来季2020-21、パリ・オペラ座バレエ団のプログラムは?

パリとバレエとオペラ座と。

【2020年7月28日追記】
パリ・オペラ座バレエ団の来季2020-21のプログラムは発表後、変更が生じています。
詳しくはhttps://www.operadeparis.fr/en/programme-and-ticketsにて。

2月末から3月上旬にかけて東京文化会館で行われたパリ・オペラ座来日公演の『ジゼル』『オネーギン』を見て、次はこの感動を本場のパリで!と思った人も多いのではないだろうか。予定どおりなら、5月にガルニエ宮で『うたかたの恋(マイヤリング)』が踊られる。主役ルドルフにはステファン・ブリヨン、マチュー・ガニオ、マチアス・エイマン、ユーゴ・マルシャンと現在5名のエトワールのうち4名がキャスティングされていて、昔からのバレエファンも新たなバレエファンも興味をひかれずにはいられないだろう。が、現在オペラ座はクローズし、ダンサーたちも自宅待機中である。どうなることか……。

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クラシックバレエの魅力、パリ・オペラ座のエレガンスをたっぷり味わえた『ジゼル』。photo:Michel Lidvac 

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ダンサーたちが演技面のリサーチを重ねたドラマティックバレエの『オネーギン』。photo:Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

9月から始まる来シーズン2020〜21には、どのような作品が見られるのだろうか。来季のチケット予約開始ぎりぎりに、やっとプログラム内容が発表されたのだが、訂正付きである。というのも、年金制度改正反対デモによりバレエもオペラも昨年12月から公演が次々とキャンセルされた結果、おおいなる収入減に陥ったパリ・オペラ座はプログラムの見直しを余儀なくされたからだ。バレエ作品で犠牲になったのは、2021年3月9日から4月16日までガルニエ宮で踊られるはずだったピエール・ラコットによる創作『赤と黒』。スタンダールの小説のバレエ化とあって、プログラム発表前からバレエファンの間ではすでに期待が高まっていたのだが、あいにくと公演は延期に。

新作ともなれば舞台装置、衣装……公演の実現のために膨大な費用が必要となる。レパートリー入りしている作品なら、それも不要。『赤と黒』の代わりにプログラム入りしたのは、昨年12月のストで一度も公演が行われなかったアンジュラン・プレルジョカージュの『ル・パルク』だ。絢爛な宮廷着の衣装をつけたダンサーたちによって、18世紀のフランス庭園を舞台にした愛の駆け引きが、コンテンポラリーダンスによって語られる。作品最後の“フライイング・キス”と呼ばれるパ・ド・ドゥはガラでよく踊られるが、官能にあふれる全作品を通しで鑑賞できる幸運な機会である。

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18世紀を作品の舞台に選んだプレルジョカージュの『ル・パルク』。初演は1994年。photo:Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris

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幾何学的なフランス庭園が舞台。photo:Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris

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誘惑を続けた男と攻落された女が心と身体をぶつけあうフライイング・キスと呼ばれるパ・ド・ドゥ。photo:Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris

もうひとつプログラムに加えられたのは、『オペラ座の若きダンサーたち』。これは日頃群舞に従事するコール・ド・バレエの若手ダンサーたちにとって、ソリストとして舞台に立てる滅多にないチャンスであり、観客はその中に未来のエトワールを見いだすという公演ともいえる。3月16日から4月13日までの間、7回の公演。前回は2014年で、その時配役されたコリフェのユーゴ・マルシャン、ジェルマン・ルーヴェ、レオノール・ボーラックはいまやエトワールだ。彼らが、この時の公演をどう記憶しているか、いつか話を聞いてみたい。

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2014年の『オペラ座の若きダンサーたち』でウェイン・マクレガーの『ジェニュス』を踊ったユーゴ・マルシャンとジュリエット・イレール。©Opéra national de Paris

