『ル・パルク』、フランス式庭園に舞う男と女の愛の行方。

パリとバレエとオペラ座と。

1994年、パリ・オペラ座バレエ団のためにアンジュラン・プレルジョカージュが初めて創作したのが『ル・パルク』。2008年のバレエ団の来日公演の演目がこれだった。プレルジョカージュのほかの作品に比べると、クラシックバレエのカンパニーであることを意識して、かなりパリ・オペラ座寄りに作られている。とはいえ、パリ・オペラ座にはクラシックバレエを期待する人が多い日本で、女性たちがトゥシューズもチュチュも着けないコンテンポラリー作品は満員御礼には遠かったようだ。

それから10年以上がたち、その間にオペラ座で踊られるコンテンポラリー作品の比率が増え、観客の嗜好も変化。バレエ団のファンも増えた。また2011年にエールフランスがパンジャマン・ミルピエが鏡の上で踊る“解放のパ・ド・ドゥ”を使い、この作品を有名にした。もし『ル・パルク』で来日公演が行われたら、10年前とはおおいに結果は異なるに違いない。

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17〜18世紀のフランスの幾何学的庭園が、ティエリー・ルプルーストによりシンプルで効果的な舞台装置に。コスチュームは1987年にクリスチャン・ディオールのメゾン40周年記念賞を受賞したエルヴェ・ピエールが担当した。photos:Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris

『ル・パルク』は2019年12月にオペラ・ガルニエで公演が予定されていたが、年金制度改革に反対するストライキで全公演が中止となった。そしてシーズン改め、今年3月に再度プログラムされたものの、フランス中の文化施設の閉鎖は昨年11月から延々と続き……3月上旬、無観客で行われた公演が映像に収められた。あいにくなことに、その放映はフランス国内に限られ海外での視聴はできない模様だ。13年前の来日公演時はまだ子どもだった、バレエに興味がなかった、コンテンポラリー作品は苦手だった……という人もいるだろう。初演時にセカンドキャストで踊り、日本での公演にも参加したマニュエル・ルグリも「とても完成度の高い作品です」と評した『ル・パルク』。これはオペラ座のレパートリーの中でも名作であるので、作品を紹介しよう。

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有名な“解放”のパ・ド・ドゥ。写真はエレオノーラ・アバニャートとステファン・ブリヨン。3月上旬のオペラ・ガルニエでの収録で踊ったのは、第一配役のアリス・ルナヴァンとマチュー・ガニオだ。ほかの組み合わせはステファン・ブリヨンとローラ・エッケ、ユーゴ・マルシャンとドロテ・ジルベール、ジェルマン・ルーヴェとオニール八菜、マルク・モローとジュリエット・イレールの名が発表されていた。photo:Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris

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愛の拒否をバレエのテーマに

パリ・オペラ座のための初創作であることから、アンジュラン・プレルジョカージュはカンパニーの歴史が始まるルイ14世の時代をテーマにクリエイトすることにした。17〜18世紀の文学作品の中で彼の気を引いたのは、マドレーヌ・ド・スキュデリーが書いた小説『クレリー』(1654年)の中に登場する“タンドルの国の地図”。その地図には無感動の湖があり、服従、友愛といった村があり……愛の成就にいたる正しい道を示す恋の国の地図である。そしてラファイエット夫人による小説『クレーヴの奥方』(1678年出版)で愛に身をすくわれそうになることに抵抗する主人公が、タンドルの国の地図とともにプレルジョカージュの興味をひいた。これにより彼は愛の心理の道のり、恋愛術を語る100分のバレエを創作したのだ。

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フランス啓蒙時代のコスチュームとアンジュラン・プレルジョカージュによるコンテンポラリーな言語による振り付けのミスマッチが、強い印象を残す。photos:(左)Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris 、(右)Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris

リベルタンたち

『ル・パルク』ヒロインはなぜ愛を拒むのか。彼女が恐れているのは愛することではなく、遊びの恋愛に陥ること。作品の舞台となっているのはフランスの貴族社会で男女において放蕩主義(リベルティナージュ)が横行した時代だが、彼女は戯れの恋愛は求めていないのだ。リベルタンたちの恋愛遊戯が繰り広げられるのがタイトルとなっているフランス式庭園、ル・パルクである。このバレエでも椅子取りゲームで男女は接近する機会を楽しみ、視線を交わす。夕闇が迫る頃には女性の色香に誘われて、誰という見極めもなく木陰に身を隠している女性たちを求めて男性たちは這って擦り寄って……官能の世界に身を委ね。自由恋愛を謳歌する男女がバレエでも描かれる。

第1幕。男と女、ふたつの性が出会う椅子取りゲーム。女性の主役は赤、男性の主役は濃紺というようにコール・ド・バレエのダンサーとパンツの色が異なる。この作品は音楽のセレクションも素晴らしい。このシーンはモーツァルトの「アダージョとフーガ ハ短調 K.546」(1783年)。

