ヴァンドーム広場に蘇った宝石、ブシュロンのメゾン。

PARIS DECO

リニューアル工事に18カ月も!

長いこと工事が続いていたヴァンドーム広場26番地。その間、まるで建物をしっかりと護るかのようにグリーンの蔦の写真が全体を覆っていた。自然を愛する宝石商ブシュロンにおいて、いまも昔も蔦はジュエリーの大切なモチーフである。その蔦の覆いを取り払い、メゾン創業160周年を記念する2018年12月、ブシュロンはリニューアルオープンを果たした。18カ月という期間が工事に要したというのも、納得できる美しい建物であり内装である。リノベーションの基本は、“歴史とヘリテージを尊重し、可能な限り建築当初の佇まいと輝きをこの建物に取り戻そう”というものだった。ブシュロンは1893年にヴァンドーム広場に一番乗りした宝石商として有名だが、建物はヴァンドーム広場が生まれて間もない1717年の建築物。騎士シャルル・ドゥ・ノセの個人邸宅(オテル・パルティキュリエ)として建てられノセ邸と呼ばれていた。彼はルイ15世の摂政だったオルレアン公フィリップ2世の第一侍従を務めた人物である。

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ネオ・ルイ15世風くるみ木材の板張りが1階の大広間(ブティック・スペース)を飾る。今回のリノベーションに際し、この板張りは1893年当時の姿に修復が施された。

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建物は1930年に歴史建造物に指定された。ラペ通りに面した入り口はオテル・パルティキュリエ時代の歴史的エントランス。そこから入ると、建物のすべてのフロアに通じる大階段が目の前に現れる。

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ブシュロン家にようこそ。

ブシュロンがやってくるまでにこの建物は持ち主が変わり、また高級集合住宅として複数の住民が暮らしていた時期もあった。それゆえ、さまざまな持ち主によって建物のあちこちに改修、改造が加えられていた。今回のリノベーションによって蘇った建物は、いまの時代の個人邸宅といった様相を呈している。そう、ブシュロン家のオテル・パルティキュリエと呼んでいいだろう。販売スペースだけでなく、ジュエリーのクリエーションスタジオもアトリエも石を扱う部署も、ブシュロンのあらゆる職種が家族のようにこの建物内に集まっている。さらにこの建物に入ってきた人々は自宅にお招きしたゲスト、という感覚でブティックは構成され、そして3階には顧客が休息をとれるアパルトマンが用意された。リビングルーム、ダイニングルーム、ベッドルーム……さらにバスルームも備え、実際に宿泊も可能!というのも、この大改装の驚きのひとつである。

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ヴァンドーム広場の眺めが美しい、3階のアパルトマン・フロアーは Le 26(ル・ヴァンシス)と命名されている。自然にインスパイアされた内装だ。

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水をテーマにした客間。壁、天井……蘇る18世紀である。

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バスルーム。顕微鏡用のガラス板2枚の間に標本を挟むように雲を閉じ込めたような錯覚を起こさせる、シャルロット・シャルボネルの作品が飾られている。このLe 26宿泊者のケアは、食事を含めヴァンドーム広場のリッツ・ホテルに任されているそうだ。

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3階、アパルトマンのエントランスホールの反対側には、19世紀の中国製の壁紙が目を引くライブラリーがある。

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フランスのサヴォワール・フェールによる魔法。

歴史ある品もあればコンテンポラリーなオブジェなど、家族代々の時代の層がインテリアにも見えるのが個人の家である。リノベーション工事により、隠されていた天井を取り戻し、失われた装飾を再現し……蘇った18世紀の建物は、まるでブシュロン家が代々暮らしていた私邸のよう。建物に関わる改修部分を担当したのは、歴史的記念物主任建築家の肩書きをもつミシェル・グタール。ブロンズ、鋳鉄、大理石、石膏を専門とする数十名の伝統工芸職人の匠の協力を得て、彼はリノベーションを敢行したのだ。

内装はインテリアデザイナーのピエール=イヴ・ロションに任された。彼は歴史的記念物の修復や個人宅の内装を主に手がけていて、ブティックを手がけたのは今回が初めてだそうだ。彼はスタイルも時代も異なる骨董品、美術工芸品、それにピノー財団所蔵の現代アートなどを見事に調和させ、“自宅のように温かく人を迎える場所”というコンセプトの実現に成功した。

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ラペ通り側のエントランスでは、目を下に向けて市松模様の床に、上に向けて鳩が舞うランプに、そして横に向けてベネチアン・スタイルの鏡にため息!

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サロン・シノワ(中国の間)。建物の裏からこっそり抜け出せる扉も、リノベーションで復活した。

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2階のサロン・デ・フィアンセ(婚約者たちの間)。工事のために天井を取り払ったところ、その奥から昔の天井が姿を現した。その瞬間のミシェル・グタールの顔を見てみたかった!と思わせるような、18世紀装飾の見事な天井だ。アーカイブの写真をもとに、グタールは羽目板やメダイヨンを修復。丸いショーケースの上に、メゾン・マティユによるビーズのドレープのようにしなやかなシャンデリアが浮かんでいる。

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ダイヤモンドとハイジュエリーに捧げられた、2階サロン・デ・ルミエール(光の間)。仕切りなどを取り払い、天井が元の高さに戻り、部屋に格式が蘇った。その名の通り、入った瞬間、光の美しさに息をのむ部屋だ。

