリヒャルト・ワグナーの同名のオペラをベースにしている。音楽にはオペラの第一幕の前奏曲、第二幕の「愛の二重唱」、第三幕の「イゾルデの愛の死」を使い、彼は出会い、愛の夜、そして愛の死の3つのパ・ド・ドゥでバレエを構成した。

二人だけの舞台を支えられる技術的にも演劇的にも力のあるダンサーとして、ジョルジオが選んだダンサーは、日本の公演でも踊るオペラ座のエトワールのドロテ・ジルベールとマチュー・ガニオ。ドロテの強さとマチューの繊細さ……それぞれ主人公のキャラクターにふさわしいクオリティの持ち主という、最高の配役である。

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ジョルジオ・マンチーニによる『トリスタンとイゾルデ』より、ドロテ・ジルベールとマチュー・ガニオによるファースト・パ・ド・ドゥ。ダンサーの動きにひと呼吸置いて緩やかにたなびくように反応する軽い素材による衣装は、イーキン・インによるデザインだ。photo:James Bort

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セカンド・パ・ド・ドゥ。この作品は2014年12月にフィレンツェ・オペラ座で初演された。photo:James Bort

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サード・パ・ド・ドゥより。シンプルだが効果的に主人公の船旅を想起せる舞台装置は、ティエリー・ゴードによるもの。photo:James Bort

パ・ド・ドゥをつなぐ美しい映像

このバレエ作品の特異性は、3つのパ・ド・ドゥの間を2つの映像がつないでいることだ。ジョルジオによると、これは作品の官能的な面をより強調するために思いついたこと。また、この間ダンサーが呼吸を整えることができるだけでなく、観客もひと呼吸おくことで次のダンスへの集中がより強まる、ということも彼の狙いだった。撮影を託したのは、映像美のヴィジョンを共にするジェームス。ダンサー二人の身体がスクリーンを埋める美しいモノクロ映像をつくりあげたジェームスが、3年前の創作当時を振り返り、こう説明をした。

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ジェームスのサイトでは、彼の美意識が凝縮されたこのフィルムの一部を見ることもできる。©James Bort

「ジョルジオから彼の振り付けと調和のある映像を求められました。僕が考えたのは、舞台と反対のこと。それは、会場から見る舞台上のダンサーは小さいのに対し、僕はすごいアップでダンサーを撮影するということです。肌のきめ、血管、筋肉……誰もこんなに近寄っては見たことがない、というくらいのアップで。この映像に見られるセンシュアリティは、ジョルジオの振り付けで見られる以上のものですね。ロダンの彫刻や古代の彫刻の中でも動きのある作品に、アティチュードのイメージを求めました」

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二人の鼓動が聞こえてきそうなほど、アップの映像が続く。©James Bort

かつて絵を描いていたジェームスだけに、人間の身体、動きが生む美しさには敏感である。モノクロの映像の中で、センシュアリティのシンボルでもあり、また「トリスタンとイゾルデ」に結びつく水が揺れ、白い肌が絡み……見る者の五感に強く訴えてくる。映像にこめられたエレガンスとアーティスティックなセンスは、彼ならではのもの。James Bort Factoryのページをチェックすれば、彼の才能と美意識について納得させられるはずだ。最近、日本の化粧品ブランドから発表される香水のプロモーションビデオを撮影したという。それが見られる時を楽しみに待とう。

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人体を白い彫像的に撮影。©James Bort

高め合い前進を続ける二人

ブログに始まり、写真、ビデオ、映画……と活動の場を着々と広げている彼。何かをしたい、と思ったときは、それなりの方法がみつかるものだと、頭に浮かんだアイデア、コンセプトを次々と実現に移してゆく。写真家だから写真だけを続ける、というのは彼の哲学にはないという。チャレンジすることに情熱を感じている。

「同じことを二度できないんです。ひとつのところに止まっていられない。というのも、すぐに退屈してしまうので。小説も書いてみたいし、バンド・デシネも描いてみたいし……。思春期の頃は戯曲もいくつか書いています。新しい計画を持つたびに、やる気が刺激されるんです」

尽きぬ好奇心の持ち主の彼は、短編映画を終え、今、長編映画にとりかかろうとしている。短編のアイデアを発展させたものとなるか、あるいはまったく別のアイデアか……。いずれにしても、短編に出演した俳優たちは、みな、彼の長編映画への参加を望んでいるそうだ。

「『Naissance d’une étoile 』のドロテは、堂々たるものでしたね。美しいダイナミスムがありました。長編もぜひ彼女に出演して欲しいです。僕は彼女に魅惑されっぱなしなんです。毎日すごくインスパイアされています。舞台裏の仕事、勇気、知性……素晴らしい女性です。モードにもアートにも、彼女はとても好奇心が強く、そんな彼女と共に歩んでいきたいと思っているのです。この短編は僕にとって初の映画監督作品で、彼女にとって初の主演映画。こうやって、共に成長しているのです。前進しているのです。いま、僕にはバレエ創作の計画があって、彼女といろいろ試しているところ。僕にはダンスの言語がないけれど、すべて文字にしてあって、僕なりの方法でクリエートしています。バレエは振付家の仕事というような神聖化はせず、何か良いものを生み出したいという、こうしたチャレンジが好き。彼女と一緒にプロジェクトを進め、可能な限り彼女と時間を共にしたいんです」

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ジェームス・ボルトのインスタグラムより。ドロテ・ジルベールにおくる愛の告白。©James Bort

「ル・グラン・ガラ」
日時:2018年1月11日(18:30~)、12日(18:30~)、13日(13:00~、17:00~)
会場:東急シアターオーブ(渋谷)

プログラム
『トリスタンとイゾルデ』(全幕日本初演)
振付 :ジョルジオ・マンチーニ
音楽 :リヒャルト・ワーグナー
出演 :ドロテ・ジルベール、マチュー・ガニオ
『ヴェーゼンドンク歌曲集』(世界初演)
振付 :ジョルジオ・マンチーニ
音楽 :リヒャルト・ワーグナー
出演 :ジェルマン・ルーヴェ、ユーゴ・マルシャン、オニール八菜
『スペシャル・フィナーレ』
料金:S席¥14,000、A席¥10,000、B席¥7,000
http://theatre-orb.com/lineup/18_legrand/

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