見どころいっぱい! FLVのシャルロット・ペリアン展を巡る。
PARIS DECO
フォンダシオン ルイ・ヴィトン(FLV)で10月2日に始まった『Le Monde Nouveau de Charlotte Perriand(シャルロット・ペリアンの新世界)』展が、話題を呼んでいる。フランク・ゲーリーによる建築で有名な建物のすべてが彼女のクリエイションに捧げられた展覧会は、展示品も400点と見どころ満載。 彼女が提唱したのは“Art d’habiter(住む術)”であるゆえ、単なる家具の展示にとどまらず、家具を空間に配して彼女のグローバルなビジョンを見せてくれる展覧会だ。1927年に自宅のためにデザインした家具から、1993年、90歳の時のユネスコの茶室までの66年間のクリエイションを支えた彼女の自由なエスプリに注目を。
地下鉄に『シャルロット・ペリアンの新世界』展のポスターが並ぶ。上半身裸で山に向かう彼女の写真の周りには、ピカソ、カルダー、レジェたちの作品が配されている。
ギャラリー10で出会える86歳のペリアン。イッセイ ミヤケの1988〜89年秋冬コレクションを着た彼女をスノードン卿が撮影した。
作品展示はフォンダシオン ルイ・ヴィトンの館内のみならず。「限りなく水に近い家」が文字どおり、外の水辺に面して再現されている。
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地下フロア/1920〜30年代
地下フロアのギャラリー1から、レベル2のギャラリー11まで彼女の仕事が時代順に展示されている。1930年代末までの仕事を見せる地下1階は、ギャラリー1がイントロダクションで、最後のギャラリー11までを巡るにあたっての大きな2つのポイントを紹介している。ひとつはシャルロット・ペリアン(1903〜1999年)が活動を開始したのは1920年代で、女性が職業を持つこと、それも室内建築の世界で台頭するなど難しい時代であったこと。もうひとつはアールデコ様式が席巻していた1920〜30年代に、メタルや皮革などを家具に用い、まるで1950年代を先取りしたようなモダンな家具を彼女がデザインしたことである。
奥は1927年の回転椅子、手前が有名なル・コルビュジエ/ピエール・ジャンヌレ/シャルロット・ペリアンによるシェーズ・ロング(長椅子/1928〜29年)。後方の巨大な絵画はフェルナン・レジェの作品。1937年のパリ万博のために水力発電をテーマに彼がオーダーを受けた作品だが、まるでポンピドゥー・センターの未来図のようでは? ペリアンは大勢のアーティストたちと親しかったが、なかでも隣人だったレジェとは、多くの仕事をともに手がけた。
Crédit artistes:© Adagp, Paris, 2019 Crédit photo : © Fondation Louis Vuitton / Marc Domage
1927年にル・コルビュジエのアトリエの門を叩いた彼女に、「ここではクッションの刺繍はしてないんだよ」と彼は応対。彼女は自分のためにデザインした家具を彼に見せ、その結果24歳でアソシエとして彼のアトリエに迎えられることになったそうだ。ペリアンによるサン=シュルピスのアトリエのための家具と内装(1927〜28年)を再構築と写真で展示している。
シャルロット・ペリアンが身に着けていたクローム・ボール・ネックレス(1927年)。会場に展示されている写真で、彼女のモードに注目する来場者も少なくない。adagp paris 2019
1929年のサロン・ドートンヌで、ル・コルビュジエ、ピエール・ジャンヌレとの共同作業で有名なシェーズ・ロングやアームチェアなどを配した“理想の住まい”のインテリアを発表した。その会場を再構築。
再現された会場。ここでは展示の椅子に座ることができる。シェーズ・ロングは傾斜段階を変えて試す人もいるので、待ち時間が必要だ。Crédit artistes:© F.L.C. / Adagp, Paris, 2019 © PJ / Adagp, Paris, 2019 © Charlotte Perriand / Adagp, Paris, 2019 Crédit photo:© Fondation Louis Vuitton / David Bordes
キッチンも再現。Crédit artistes:© F.L.C. / Adagp, Paris, 2019 © PJ / Adagp, Paris, 2019 © Charlotte Perriand / Adagp, Paris, 2019 Crédit photo:© Fondation Louis Vuitton / David Bordes
1930年代、機能性だけを追求するのではなく、自然と一体化した生活空間に注目を始めた。彼女による“アール・ブリュット”の写真を展示。自然が生む有機的な曲線は、自由な形をクリエイトするきっかけに。
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地上階/1940〜1952年
1940年、日本の商工省から輸出工芸指導の装飾美術顧問として彼女は日本に招聘された。当時ドイツとフランスが戦っていた時代だが、日本はまだ参戦していなかった。竹などの伝統素材を用いた生活空間を再構築するマニフェスト「選擇、傳統、創造」 を発表。日本の文化から彼女は大きなインスピレーションを得ると同時に、当時の日本のデザイナーたちに彼女の仕事はインスピレーションを与えた。1年の使命を終えた後日本各地で伝統工芸を見て回っていた彼女だが、1942年、太平洋戦争の勃発する数カ月前にフランス領インドシナへと移る。ちなみにその地で知り合った外務省のジャック・マルタンと彼女は40歳で結婚し、41歳で初出産。
ギャラリー4に、1941年3月28日から4月6日まで開催された『選擇、傳統、創造』が再現されている。壁を飾るのは子どもの絵を刺繍したもの。龍村美術織物が製作した。
