窓越しの庭の緑がまぶしい家で、コーナー作りを楽しむ暮らし。

PARIS DECO

いまやボボ地区として名高いバティニョルに30年近く暮らしているアルメル・ベルトラン。2017年にヴィンテージ家具のブティック「Suzanne Marchande d'Objets(シュザンヌ マルシャンド・ドブジェ)」を開く際にも、迷うことなく選んだのはお気に入りのバティニョルだった。

「30年前に仕事のために故郷リヨンを離れ、偶然に暮らすことになったのがバティニョルでした。当時は賃貸で、20年前にアパルトマンを購入したんですが、その時も探したのはこの界隈だけ。活気があるし、古くから暮らしている人やお年寄り……さまざまなタイプの住民のミックスが気に入ったんですね。家を出て30分もすれば、買い物する品のすべてを調達できる便利な場所です。モンマルトルにも遠くないし、それにサン=ラザール駅にも近い。印象派の時代、この辺りは芸術家たちが多く暮らしていたんですよ」

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アルメル・ベルトラン。ヴィンテージ家具とオブジェのブティックSuzanne Marchande d'Objets(95, rue Nollet 75017 / Instagram : @suzanne.marchande.objets)を経営。photo : Mariko Omura

愛着を感じる街で家探しをし、ひと目で気に入ったのが現在暮らしているアパルトマンである。地上階の70㎡。すべての窓が庭に面しているというすばらしい立地だ。もっともこの庭は隣の建物の庭なので、近づけても入ることはできないのだが。

「この物件に決めた最大の理由はこの眺めでした。四季折々の光景を楽しんでいます。いまは椿の季節ですね。緑が輝く夏、本当に素晴らしい眺めなんです。でも、冬の雪景色もそれなりの魅力があって……。毎朝、鎧戸を開けるのが楽しみですね。まるで一軒家に暮らしてるような気がして……庭の手入れという面倒なしに、借景を満喫しています」

中庭はとても静かで、パリに暮らしている気がしないそうだ。玄関から入ってすぐのスペースはオフィスとして活用しているが、窓の向かい、木造の古い鳩小屋が建つ庭の光景はとてもチャーミング。場合によってはダイニングルームともなる部屋ながら、木のテーブルはコンピューターや書類が占拠している。ここは家の中でいちばん眺めのいい部屋なので、上手な使い方を見つけるのがいまの課題である。

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眺めのいい部屋。祖母の友人から譲られた肘掛椅子を窓際に置いている。クラシックな19世紀の椅子の張り替えに、彼女はあえてコンテンポラリーな布を選んだ。ビロードの水玉がチャーミングな布は英国のOsborn and Littleのもの。photos : Mariko Omura

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時代ミックスによる洗練空間

そのスペースの隣が彼女が時間を多く過ごすリビングルーム。ゆったりとした空間で、ここもまた庭の眺めがすばらしい。この空間を飾るのは、蚤の市巡りが昔から大好きなアルメルが掘り出したオブジェがほとんどだという。

「20年前から住んでいるとはいえ、ここでの生活を心から楽しんでいるのはこの5年くらいのことなんですよ。店をもつ前の会社員時代は、夜9時すぎに帰宅して簡単な夕食をとり、シャワーを浴びて寝室へという暮らし。冬など朝は暗いので週末以外、鎧戸は閉めっぱなしで……夜寝るだけの場所という感じでしたから」

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19世紀半ばのナポレオン3世時代のソファに、カラーとグラフィズムをもたらすLindell & Co.のモチーフさまざまなクッションを並べて。photo : Mariko Omura

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食器、グラスなどの収納に重宝しているアールデコの食器棚。取り替えたいのだが、まだこれ!と彼女の目を引く品が見つからないでいる。具体的なイメージはないが、いい家具が多く作られた40年代の品になるだろうとのこと。その上の額に描かれているのは祖母の友人。この女性の夫が、画家だった祖母の先生だったそうだ。photo : Mariko Omura

