オペラ座そしてモード界で、女性コレオグラファーの活躍。

パリとバレエとオペラ座と。

あいにくとフランス国内だけだったが、11月13日にオペラ・ガルニエからの中継で公演『Créer aujourd’hui(今日のクリエーション)』がFacebookを通じてライブ配信された。予定されていたダミアン・ジャレを除く3名のコレオグラファーの作品で構成された公演について紹介した前回の記事中、Tess Voelker(テス・ヴォルカー)の作品『Clouds inside』について触れられなかったので、ここに少し。

ダンサーのマリオン・ゴチエ・ドゥ・シャルナッセとアントナン・モナンが 『Clouds Inside』の創作を語る中、ステージの映像も挿入されている。

オペラ座バレエ団に創作した最年少コレオグラファー、テス・ヴォルカー。

芸術監督オレリー・デュポンが『Créer aujourd’hui』 のために選んだ4名のコレオグラファーの中の紅一点がテス・ヴォルカー。彼女は昨年来日公演を果たしたオランダNDT(Nederlands Dans Theater)に属するダンサーである。1997年にサンフランシスコに生まれ、フィラデルフィアで12歳の時に彼女はクラシックバレエを習い始めた。その後ボストンの学校でコンテンポラリースタイルへの情熱を追求し、2016年、19歳の時に栄えあるユース・アメリカ・グランプリを受賞。同年、ドイツのバレエカンパニー、ドルトムントバレエ団(Ballett Dortmund)でプロとしてのキャリアをスタートし、その翌年に オランダのNDT2に入る。3シーズン後、メインカンパニーのNDT1とダンサーとして契約……今年のことだ。その後間もなくしてパリ・オペラ座芸術監督から創作の依頼が彼女に舞い込んだのである。きっかけはどうやらテスが自身のインプロビゼーションを次々とアップしているインスタグラム(@tessvoelker)らしい。『Clouds Inside』はテスによるパリ・オペラ座のための初の創作。というだけでなく、公に踊られた彼女の初の創作作品である。

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1997年生まれのテス・ヴォルカー。©Lotje van der Bie

26歳でこの世を去ったシンガーソングライター、ニック・ドレイクが1969年に発表したアルバム『Five Leaves Left』に収められている「Cello Song」にインスパイアされ、彼女はパ・ド・ドゥの『Clouds Inside』を創作した。配役はマリオン・ゴティエ・ドゥ・シャルナッセとアントナン・モニエ。日本ではあまり名が知られていないが、ともにカドリーユのダンサーだ。メトロノームのように規則正しくリズムを刻む安定した男性と自分を見失っているナイーブな女性が出会い、徐々に彼女も彼のリズムに合うようになり、彼は……という約8分で踊られるのは、テスによる特徴的な動きを生かしながら、気負いもなく、奇をてらうこともなく誠実に作られた素直でフレッシュな作品だ。男女ふたりの関係性の変化に合わせ、「Cello Song」は作品の前半ではニック・ドレイク、後半は2009年のホセ・ゴンザレスをフィーチャーしたThe booksによるカバーが用いられている。オペラ・ガルニエの扉が再び開いたら、ステージで見られる機会を待ちたい作品のひとつだ。数年後には、経験を積んだテスによるパリ・オペラ座のための創作第2弾もぜひ、と期待したい。

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『Clouds Inside』より。photos:Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

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パリ・オペラ座のための女性による創作は?

過去に女性コレオグラファーがパリ・オペラ座バレエ団から依頼されて創作した作品には、どんなものがあるだろうか。何度もオペラ座で踊られている『春の祭典』『オルフェオとエウリディーチェ』を思うかもしれないが、これらはピナ・バウシュが自身のカンパニーに創作したものがオペラ座のレパートリー入りしたものである。アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケルやマギー・マランの作品についてもしかり。

初演は1997年5月。約2時間という長さでコンテンポラリーとしては大作の『シーニュ』が、Caroly Carlson(カロリン・カールソン)によってパリ・オペラ座のために創作された。彼女は1974年〜80年にパリ・オペラ座バレエ団中に存在したGRTOP(groupe de recherche théatrale de l’opéra de paris)という新しいフランスのダンスをリサーチするグループで、いくつかの小品を創作している。コンテンポラリー作品を彼女に依頼することは、カンパニーにとって自然な流れだったのだろう。

この映像の中で作品について語るのは、『Signes』の創作をカロリン・カールソンに依頼した当時の芸術監督ブリジット・ルフェーヴルだ。カールソンはフランスの現代アーティスト、オリヴィエ・ドゥブレの7作品にインスパイアされて創作した。

