ヴァランティーヌ・ゴティエ、愛とこだわりの快適空間。
PARIS DECO
自身の名を冠したブランドをデザインする、ヴァランティーヌ・ゴティエ。
シック&エフォートレス、ほどよいマニッシュ感がパリジェンヌに人気のブランド「ヴァランティーヌ・ゴティエ」。モントルグイユ通りからそう遠くない80平米のアパルトマンに、パートナーのアルノーと5ヶ月の長女ボニーと暮らしている。そして8歳の長男が1週間おきに、このアパルトマンで過ごすそうだ。
「ちょうどソファのクッションを夏用に変えたところ。このアパルトマンに越してきたのは、去年の6月よ。南仏からパリに引っ越して来てから17年間、好きなのでずっとこのモントルグイユ通りの界隈に住んでいる。初めて来た時に、パリのパワーを感じて。その昔市場(レ・アール)があった場所で、観光地ではなくオーセンティックな地区ね。ここにはなんでもあるし、コスモポリタン。このアパルトマンに決めたのは、スティール製の信じがたい暖炉に魅せられたからなの。70年代の暖炉。ずっとここに住んでいたオーナーが自分用に作らせたもので、いまもちゃんと機能するのよ」
個性的な暖炉。食卓上のSammodeのインダストリアルランプは、オフィス用のものがひとつ余ったのが幸いして、この場で活躍している。
6区のマダム通りのブティックで使っていた棚。廃棄するには美しすぎる、と自宅に。
暖炉口。キャンドルの燃えかすをデコレーションにしている。
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お気に入りのオブジェを、インテリアのアクセントに。
高い天井のアパルトマンで、キッチン、ダイニングコーナー、リビングコーナーがL字型に続くロフト風の作り。誰がどこにいてもコミュニケーションがとれるのが、ヴァレンティーヌは気に入っているそうだ。その空間で暖炉はそびえ立つといった感じに、堂々と壁の中央を占めている。
友達たちと話しながら料理ができる作りなのは嬉しいけれど、戸棚が上に並んだキッチンはヴァランティーヌの好みではない。でも、賃貸アパルトマンゆえ、あいにくと彼女好みには作り変えができないのだ。きれいなオブジェを愛する彼女は、しまうより飾ることが好き。それで戸棚の上に一列に、あれこれ並べている。
「オブジェ類は買ったり、古い品を掘り出したり……。多くがアルチザナルな品ね。パリに限らず、あちこちで探すのよ」
メキシコやベルギーの陶芸家の作品、70年代の花瓶、古い魔法瓶などが並ぶキッチン。左端には蒸篭やモロッコ料理のタジン用鍋など台所用品も。ヴァランティーヌは料理をよくするそうで、1週間の最終日にあたる日曜日はその週にあったネガティブなことを忘れるためと称して、てんぷらやお好み焼きといった日本食を作る。
1963と書かれたのはミリタリーの毛布。蚤の市だけでなく、ミリタリーの放出品を扱うブティックも掘り出し先のひとつだ。
寝室に置かれたベビー靴。右側はインディアンによる手製だという。
こう彼女が語ると、すぐにアルノーがこう続けた。
「そのために旅をする、ということもあるんだ。セラミックを探して、アントワープまで行ったこともある。マヨルカ島では行ったものの、欲しかったセラミックは見つけられなかった」
そのマヨルカ島でヴァレンティーヌが目を留めたのは、真っ平らなパニエ。あまりにも大きすぎるので買わなかったことを、彼女はとても後悔している。このパニエについては二人の間の話題らしく、アルノーがこう語った。
「使用目的はわからないけれど、オブジェそのものとしてはとても美しかった。だから、パニエのためにマヨルカ島にまた行かなくては!って、思ってるんだ」
家具やオブジェについて、二人の意見はいつも一致するのだろうか? これについて、彼らは声を揃えて“OUI”と答えた。
「幸運なことよね。だから私、彼との間にベベを作ったのよ !(笑)」とヴァランティーヌがお人形のようなボニーに視線を移すや、アルノーが「確かにオブジェなどについては、そう。でも、空間内での家具の配置は、僕はまったく得意じゃない。それに、彼女のその才能は認めるしかないものなので、戦うつもりもないよ」と。
まるでお人形のようなボニー。ヴァランティーヌは毎日ボニーを連れて、徒歩でオフィスに通う。
ヴァランティーヌがアルノーを描き、アルノーがヴァランティーヌを描いた肖像画。
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手作りの家具、アンティークミックスの子ども部屋。
さてこのアパルトマンでは暖炉の存在感もさることながら、黒い食卓も空間の中で良い味を醸し出している。
「アルノーは私のブランドの靴を作ってるのだけど、この家のためには家具を作るのよ! 木のテーブルがここに欲しいと思ったものの、理想的なものが見つけられず……。この食卓は木をオーダーするところから、アルノーが始めたの。木を炭化させるのは、ビデオを見ながら日本のテクニックを学んで。映像のいいところは、言葉がわからなくても理解できることね。食卓の脚は、フランスの職人の溶接では理想とずれてしまうので、ポーランドで作ってもらったの」
表面を焦がして炭化した木のテーブル。4脚の椅子はナント市でみつけたもの。二人とも60〜70年代の品が好みだ。
お気に入りの陶器や器が、食卓の黒に映える。
静かな中庭に面した窓のあるリビングコーナーは、日中でも鳥のさえずりが聞こえて、とてもリラックスした雰囲気。ここが家の中で、ヴァランティーヌの一番のお気に入りの場所だという。座ったり、横たわったり……読書をはじめ、たくさんのことをするそうだ。2つのソファの間に置かれた低いガラスのテーブルには、ちょっとしたエピソードがある。
