オペラ座の来季演目。クラシック作品ファンが少し喜んだ。

パリとバレエとオペラ座と。

2019年9月から、オペラ座の新シーズン2019〜20が始まる。チケット予約のスタートに先だって、プログラムが発表された。オーレリー・デュポン芸術監督は就任に際して“オペラ座はクラシック・バレエのカンパニー”と宣言をしたのだが、その割には彼女の時代に入ってからコンテンポラリー作品の比重が増していった感がある。これについては彼女の希望なのか総裁ステファン・リスネールの意図なのか……さまざまな憶測があるが、確かなのは来シーズンは今年7月までの今シーズンに比べるとクラシック作品数が増えていることだ。オペラ座バレエ団を昔から愛する多くの人々が期待する種々のタイプのクラシック作品が、プログラムに盛り込まれている。

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デュポン芸術監督と満期が近づいている総裁リスネールにより、オペラ・バスティーユにて『2019〜20プログラム』発表が行われた。バレエについては映像のみだったが、オペラは若手の歌い手が登場した。

1. クラシック・バレエとネオ・クラシック

恒例の12月の古典大作公演から始めよう。オペラ・バスティーユではルドルフ・ヌレエフの『ライモンダ』が2008年以来久々に踊られる。ヌレエフがこの作品を再創作したときのアイデアは、主だった役は男女共エトワールだけが踊る、という、とてもゴージャスなものだった。最後の公演から現在にいたる間、エトワールも代替わりしている。今回はどんな配役で見られるのだろうか。すでにNBSが2020年春のオペラ座ツアーの演目のひとつとして『ライモンダ』をあげている。となると、日本にいるバレエファンも12月のパリでの配役には無関心でいられないのではないだろうか。

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11年ぶりにオペラ座の舞台で踊られるルドルフ・ヌレエフの『ライモンダ』。photos:Opéra national de Paris

12月、オペラ・ガルニエではアンジュラン・プレルジョカージュの『ル・パルク』だ。モーツァルトの曲にのせたフライングキスのパ・ド・ドゥがとりわけ有名なこの作品は、1994年にパリ・オペラ座のために創作されたもの。2013年の再演時にはアリス・ルナヴァンがエトワールに任命されている。現在休業中の彼女がこの作品で復帰するか、2019〜20で引退するエレオノーラ・アバニャートはこの作品がアデュー公演となるのか、過去に主役を踊ったダンサーたちの多くが引退しているので、誰が踊ることになるのか……。

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18世紀のフランス庭園を舞台に繰り広げられる男女の駆け引き。アンジュラン・プレルジョカージュがオペラ座バレエ団のために創作した『ル・パルク』。18世紀の宮廷着をイメージしたコスチュームも魅力だ。 photo:Opéra national de Paris

2020年2月にはオペラ・ガルニエで『ジゼル』が再演され、同時期にオペラ・バスティーユではジョージ・バランシンのトリプル・ビルの公演がある。演目は『コンチェルト・バロッコ』『フォー・テンペラメント』『セレナーデ』。クラシック&ネオ・クラシックのバレエファンは12月だけでなく、この時期もパリ滞在をしたくなるのでは?

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バレエ・ブランの代表作のひとつ『ジゼル』。オペラ座が誇るコール・ド・バレエの見事な仕事を堪能できるのがこの場面だ。photo:Opéra national de Paris

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photo:Svetlana Loboff/Opéra national de Paris

レパートリー入りし、2020年5月に踊られるのはケネス・マクミランの『マイヤリング(うたかたの恋)』だ。英国ロイヤル・バレエ団によって日本では知られているが、パリではこの作品は映画館で上映された程度であまり知られていない。レパート入りについてデュポン芸術監督は“役者の資質を大きく要求される演劇面の強いこの作品は、自分のダンステクニックに懐疑的になっている35〜38歳といった年齢のダンサーたちに……”と語る。年齢だけでいえばエトワールだとステファン・ブリヨン、マチュー・ガニオ、プルミエ・ダンスールだとフロリアン・マニュネ、オードリック・ベザール、そして現在サバティカルをとっているヴァンサン・シャイエが該当するが、この全員が皇太子ルドルフ役に向くかどうかは別問題である。男爵令嬢マリーの配役ともども話題になるに違いない。といっても、まだ1年以上も先の話である。

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2. コンテンポラリー作品

コンテンポラリーは4作品。その中で、踊るダンサーたちが最も心待ちにしているのは、10月26日から公演のあるクリスタル・パイトの新作ではないだろうか。2016年、オペラ座での初作品となった『The Seasons' Canon』で、彼女は創作に参加したダンサー全員を巻き込み、大成功を収めた。音楽、舞台装置も素晴らしく、初日から観客を興奮させてスタンディング・オベーションとなった名作を生み出したのだ。その彼女による待望の第2作目である。1時間の作品で、タイトルはいまのところ未定。あまりにも反響の大きかった作品の後に、彼女がオーウエン・ベントンの音楽を用いて、どんな作品を作るのか。『The Seasons' Canon』を踊ったダンサーの誰もが彼女と再び仕事をしたがっている。オーディションはまだこれからで、ダンサーたちもこの創作には興味津々なのだ。

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衝撃的な美しさで観客を驚かせたクリスタル・パイトの『The Seasons' Canon』。photo:Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