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セルパン(蛇)をあしらったブシュロンらしいランプが、このブティックのためにデザインされた。photo:Mariko Omura

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鳥、植物……ブシュロンだから自然がいっぱい。

21世紀に蘇った個人邸宅内、新たに設けられたのはジャルダン・ディヴェール(冬の庭園)だ。このスペースは、ブシュロンが愛するテーマで力強い自然を意味する“ナチュール トリオンファント”への賛歌である。床はグリーンの大理石で覆われ、さらに葉をモチーフにしたカーペットがそこに敷かれている。3フロアを貫く吹き抜けとなっていて、外の緑に面した部分は屋根までのガラス張り。ミッシェル・グタールは18〜19世紀のパリの個人邸宅に見られるような温室庭園をデザインしたのだ。そのガラス一面にピエール=イヴ・ロションがデザインした植物が手彫りされている。このエレガントな温室でのんびりと時間を過ごすことができたら、どれだけ素敵なことだろう……と、うっとり。

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美しいジャルダン・ディヴェール。photo:Mariko Omura

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ガラスに施された手仕事の装飾が光と遊び、夢のような空間をクリエイト。photo:Mariko Omura

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ジャルダン・ディヴェールでのジュエリー展示は、鳥かごにて!photo:Mariko Omura

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ランプにもクリスタルの鳥が飾られている。photo:Mariko Omura

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26番地に暮らした伝説の女性。

ヴァンドーム広場26番地を語る時、必ず登場する美女がいる。正しくは“かつての”美女である、イタリア人のカスティリヨーネ伯爵夫人(1837〜1899)だ。建物の中二階に、1878年から1894年の16年間暮らしていた。インテリアが黒でまとめられていただけでなく彼女自身も黒装束で、外出は犬の散歩に夜、馬車に乗って、という隠遁生活を送っていた彼女。老いた姿は誰にも見せたくなかった……というのも、19世紀半ば、ナポレオン3世をその美貌で籠絡するスパイという使命をイタリアから与えられていたほど、美女の誉れが高かった女性である。マタハリやらさまざまな人物に扮装して写真撮影をさせたので、彼女の写真は多数残されていて、その美女ぶりが確認できる。ブシュロンが26番地にやってきた翌年、彼女は建物を去ったがそう遠くないホテルで亡くなるまでの数年を暮らしていたとか。

リニューアルされたブシュロンのラ・ペ通り側の1階、階段脇に郵便受けが備えられているのを目にすることだろう。これは備えられている中から選んだポストカードをパリ便りとして送りましょう、という提案。1865年に撮影されたカスティリヨーネ伯爵夫人の有名な写真もポストカードの一枚となっている。

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階段途中に掲げられた創業者フレデリック・ブシュロンのデジタルポートレート。彼の膝下にいる愛猫ウラディミールに目をとめるのを忘れぬよう。

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ブティックに備えられているポストカードのカスティリヨーネ侯爵夫人。

彼女のアパルトマンだった中二階は、彼女が去った後どうなったのか? ブシュロンはそこを1918年にデザイン・アトリエに模様替えを行っていた。その後、売り場を見下ろせることから、中二階にはブシュロン家代々の執務室が設けられ、そして今回のリニューアルによってタイムピースに捧げる部屋として生まれ変わった。

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ブティックの中二階にあるタイムピースの部屋。このフロアに保管されていた木製の書架も今回きれいに修復がほどこされ、20世紀初頭の姿を取り戻した。

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この春の新作をリノベーションした“ブシュロン家”にて発表。

今年1月のクチュール・ウィーク中、新生された建物のアパルトマンのフロアにて3月から5月にかけて販売される新作ジュエリーの発表も行われた。その中の「ジャック ドゥ ブシュロン」はメゾンの自由なエスプリを象徴する新しいコレクションである。イヤフォンジャックのようなモチーフをつなげたりコードを巻き付けたり自分らしく自由に楽しめるジュエリーで、モデルたちが身につけて楽しさをアピールした。

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図書室では、新作のビジュアルを展示。photo:Mariko Omura

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しなやかなゴールドのワイヤーとジャック型のクラスプが自由な使い方を可能にする、遊び心いっぱいのジャック ドゥ ブシュロン。ネックレスとしてだけでなく、手首、ウエストにも、そして髪飾りとしても。photo:Mariko Omura

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新しいコレション、ジャック ドゥ ブシュロンより。3月1日発売予定。photo:Mariko Omura

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ヴァンドーム広場を見下ろす窓辺で、キャトルの新作を発表。キャトル(4)という名ながら、3層というのが新しい。photo:Mariko Omura

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キャトルの新作より。3月1日発売予定。photo:Mariko Omura

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セルパンポエムの新作よりYG、ダイヤモンド、ターコイスのブレスレット(日本発売未定)。photo:Mariko Omura

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セルパンポエムに、ネックレス、ブレスレットとしても着用できるヘッドバンドが加わった。photo:Mariko Omura

大村真理子 Mariko Omura
madameFIGARO.jpコントリビューティングエディター
東京の出版社で女性誌の編集に携わった後、1990年に渡仏。フリーエディターとして活動した後、「フィガロジャポン」パリ支局長を務める。主な著書は「とっておきパリ左岸ガイド」(玉村豊男氏と共著/中央公論社)、「パリ・オペラ座バレエ物語」(CCCメディアハウス)。

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