2001年12月にはブランカ・リーが『シェラザード』、2004年12月はトリッシャ・ブラウンがローリー・アンダーソンの音楽で『O zlozony/O composite』を。2007年4月、南アフリカのロビン・オルリンの『L’Allegro, II Penseroso ed II Moderato』をパリ・オペラ座バレエ団のために創作した。1995年から2014年まで芸術監督を務めたブリジット・ルフェーヴルはオペラ座バレエ団に積極的にコンテンポラリー作品を取り入れ、女性に限らず現存のコレオグラファーたちへの依頼も多く行ったが、これらの創作のように一度限りの公演だったり、あるいは最近は再演がない作品は、人々の記憶に強く残ってはいないようだ。

さて、『シーニュ』の創作ダンサーはマリー=クロード・ピエトラガラだった。彼女の引退後、その役を引き継いだのはエトワールのマリ=アニエス・ジロで、この作品を踊ってエトワールに任命されている。その彼女も現役時代の2012年10月に『Sous Apparence』を創作。ウォルター・ヴァン・ベイレンドンクがコスチュームを担当したことも話題を呼んだが、この作品も再演はされていない。

『Sous apparences』。配役はヴァンサン・シャイエ、アリス・ルナヴァンなど。

2016年9月、パリ・オペラ座のための初創作がスタンディングオベーションで迎えられた女性振付け家がいる。カナダ人のCrystal Pite(クリスタル・パイト)だ。自然に生息する動物たちの群れのごとくダンサーは終始塊となって踊る『The Seasons’ Canon』。ソロパート以外はエトワールもコール・ド・バレエと一緒に群れの中なのだが、誰もがこの創作に参加したことに大満足という、ダンサーも喜ばせた成功作。翌シーズンの2018年5月に早々と再演され、また昨年夏のアジアツアーのプログラムにも含まれた。2019年秋、オペラ座から新作の依頼を受けた彼女が創作したのは、『Body and Soul』。会場の興奮度は『The Seansons’ Canon』ほどではなかったが、ビジュアル効果も高く若い世代の足をオペラ・ガルニエに呼び寄せる力があった。

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クリスタル・パイト(右)。『The Seasons’ Canon』の初演時のカーテンコールにて。彼女の隣はプルミエ・ダンスールのヴァンサン・シャイエ。

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『The Seansons’ Canon』。マックス・リヒター編曲によるヴィヴァルディの『四季』の音楽、背景の映像も振り付け同様に美しい。photos : Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

『The Seasons' Canon』の一部抜粋を動画で。
1:www.youtube.com/watch?v=f9FWZeb88_c
2:www.youtube.com/watch?v=6BREs7FvSj0

カールソンとパイトの間、2007年10月にドイツの振付け家Sasha Waltz(サシャ・ヴァルツ)が『ロミオとジュリエット』を創作。ルドルフ・ヌレエフ版と異なり、こちらはベルリオーズの音楽を用いたコンテンポラリー作品である。オペラ・バスティーユの舞台空間を満たす2枚の巨大な板が、開閉し、上下し、角度を変えることで、出会いの舞踏会場となり、次にバルコニーとなって……というシンプルながら迫力のある舞台装置も見事だった。創作ダンサーはオレリー・デュポンとエルヴェ・モロー。2012年に再演され、次の2018年4月の再演ではリュドミラ・パリエロとジェルマン・ルーヴェ、アマンディーヌ・アルビッソンとユーゴ・マルシャンという組み合わせだった。ステージ裏の防火壁の技術的なトラブルが生じたため、12公演の予定が6公演で中断される不幸に見舞われたのが残念。

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サシャ・ヴァルツ版『ロミオとジュリエット』を踊るリュドミラ・パリエロとジェルマン・ルーヴェ。photos : Ann Ray/ Opéra national de Paris