 

第2幕。木立の中で、肌着の女性たちとジャケットを脱いだ男性たちが欲望に任せて戯れる。音楽はモーツァルトの「ディヴェルティメント 第11番 ニ長調 K.251」(1787年)。

 

第3幕。スピーディで勢いのよいモーツァルトの「アレグロ・ディベルティメント 変ロ長調 K.137」(1772年)の音楽にのせて、男たちの熱情が素早く小刻みな動きで踊られる第3幕。今回、この作品を初役で踊ったマチュー・ガニオはコンテンポラリー作品においても彼の特徴である優美さを失わず。

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4人の庭師

パニエで横広がりな女性たちのローブ・ア・ラ・フランセーズが舞台上に花開き、男性はリボン結びのポニーテール……17世紀後半から18世紀にかけての優美な衣装。オーケストラが演奏する、時代を同じくするモーツァルトの音楽が雰囲気を盛り立て、物語は展開する。進行役を担うのは4人の庭師たちだ。序章からエピローグまで、シーンが展開するたびに登場する彼らは現代的コスチュームに革のエプロンをつけ、真っ黒なサングラスという姿。彼らのダンスはとても機械的で、音楽も彼らのシーンにはモーツァルトではなくエレクトロの音楽が録音で使われる。庭師の彼らは男女が恋の国を進むガイドを務める天使で、ヒロインの頑なな自尊心も彼らのおかげで取り払われるのだ。

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ゴラン・ヴェジュヴォーダが作曲した電子音楽にのせて踊る4人の庭師。photo:Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris

3つのパ・ド・ドゥ

誘惑する男と拒む女の物語。踊られる3つのパ・ド・ドゥは「出会い」「抵抗」「解放」と呼ばれている。もっともこれは女性側からの見方であり、男性側では出会い、粘り、成就ということになるだろうか。出会いでは正装だったふたりが、2つめのパ・ド・ドゥで女性はコルセットと薄いスカート、男性はジャケットを脱ぎ……そして最後のパ・ド・ドゥは寝巻きで、というようにふたりのコスチュームも鎧をはがすように状況の進展につれて軽くなる。パ・ド・ドゥの中で、男女がそれぞれ自分の手首の内側をすりあわせる微妙な所作をする。スコセッシの映画『エイジ・オブ・イノセンス/汚れなき情事』で馬車の中でダニエル・デイ=ルイスがミシェル・ファイファーの手袋のボタンを外して、手首に口づけするシーンはその官能の香りに映画館中が参った……というように、人間の身体の中でもセンシュアルなパートの手首をプレルジュカージュは、振り付けに生かしている。

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“出会い”のパ・ド・ドゥより。 映像収録の公演は第一配役のアリス・ルナヴァンとマチュー・ガニオが踊った。photos:Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris

ゲームでひとつの椅子を取り合った男女が踊る“出会い”のパ・ド・ドゥでは、ふたりの間に距離があるものの、倒れた女性の足首を男性がつかみ、女性の官能を呼び覚ます。“抵抗”のパ・ド・ドゥでは、まるで鳥の求愛のごとく男性は跳び、回転し……。心惹かれ、崩れかけるものの女性は拒む。自分の身体の中に起きた目覚めとの戦いから、男性の目を見据えて頭突きをし、最後の強いひと打ちで彼の前から去って行く。そして最後がフライングキスで有名な“解放”のパ・ド・ドゥ。女性はもはや躊躇いもなく、男性のからだにすり寄って……プレルジョカージュならではのエロスぎりぎりの際どい振り付けに官能の香りが立ち込める。これまでの男女の関係が逆転するかのように、ここで倒れ込むのは男性のほうである。

幕間なしの100分、青空から嵐の夜へと背景が変化し、主人公のふたりの愛の行方を観客もスリリングに見守ることになる。

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2013年にこの役を踊ってエトワールに任命されたアリス・ルナヴァンと、今回が初役のマチュー・ガニオによる“解放”のパ・ド・ドゥ。photo:Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris

フランスにおける第3回外出制限措置が3月22日から4週間の予定で始まり、劇場の再開は4月18日前には期待できないことは確かとなった。4月27日までの予定だった『ル・パルク』は全公演が中止となり、エレオノーラ・アバニャートのアデュー公演も実現されずじまいとなってしまった。

大村真理子 Mariko Omura
madameFIGARO.jpコントリビューティング・エディター
東京の出版社で女性誌の編集に携わった後、1990年に渡仏。フリーエディターとして活動した後、「フィガロジャポン」パリ支局長を務める。主な著書は『とっておきパリ左岸ガイド』(玉村豊男氏と共著/中央公論社刊)、『パリ・オペラ座バレエ物語』(CCCメディアハウス刊)。
Instagram : @mariko_paris_madamefigarojapon

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