ギャラリー4の後半は、“世界を見直す”というテーマでパリ国際大学都市のメキシコ館とチュニジア館(写真/1952年)内の学生の部屋を再現。Crédit artistes:© Adagp, Paris, 2019 Crédit photo : © Fondation Louis Vuitton / Marc Domage
ペリアンによる家具の代表作のひとつであるニュアージュ・ブックシェルフ。桂離宮の違い棚からインスピレーションを得たそうだ。
ル・コルビュジエが設計したマルセイユの集合住宅ユニテ・ダビタシオンのためにオープンキッチンを試作。その模型(1949年)。
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レべル1/1955〜1972年
ギャラリー5では、芸術と建築の密接な関わりについての『芸術の統合への提案—ル・コルビュジエ、レジェ、ペリアン三人展』に焦点をあてている。1955年に東京で開催されたものだ。各分野の境界をとりはらい、絵画、彫刻、タペストリー、家具、建築を合わせたスペースをデザイン。新たな社会交流を豊かにし、人々の感性を呼び起こすものをデザインするという彼女のユートピア的提案は、パリのステフ・シモン・ギャラリーによって支持され、ペリアンの特徴的アール・ドゥ・ヴィーヴルが広く知られることになった。
レベル1の会場入口で海辺のシャルロットに迎えられる。


会場に入る前に、1960年に東京のエール・フランスのエージェンシーに設えたキネティック・ウォールのレプリカを見逃さないように。廊下を左から右へ、右から左へとキネティック・アートを楽しもう。Crédit artistes:© Adagp, Paris, 2019 Crédit photo : © Fondation Louis Vuitton / Marc Domage
ギャラリー5では、1955年に東京で開催された『芸術の綜合への提案―ル・コルビュジエ、レジェ、ペリアン三人展』の再現。Crédit artistes:© Adagp, Paris, 2019 ; © F.L.C. / Adagp, Paris, 2019 Crédit photo : © Fondation Louis Vuitton / Marc Domage
同上。このフロアではレジェの絵画のみならず、ル・コルビュジエによるタペストリーも多数展示。Crédit artistes:© Adagp, Paris, 2019 ; © F.L.C. / Adagp, Paris, 2019 Crédit photo : © Fondation Louis Vuitton / Marc Domage
ギャラリ−6では、パリのステフ・シモン・ギャラリーでの展示を再現している。ランプはイサム・ノグチ、スーラージュを思わせる絵画は堂本尚郎の作品(1962年)。
ギャラリー7。1963年、彼女がデザインしたジャック・マルタン(夫)のリオのアパルトマン。最先端のテクノロジーと異なる文化を統合し、“便利な形”をデザイン。常に新しいものを求める精神が見られる。
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レべル2/山の暮らしなど
最上階のレべル2では、彼女の仕事においてあまり知られていない側面を紹介している。美術館や個人コレクターへの貢献、レ・ザルク(スキーリゾート)の建築物、パリのユネスコ庭園内に造られた茶室をこのフロアで空間として楽しめる。この後、地上階まで下りて、オーディトリアム経由で「水辺の家」を見学するのを忘れずに。
ギャラリー9。国立近代美術館のレセプションホールのためにカウンターとベンチ(1954年)をペリアンはデザインした。天井にアレクサンダー・カルダーのモビール、左の壁にロベール・ドローネーの鉄道会館のためのレリーフ(1937年)が展示され、来場者も当時の気分を味わいながらスマホタイム!
1960年代にペリアンはプレハブのリサーチに再びとりかかった。レ・ザルク1800の建築に際し、プレハブのキッチンとバスルームをクレーンで運びこんだ(1975年)。
ペリアンとジャンヌレによる「シャルロット・ペリアンの山小屋」(1938年)の再現。Crédit artistes:© Adagp, Paris, 2019. Crédit photo : © Fondation Louis Vuitton / Felix Comu
少人数ずつの入場で、中の見学が可能だ。Crédit artistes:© Adagp, Paris, 2019 Crédit photo : © Fondation Louis Vuitton / Marc Domage
パリのユネスコ庭園に造られた茶室。イサム・ノグチの1979年彫刻が傍らに配置されている。Crédit artistes:© Adagp, Paris, 2019 Crédit photo : © Fondation Louis Vuitton / Marc Domage
1930年の「限りなく水に近い家」を再現。リビング、寝室などが機能的にまとめられた小さな家だ。長椅子に座って、ぼーっと水の流れを眺めていたいところだが、あいにくと展示家具には座れない。Crédit artistes:© Adagp, Paris, 2019 Crédit photo : © Fondation Louis Vuitton / Marc Domage
期間:開催中〜2020年2月24日
会場:Fondation Louis Vuitton
8, avenue du Mahatma Gandhi, Bois de Boulogne, 75116 Paris
開)11時〜20時(月~水、木) 11時〜21時(金) 10時〜20時(土) ※第1金曜は〜23時
休)日
入場料金:16ユーロ
www.fondationlouisvuitton.fr/en.html
madameFIGARO.jpコントリビューティング・エディター
東京の出版社で女性誌の編集に携わった後、1990年に渡仏。フリーエディターとして活動した後、「フィガロジャポン」パリ支局長を務める。主な著書は『とっておきパリ左岸ガイド』(玉村豊男氏と共著/中央公論社刊)、『パリ・オペラ座バレエ物語』(CCCメディアハウス刊)。