2019年5名の女性ダンサーが昇級。ビアンカがスジェに。

パリとバレエとオペラ座と。

女性カドリーユ→コリフェ(昇級者2名)

ヴィクトワール・アンクティル / Victoire Anquetil

2015年入団。女性カドリーユは30名近くと大勢いるので、コンンクールの参加者も当然多い。前回は18名、今回は16名である。全員が甲乙つけがたいパフォーマンスを見せたのだが、その中から1位で昇級したのがヴィクトワール。コンクールの結果は昇級者だけでなく、クラスごとに6位まで名前が公表されるのだが、前回彼女はその中にも入っていなかった。レオ・ドゥ・ビュスロルと同じケースである。しっかりとしたテクニックで安定した踊りを今回見せた彼女。レオに負けず劣らず仕事熱心なダンサーに違いない。顔も体つきも美しくダンスにはエレガンスがある彼女。強い個性を発揮する機会が訪れるのを待とう。

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ヴィクトワール・アンクティル photo:Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

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コンクールの自由曲は、『ドン・キホーテ』から第三幕のキトリのヴァリエーション。photo:Sébastien Mathé/ Opéra national de Paris

ナイス・デュボスク / Naïs Duboscq

2017年に入団したナイス。入団半年で『オネーギン』のオルガ役に配役されたことからもわかるように、オペラ座バレエ団の上層部の期待を多いに担ったダンサーだ。とはいえ、前回のコンクールではプレッシャーが大きすぎたのか実力を発揮できず昇級ならず。今回のコンクールでは課題曲も自由曲も音楽性豊かに頼もしく踊った。『椿姫』では自分の得になるものは何ひとつ逃さないという若いクルティザンヌのオランピア役だが、嫌味を感じさせず、その繊細さとエレガンスゆえに魅力的な小悪魔だった。2月の『白鳥の湖』に配役される彼女。白鳥の一羽を優美に踊ることは間違いない。

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ナイス・デュボスク。 photo:Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

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手足が長く、美しいナイスはバレリーナという言葉が連想させるイメージそのものでは?

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昨年12月は『椿姫』でオランピア役に抜擢された(写真はリハーサル時のもので、アルマン役のフローリアン・マニュネは怪我で降板)。photo:Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris

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女性コリフェ→スジェ(昇級者1名)

ビアンカ・スクダモール / Bianca Scudamore

快進撃を続けるビアンカ。ナイス同様、2017年に入団した彼女は初のコンクールでコリフェにあがり、そしていまやスジェである。コリフェの女性ダンサー9名が参加したコンクールだが、 舞台上での貫禄、しっかりとしたテクニック、音楽性、芸術性、輝き、チャーム……課題曲も自由曲もビアンカのひとり勝ちだった。彼女も『椿姫』では、オランピア役に。抜け目ないちゃっかりしたクルティザンヌ役を好演したのだが、途中怪我で降板してしまったのが惜しい。

とんとん拍子でオペラ座のピラミッドを上がっている。2015年のローザンヌのコンクールで彼女を見た人の何人が、4年後にオペラ座のスジェになっている彼女を想像できただろう。オペラ座バレエ学校の公演の際に、すでにその名を世間に知らしめ、いまに至っている彼女。すでに舞台経験が豊富な女性スジェたちが多いので、来年のコンクールではどうなることか。

余談になるが、彼女はオペラ座のバレエ学校で少しだけ学んでいるとはいえ、オニール八菜と同じくニュージーランドの出身である。2018年に外部試験で入団した男性カドリーユのニコラウス・チュドランはオーストラリア出身なので、現在オペラ座には3名のオセアニア圏のダンサーがいることになる。プルミエール・ダンスーズのセウン・パクだけでなく、女性カドリーユの中にも韓国人ダンサーが2名。すでに多数いるお隣のイタリア系ダンサーに留まらず、近頃のオペラ座では海外出身のダンサー数が増えているようだ。

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ビアンカ・スクダモール。photo:Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

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課題曲の『白鳥の湖』で確固たるテクニックを見せ、自由曲の『フォー・シーズンズ』で情感豊かにアーティストぶりを披露した。photo:Sébastien Mathé/ Opéra national de Paris

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女性スジェ→プルミエール・ダンスーズ(昇級2名)