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2020年9月~12月

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来季のデフィレは9月22日のガラのみ。

順を追って見ていこう。華やかに繰り広げられるシーズン開幕ガラは9月22日。生徒から団員全員がステージを行進する壮麗なるデフィレに続き、ヴィクトール・グゾヴスキーの『グラン・パ・クラシック』が踊られる。2018年の世界ワールド・バレエ・フェスティバルのガラでは、マチアス・エイマンとドロテ・ジルベールがステージ上で技巧満載の弾けるようなパフォーマンスを見せたが、このガラでは誰が踊るのだろうか……。その次は、9月24日からの開幕公演であるトリプルビルの『シェスター、ロビンス、パイト』からロビンスとパイトの2作品が踊られる。ジェローム・ロビンスの『イン・ザ・ナイト』はショパンの音楽にのせ、年代の異なる3組のカップルが織り成すネオクラシック作品。愛情のドラマがメランコリック&エレガントに踊られる。ヴィヴァルディの「四季」を音楽にクリスタル・パイトが振り付けた『The Seasons‘ Canon』は、2016年の創作で大成功をおさめ、いまや海外公演のプログラムにも組まれるほどオペラ座のレパートリーの中で人気が高いコンテンポラリー作品だ。ダンサーたちはエトワールもコール・ド・バレエも階級に関係なく混じり合い、唯一の舞台装置である自然の映像と一体化して蠢くような群舞をステージ上で繰り広げ観客に深い感動を与える。開幕ガラで最後に踊られるこの作品。スタンディングオべーションは確実だろう。

トリプルビルの3作品中、ガラでは踊られないホフェッシュ・シェクターの『The Art of Not Looking Back』。これは9名の女性ダンサーたちが暗い照明の中、裸足でステージを踏み鳴らすようにパワーを全開させる。振り付け家自身の語りも参加しての大音響ゆえ、2018年の創作公演では開演前に会場で耳栓が配られた曰くつきの作品である。華麗に繰り広げられるべきガラには不向きとされたのだろうか。“記憶、愛、アイデンティティ”をテーマにしたこのトリプルビルは、9月24日から10月17日まで。

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2016年にクリスタル・パイトがパリ・オペラ座のために創作した『The Seasons’ Canon』。photo:Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

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ダンサーの誰もが創作に参加できた喜びを口にする作品だ。この作品はクラシック派の中にも気に入る人が大勢いる。photo:Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

その次、10月末から11月半ばのトリプルビル『シェルカウイ、エイアル、アシュトン』はロシアがテーマである。シディ・ラルビ・シェルカウイは『シェヘラザード』、シャロン・エイアルは『牧神の午後』とバレエ・リュスの名作に2名の振り付け家が新たな創作をする。エイアルにとってこれがパリ・オペラ座での初創作。彼女の名前に聞き覚えがあるとしたら、ダンスをテーマにしたディオールの2019年春夏コレクションの発表時にマリア・グラツィア・キウリとコラボレーションした振り付け家だからだろう。3作目、オペラ座で長いこと踊られていなかったフレデリック・アシュトンの『ラプソディ』はラフマニノフ作曲の「Rhapsodie sur un thème de Paganini」のダイナミックな曲にのせて。これも過去にバレエ・リュスのミカエル・フォーキンが創作している。クラシックバレエの優美さとアクロバット的技巧がミックスされた作品。ダンサーの卓越したテクニックを堪能できる。

年末公演はオペラ・バスティーユでルドルフ・ヌレエフ版『バ・バヤデール』。オペラ座バレエ団ファンにはおなじみの古典大作の登場だ。愛し合う戦士ソロルと舞い姫ニキヤに、ソロルを愛する国王の娘ガムゼッティ、そしてニキヤを慕う大僧正が横槍を入れ……。『ジゼル』と同じくこれもバレエ・ブラン。『ジゼル』の白いロマンティック・チュチュを着た26名のウィリたちの踊りのように、非現実の世界『影の王国』で踊られる32名のコール・ド・バレエの一糸乱れぬ群舞の美しさは、この作品を初めて見る人には忘れがたい思い出を残すだろう。昨年末『ル・パルク』同様ストで一度の公演で終わったヌレエフ版の『ライモンダ』は10年近く公演がなかったので惜しむ声も多いが、この『ラ・バヤデール』もバレエ入門者は知っておきたい作品だ。

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『ラ・バヤデール』。ニキヤを踊るエロイーズ・ブルドン。photo:Little Shao/ Opéra national de Paris

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マチアス・エイマンのソロル、オニール八菜のガムゼッティ。photo:Little Shao/ Opéra national de Paris

年末はふたつの劇場でバレエが踊られるのが常。ガルニエ宮では久々にイリ・キリアンの作品が踊られる。1999年に彼が初めてオペラ座バレエ団のために創作した『優しい嘘』、2001年にレパートリー入りした『ステッピング・ストーンズ』、そして今回レパートリー入りする『小さな死』と『Sechs Tänze』の合計4作品。最後の2作とも、曲はモーツァルトだ。ガルニエかバスティーユか、どちらの劇場で大晦日を過ごすか。今回はバレエのタイプがはっきりと異なるので、『ル・パルク』か『ライモンダ』かという昨年のような大きなジレンマからは解放されるのでは?