ノルウェーの振り付け家アラン・ルシアン・オイエンが、今シーズン、オペラ座で初めての創作をする。公演は4月半ばからの約1カ月。つまり2020年のゴールデンウィークはパリでバレエを!と目論む人が見ることになるのが、この作品である(ちなみにマクミランの『マイヤリング』は5月12日から)。昨年東京で開催された世界バレエフェスティバルのAプロで、デュポン芸術監督がダニエル・プロイエットと踊った『・・・アンド・キャロライン』を創作したのが、このオイエン。“ダンサーたちにとって新しい身体言語を学ぶ機会になる”と、彼女は自身の経験からオペラ座のダンサーが彼と仕事をできることをとても喜んでいる。

シーズン最後の7月に、2016年12月に初演されたアレクサンダー・エクマンの『Play』がガルニエ宮に戻ってくる。大勢のダンサーと劇場空間を存分に活用した娯楽超大作だ。舞台上でさまざまな要素が同時進行し、装置もふんだんに用いられ、最後は舞台のダンサーと観客のボールの応酬……夏休みの時期に子どもも喜ぶ作品を!ということだろう。

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アレクサンダー・エクマンの『Play』。photo:Ann Ray/ Opéra national de Paris

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童心に返ってしまい、最後は嬉々としてボールのやりとりに参加する観客たち。photo:Mariko Omura

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3. オープニング作品

最後にシーズン開幕作品となるオペラ・ガルニエでの『鷹の井戸』について紹介しよう。これはバレエ界のみならずアート界でも注目をされている創作である。というのも演出と美術を担当するのが現代美術作家の杉本博司だからだ。振り付けはアレッシオ・シルヴェストリン。イタリア人だがシルヴェストリンは15年以上前から日本を拠点に活動し、日本の伝統芸能に精通している振り付師である。衣装はリック・オウエンス。日本から観世銕之丞、梅若紀彰の2名が公演に参加することもすでに発表された。

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パリのコレージュ・ド・フランスで3月14日に開催された杉本博司によるカンファレンスにて。大勢の聴衆を前に、時間の意識について語る中で、自身が撮影した「劇場」シリーズも紹介。

原作となるのはアイルランド生まれの詩人ウィリアム・バトラー・イェイツが書いた戯曲『At the Hawk’s Well(鷹の井戸)』。 ロンドンのクイーンエリザベス号で知られた汽船会社のオーナーであるキュナード邸にて1916年に舞踏劇として初演されたそうだ。神秘主義者でケルトの伝承物語や神話に関心を抱いていたイェイツが、「古の死者の魂を舞台に呼び戻すという幻想能に、ケルトの神話と響き合うものを直感した」と、この作品が生まれた背景を杉本博司が説明。そして、今回のオペラ座での公演については、「イェイツの魂を再びパリの舞台上に、オペラ座の素晴らしいダンサーたちとともに呼び戻す試み」と語る。

この物語の登場人物は原作では3名である。絶海の孤島に、飲めば永遠の命が得られる水の湧く井戸があると聞きつけてやってきたケルトの若い王子クー・フーリン。50年待つ間に3度井戸がわき、そのたびに鷹の精によって眠らされてしまい、水を得られないでいる老人。そして井戸を守る鷹の精である女性。タイプは異なるものの、舞台上で圧倒的な存在感を放つマリ=アニエス・ジロあるいはアニエス・ルテステュが踊るのを見てみたい!と思わせる役だ。ふたりともすでにオペラ座を引退しているのが残念だ。

海、空、自然を観察できる杉本博司設立による小田原文化財団の江之浦測候所。ここは能の舞台としても機能する。海抜100メートルの位置に建てられ、ガラスが敷かれた舞台でオーレリー・デュポンがマーサ・グラハム振り付けの『Ekstasis』を踊り、杉本博司が撮影した映像『Breathing』をオペラ座のサードステージで見ることができる。photo:Opéra national de Paris

なお『At the Hawk’s well(鷹の井戸)』はウィリアム・フォーサイトの『Blake Works1』との2本立てで上演される。これもまたクリスタル・パイトの『The Seasons' Canon』同様に、2016年の創作に参加したダンサーたちを興奮させた作品である。

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ウィリアム・フォーサイスの『Blake Works 1』 photo:Ann Ray/Opéra national de Paris

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エトワールのユーゴ・マルシャン、レオノール・ボーラックがプルミエ・ダンスール時代に創作に参加した作品だ。photo:Ann Ray/ Opéra national de Paris

“護るべき遺産 (クラシック作品)と創作をバランス良く”。3月16日にオペラ・バスティーユで行われた2019〜20年のプログラム発表の場で、リスネール総裁がこう表現した内容。さあ、何を見ようか。より詳しい情報は、オペラ座のサイトにて得ることができる。

大村真理子 Mariko Omura
madameFIGARO.jpコントリビューティングエディター
東京の出版社で女性誌の編集に携わった後、1990年に渡仏。フリーエディターとして活動した後、「フィガロジャポン」パリ支局長を務める。主な著書は「とっておきパリ左岸ガイド」(玉村豊男氏と共著/中央公論社)、「パリ・オペラ座バレエ物語」(CCCメディアハウス)。

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