マリオン・バルボー / Marion Barbeau

2008年に入団したマリオンは2013年にコリフェ、2016年にスジェに上がった。前回のコンクールではプルミエール・ダンスーズの空席がひとつあったものの該当者なしで誰も昇級しなかった。その結果、今年は2席。1位で上がったマリオンは入団当初はクラシックに強いダンサーというイメージが強かったのだが、ここのところコンテンポラリー作品でも良い配役を得ている。たとえば2017年のエクマンの『Play』、ホフェッシュ・シェシュターの『The Art of Not Looking Bakck』、今シーズンはナハリンの『デカダンス』。手足が長く、すらりとした体型のダンサーながら、コンテンポラリー作品では重心を落とし、しっかりと力強いダンスを見せて観客を驚かせる。年末は『シンデレラ』でアグリー・シスターズのひとりに配役され、コミカルな役にも挑戦。2月の『ゲッケ/リドバーグ/シェルカウイ』ではマルコ・ゲッケによる創作ダンサーのひとりに選ばれている。5月に再演されるオペラとバレエによる『イヨランタ/くるみ割り人形』は彼女に創作されたものなので、今回もおそらく主役に配役されることだろう。

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マリオン・バルボー。photo:Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

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レペットの香水のエジェリーをドロテ・ジルベールから引き継いだのがマリオンだ。

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12月はオペラ・バスチーユで『シンデレラ』。「春」(写真)と意地悪な義姉妹のひとりに配役された。photo:Y.Kellerman/Opéra national de Paris

エロイーズ・ブルドン / Héloise Bourdon

プルミエ・ダンスールのフランソワ・アリュのエトワール任命をファンが待つように、エロイーズの昇級もまたパリのファンが毎回期待してやまないものだ。入団は2007年で、2009年にコリフェ、2010年にスジェに上がった彼女。その美しい容姿と優雅なポール・ド・ブラは大勢のバレエ・ファンの心をつかみ、スジェながら『ジゼル』のミルタを踊り、『白鳥の湖』『ラ・バイヤデール』では主役も踊り、と配役に恵まれていた。ストレスに弱いのか、あいにくとコンクールでは苦戦を重ね、8年がかりでようやく今回プルミエールに上がったのだ。12月は『椿姫』でオランピアとマノンというふたつのまったく異なる役に配役され、アーティストとして順調に成長している姿を見せた。2月にはマリオン・バルボーと同じく、マルコ・ゲッケの創作ダンサーのひとりなので、公演が重なる『白鳥の湖』には配役されていないのが残念だ。

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エロイーズ・ブルドン。photo:Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

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自由曲に選んだロビンスの『アザー・ダンシーズ』で芸術面での成熟ぶりを見せ、見事昇級! photo:Sébastien Mathé/ Opéra national de Paris

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12月、オペラ・ガルニエの『椿姫』ではオランピア(写真)とマノンのふたつの役を踊りファンを喜ばせた。photo:Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris

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若手が勢いをつけて、上へ上へと上がっていったコンクールが続き、若いエトワールが誕生したオペラ座バレエ団。今回は着々とキャリアを積んできた実力派ダンサーたちがプルミエに上がったことで、次のエトワール任命は誰か?という予測が、より興味深いものとなってきた。

男性ではマルク・モローの昇級によりプルミエ・ダンスールは8名に。男性のエトワールはジョジュア・オファルトがキャリア半ばでバレエ団を去り、カール・パケットが引退したいま、籍はあるが舞台に立たないエルヴェ・モローを除くと5名しかいない。それに比べて女性のエトワールは10名と、男女差がとても大きい。遠くない将来、男性エトワールの任命があってもおかしくない状況だ。現在のプルミエは古い順に名を上げて行くと、アレッシオ・カルボーネ、ヴァンサン・シャイエ、フローリアン・マニュネ、オードリック・ブザール、フランソワ・アリュ、アルチュール・ラヴォー、ポール・マルク、そしてマルク・モロー。この8名の中から誰が次のエトワール?となるわけだ。

女性の方はというと、ミュリエル・ジュスペルギー、エヴ・グリンシュタン、セウン・パク、オニール八菜がいて、今回上がったマリオンとエロイーズを含めるとプルミエール・ダンスーズは合計6名。女性のエトワールは来シーズン引退するエレオノーラ・アバニャートを含め、現在10名いる。エトワールの数には規定がないとはいえ、男性エトワールとのバランスを考えると、女性は多いのだ。従って男性に比べると次に誰が?というのは遠い話題だろう。とはいえヴァランティーヌ・コラサンテが『ドン・キホーテ』でパーフェクトなキトリを踊り、芸術監督が任命せずにはいられなかったといったような事態が起きないともいえない。さあ、2019年、何かが起きるだろうか。

大村真理子 Mariko Omura
madameFIGARO.jpコントリビューティングエディター
東京の出版社で女性誌の編集に携わった後、1990年に渡仏。フリーエディターとして活動した後、「フィガロジャポン」パリ支局長を務める。主な著書は「とっておきパリ左岸ガイド」(玉村豊男氏と共著/中央公論社)、「パリ・オペラ座バレエ物語」(CCCメディアハウス)。

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