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2021年1月~7月

コンテンポラリーダンスのファンを喜ばせるのは、2月のオハッド・ナハリンの『Sadeh21』だろう。2シーズン前の開幕公演だった『デカダンス』でオハッド・ナハリンはオペラ座にガガ・スタイルをもたらし、オペラ座のダンサーたちは新しい身体言語におおいに興奮した。今回レパートリー入りする『Sadeh21』では、踊り慣れた動きを遅らせ、加速しての繰り返しにダンサーたちは挑戦する。3月、これに続くのが上記で説明したように『赤と黒』の代わりの『ル・パルク』、そして同じガルニエ宮で『ル・パルク』の合間を縫って7公演が行われる『オペラ座の若きダンサーたち』。コール・ド・バレエの中から誰が配役されるか、何を踊るのか……楽しみにしよう。

5月のGWを利用してパリへ!と目論む人を待つのは、3月29日から始まるローラン・プティの『ノートルダム・ドゥ・パリ』。これはヴィクトル・ユゴーの小説が原作で、衣装はイヴ・サンローランによる作品だ。オレリー・デュポンが芸術監督となり、オペラ座から消えていたローラン・プティの作品の復活である。さらに5月30日から彼の没後10周年記念として『ローラン・プティへのオマージュ』と題し、『若者と死』『カルメン』『ランデブー』の3作が踊られる。プティのお気に入りだったニコラ・ル・リッシュもエレオノーラ・アバニャートも引退し、新しい世代の誰がプティ作品を踊るのだろうか。配役発表が楽しみなプログラムだ。

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『カルメン』。寝室のパ・ド・ドゥを踊るエレオノーラ・アバニャートとニコラ・ル・リッシュ。photo:Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

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『若者の死』のエレオノーラ・アバニャート。昨年12月23日に予定されていた彼女のアデュー公演がストで5月18日に延期となったが、実現するだろうか? photo:Little Shao/ Opéra national de Paris

シーズン閉幕作品は6月の 『ロメオとジュリエット』である。ヌレエフ作品でシーズンを締めくくるというのは珍しい。2016年3月の公演では、アマンディーヌ・アルビッソン×マチュー・ガニオ、ミリアム・ウルド=ブラーム×ジョシュア・オファルト、レオノール・ボラック×ジェルマン・ルーヴェ、ドロテ・ジルベール×ユーゴ・マルシャン、レオノール・ボラック×マチアス・エイマンという組み合わせだった。ジョシュア・オファルトが身体的理由でオペラ座を去り、さて彼に代わって誰がミリアムのパートナーとなるか。あるいは配役はまったく更新されるのか……。6月30日の『ロメオとジュリエット』で2020-21 のバレエシーズンが幕を閉じ、この後オペラ・ガルニエ、オペラ・バスティーユの両劇場では9月の2021-22の開幕に向けて技術面の大工事が始まる。

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ジェルマン・ルーヴェとレオノール・ボラックによる『ロメオとジュリエット』©Opéra national de Paris

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2016年の公演で超技巧とユーモラスな演技で会場を沸かせたマーキュシオ役のフランソワ・アリュ。ステージ上で主役を食う恐るべきプルミエ・ダンスールである。photo:Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

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ジュリエットの寝室で踊られるパ・ド・ドゥ。ふたりはこれが別れとなるとは知るよしもない。photo:Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

大村真理子 Mariko Omura
madameFIGARO.jpコントリビューティング・エディター
東京の出版社で女性誌の編集に携わった後、1990年に渡仏。フリーエディターとして活動した後、「フィガロジャポン」パリ支局長を務める。主な著書は『とっておきパリ左岸ガイド』(玉村豊男氏と共著/中央公論社刊)、『パリ・オペラ座バレエ物語』(CCCメディアハウス刊)。

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