創作ダンサーのオレリー・デュポンとエルヴェ・モローによる映像は2分間と短いものながら、サシャ・ヴァルツの振り付けの特徴を見ることができる。

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ファッション界と女性コレオグラファー。

サシャ・ヴァルツ。つい最近 この名前を耳にした人も多いのではないだろうか? グッチのファッションと映画の革新的なデジタルフェスティバル「Gucci Fest」で新作コレクションが短編映画シリーズ『Ouverture of Something that Never Ended(終わらなかったものの序曲)』にて11月17日から22日までの間公開された。映画監督ガス・ヴァン・サントとグッチのクリエイティブ・ディレクターであるアレッサンドロ・ミケーレが共同制作した7つのエピソードで構成された短編中、彼女は第4話『The Theatre』に出演している。主人公シルヴィアがコンテンポラリーダンスの舞台に参加するエピソードである。ここで踊られるのがモーリス・ラヴェルの『ボレロ』。中央で踊るシルヴィアを待ちながら、サシャは自身のカンパニーのダンサーたちの集団の踊りを指導。複数の身体の境界線が曖昧になりやがてひとりの身体となるシーンのリハーサルは見ごたえたっぷりだ。サシャは次のように説明する。「他者の身体を意識し、耳を傾けること。ダンサーたちの流れと脈動に添い従うこと。重力と向き合い、自分の重みをほかの身体へと預け、他方はそれを受け入れる。私がよく用いる例えですが、自分の身体を液体のようにしてほかの容器に移すのです。コップの水を注ぐように。コップにどのくらい水が入りそうかを考えて、注ぎすぎないように注意して」と。

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左:『Ouverture of Something that Never Ended』第4話より。右:グッチのクリエイティブ・ディレクター、アレッサンドロ・ミケーレとサシャ・ヴァルツ。photos:PAIGE POWELL

ファッション界とコンテンポラリーダンスの接近の例として、イザベル マランの2021年春夏コレクションのショーも挙げられる。アーティスト集団La Horde(ラ・オルド)によるダンスがショー会場のパレ・ロワイヤルの中庭でエネルギーを炸裂させたのだ。ラ・オルドというのはビジュアルアーティスト、映画監督、そして振付け家の3名で構成され、現代社会に密接なテーマでダンスを中心においたパフォーマンス、インスタレーション、フィルムなどをクリエイトする集団。2013年に結成され、かつてはローラン・プティ、マリー・クロード・ピエトラガラが務めた国立マルセイユ・バレエ団の芸術監督のポストに2019年に就任している。ラ・オルドにおいてダンスの振り付けを担当するのは、女性コレオグラファーのMarine Brutti(マリーヌ・ブルッティ)だ。

ラ・オルドはフランスのクリエイティブ集団Megaforceが制作したバーバリーの2020年冬の広告キャンペーンSinging in the Rainでもダンスの振り付けを担当し、踊っている。雨降りのロンドンの街をダンスが明るくエネルギッシュに彩る映像が話題だ。今後、若い世代に向けてダンスをフィーチャーしたこうした広告が増えることだろう。

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パレ・ロワイヤルを会場に発表されたイザベル マランの2021年春夏コレクション。

フランスで創業者の時代からダンスに最も密接なメゾンはディオールだ。そして女性コレオグラファーに最も密接なアートディレクターは、マリア・グラツィア・キウリである。彼女はダンスにインスパイアされた2019年春夏コレクションで、イスラエル出身の振付け家シャロン・エイアルのカンパニーとコラボレーション。会場を満たすダンサーたちの肉体の躍動、エネルギーが強いインパクトを残すショーとなった。

マリア・グラツィアはそのエイアルと7月にイタリアのプーリア地方で開催された2021年クルーズコレクションのショーで再びコラボレート。モデルたちが会場を歩く間、黒と白のコスチュームで装ったノッテ・デラ・タランタ財団ダンサーたちが続けたのは、身体とエスプリを解放させるパフォーマンス。これはエイアルがプーリアの伝統儀式からインスパイアされた創作である。

手つかずの自然の美しさが息づくプーリアで撮影されたクルーズコレクションのキャンペーンムービーでは、男女のダンサーたちが大地を踏みしめて踊る。エイアル振り付けによるピッツィカと呼ばれる太古のダンスのカタルシスを称えるダンスで、美しくタイムレスな絵画に生命を吹き込むようだ。

パリ・オペラ座のシーズン2020〜21年で、シャロン・エイアルの初創作がオペラ座バレエ団のレパートリー入りする予定だった。公演『シェルカウイ / エイアル / アシュトン』(10月27日〜11月14日)は現代のコレオグラファーがバレエ・リュスの演目を手がける2作品を含む構成で、彼女による『牧神の午後』が見られるはずだったのだが、新型コロナウイルスの影響で公演そのものが中止されてしまった。次、あるいはその次のシーズンでこの公演が再びプログラムされることを祈ろう。

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大村真理子 Mariko Omura
madameFIGARO.jpコントリビューティング・エディター
東京の出版社で女性誌の編集に携わった後、1990年に渡仏。フリーエディターとして活動した後、「フィガロジャポン」パリ支局長を務める。主な著書は『とっておきパリ左岸ガイド』(玉村豊男氏と共著/中央公論社刊)、『パリ・オペラ座バレエ物語』(CCCメディアハウス刊)。
Instagram : @mariko_paris_madamefigarojapon

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