リビングスペース。冬は暖色系のウールのクッションに変わる。壁にはヴァランティーヌの友達の写真家Maja Danielsの作品を飾って。
ヴァランティーヌが寛ぎの時間を過ごすリビングスペース。
「インターネットで購入することはあまりないのだけど、私の誕生日か何かの機会にアルノーがテーブルをプレゼントしてくれるって、オンラインショップでテーブルの写真を見せてくれたの。ああ、これ好きよ!って、とても喜んだのね。写真で見て、大きなテーブルが来るのだと思ってたら、この小さなテーブルだったというわけ」
リビングコーナーと同じ側、中庭に面して子ども部屋がある。ボニーのベビーベッドがそろそろ小さくなってきたので、取り替えねば、というところだそうだ。子ども部屋の内装も、もちろんヴァランティーヌが行っている。もっとも長男が集めているスパイダーマンのコーナーはアンタッチャブルとか。
子ども部屋。カーレーサーのポスターが息子のベッドの上に飾られている。ヴァランティーヌが生まれたのは南仏だが、父親の仕事がレースカーの整備なので、その後はサーキットの近くで育ったそうだ。
丸いランプは半円のシェードを2つつなげたもの。ボニーのベビーベッドの後ろに、ドレッシングスペースがある。長男の勉強机の上の棚は、インドのブリキ製食器棚だ。
子ども部屋の前に置かれているのは、ヴァランティーヌが子ども時代に遊んだ馬。自転車を漕ぐようにして前に進ませる古いものだ。
ヴァランティーヌとアルノーが二人三脚で作り上げる空間。今後はどんな予定があるのだろうか。
「リビングの籐のソファ。これはあちこちで見かけるようになったので取り替えたいと思ってるの。その代わりにと夢見ているのは、カリフォルニアで見かけたメタル構造のソファね。ミリタリー用のようなしっかりした素材のクッションを革ベルトが押さえつけている、という感じので、素晴らしかったの。これは夢。といっても不可能ではない。欲しいけど不可能な夢は、ブランクージの石と木の彫刻。残念だわ!!」
マレ地区に開いた最初のブティックをクローズし、今春ボーマルシェ通りに新しいブティックを開いたヴァランティーヌ。店舗の上がショールーム&オフィスで、小さいけれどスタッフのためのダイニング・キッチンを備えている。
「広くないから理想のキッチンとは言えないけれど、我が家のキッチンはこうあるべき!というキッチンと言えるわね。イレギュラーなセラミック・タイル、そして目地が濃い色で……私が好きな建築家のル・コルビュジエが建築したヴィラ・サヴォワの台所とバスルームにこうしたタイルがあって、木の棚と組み合わされていたのを見て、これが私のキッチンの出発点となったのよ」
自宅で叶えられないことをオフィスのキッチンで実現したヴァランティーヌ。
グラス類が並ぶ木の棚の上の片隅に、ル・コルビュジエによるモデュールの有名なデッサンが。マルセイユのパン屋さんがアーモンドペーストで作ったものだそうだ。
「祖父母がマルセイユのシテ・ラディユーズ(マルセイユにル・コルビュジエが建築したユニテ・ダビタションの呼び名)に住んでいて、よく遊びに行ってたの。子供のころから建築やデザインに興味を持っていたのね。それでアーティスティックな仕事をしたいと思っていて……いま、ファッション・デザインをしているけれど、他の仕事をしてる可能性もあったのね」
陶器好きのヴァランティーヌ。陶器をもとめて、海外まで出かける。photos:Mariko OMURA
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ボーマルシェ通りの新しいブティック
メゾン・プリッソンやメルシーができて、賑わいをみせるボーマルシェ大通り。ヴァランティーヌが新しいブティックを開いたのは、同じ通りの向かい側だ。地上階に2つのスペースがあり、左側は例えばお気に入りの陶芸家の作品を展示したり、というような彼女がキュレーションするアート系やアルチザナル系のイベントのために考えられている。
彼女がデザインする服が並ぶのは右側の45平米のブティックで、その内装をベルナール・デュボワに任せた。
ベルナール・デュボワが手がけた内装。服を並べて完成する空間だ。
カメラ店時代からのイノックスの壁を生かした店内。
木の羽目板で覆われた壁の後方が、試着室。こちらもミニマルだ。
「彼とは嗜好がほぼ同じなので、話し合う必要がないほどなのよ。ブティックは服が並んで初めて完成するものである、という彼の考え方が好き。このブティックも、そう。服がないと、空っぽすぎるほどの空間よ。以前ここはカメラ店だった場所で、大きなガラス窓の内側のイノックスの壁は、その時のままをキープすることにしたの。これにはとても満足しているわ」
コンクリートの壁と天井、ベージュの床、木の家具……ヴァランティーヌ好みの60年代調にまとめられた店内。もうじき、 Bloomと命名された秋冬コレクションがここに並ぶ。
ヴァランティーヌ・ゴティエの秋冬コレクションBloomより。
88, boulevard Beaumarchais
75011 Paris
営)11:00(火 12:00)〜14:00、15:00〜19:00
休)日・月
www.valentinegauthier.com
madameFIGARO.jpコントリビューティングエディター
東京の出版社で女性誌の編集に携わった後、1990年に渡仏。フリーエディターとして活動した後、「フィガロジャポン」パリ支局長を務める。主な著書は「とっておきパリ左岸ガイド」(玉村豊男氏と共著/中央公論社)、「パリ・オペラ座バレエ物語」(CCCメディアハウス)。