ブティックで1940年代から70年代にかけての家具やオブジェを扱うアルメルだが、このリビングルームではそれらと19世紀半ば、アールデコの品々を共存させている。ひと目惚れした品々はどれも彼女の好みの反映。時代を越えてハーモニーを作り上げている。ブティックの仕事ではコーナー作りが大きな楽しみだと語る彼女。自宅でもそれは変わらない。たとえば、ひとつのコーナーは半円のテーブルの上に60年代のメタルの鏡や陶器を並べ、脇の壁に画家だった祖母の作品を掛けた。もうひとつのコーナーでは、同じ半円のテーブルにナポレオン3世時代の黒い椅子2脚をセットし、籐のランプと19世紀の鏡などを配している。丸テーブルが2つの半円に分かれることを利用し、それぞれを対角線上に置いてタイプの異なる2つのコーナー作りに活用しているのだ。半円を2つ繋げて丸テーブルとして使用することもあるという。

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左 : 画家だった祖母シュザンヌの作品を壁にかけて、テーブルの上にお気に入りの品を並べた。 右 : 椅子は2脚とも19世紀後半のナポレオン3世時代のもの。この時代の家具も彼女の好みだ。祖母から譲られたカナージュのランプは、ソーダサイフォンを再利用したものとか。ランプの隣に、自分で見つけた似た品を並べた。不思議な形の木のオブジェは古い自動糸巻き器。最新の購入品だ。photos : Mariko Omura

掘り出しものを多数持つアルメルの強い味方は、インダストリアル風の大きな白い棚。書棚でもあり、またキャビネ・ドゥ・キュリオジテでもある。

「奥行きの深い棚なので本だけでなくオブジェをあれこれ飾るのに最適なんです。過去に掘り出した花瓶や食器、お気に入りの少女の頭像、曽祖父が持っていたアコーディオン風の楽器……」

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左 : キャビネ・ドゥ・キュリオジテ風にオブジェを飾る棚。 右 : 夜はキャンドルを灯し、リビングルームの時間を過ごす。photos : Mariko Omura

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猫の身体がぐるりと一周しているのが楽しい花瓶とアールデコのティーセット。photo : Mariko Omura

ブティックを経営するようになってから、自分だけの楽しみだけでなく、ブティックで販売する品を探すために、ますます掘り出しものに勤しむ。蚤の市に限らず、オークションもチェックを怠らない。

「最近ではクリスティーズで マン・レイの作品の競売があって、とても手は出ないけれど、品を見られるので下見会に行きました。その直後に、マン・レイの作品を思わせる不思議なオブジェに出会って……友達に“私、マン・レイ買ったわ!”って冗談を言ってみせたのが、昔小間物屋で使われていた自動糸巻き器です。使い方はよくわからないけど、木製の彫刻のようでちょっと奇妙でしょ」

店で売ろうか自宅に置いておこうか、まだ決められずにいるそうだ。ブティックに置くために購入した品でも、手入れのためにいったん自宅に持ち帰るのだが、そのまま自宅で……となる品もある。エントランススペースに置かれた2脚の椅子がそのひとつの例である。

「60〜70年代のイタリア製です。コーラルオレンジが珍しく、とても綺麗でしょ。2脚並べてベンチのように使っています。帰宅した時に、ちょっと物を置くこともできるし、靴を履く時に座ったり……」

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左 : エントランススペース。手前右がブティック用に購入し、自宅用になった2脚の椅子だ。ぽっかり空いていた収納棚の上に、持っていた帽子型に自分の帽子をかぶせて陳列してみた。右端の帽子ケースには、祖父が結婚式でかぶったトップハットが入っている。 右 : 最近壁に額を飾るようになった。右はブティックで展覧会を開催したほどのお気に入りアーティスト、Michaël Schouflikirの作品だ。photos : Mariko Omura

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オブジェで装うキッチン&ダイニングコーナー

キッチンで使っているグリーンの椅子2脚とスツールも、じつはブティックのために購入した品だった。それまで使っていたのは20年代のビストロチェア。これも掘り出した品だが、このグリーンの椅子たちに“リニューアル‼”と入れ替えられてしまった。彼女はこちらを店で販売したそうだ。シンプルなデザインでバウハウス風!と気に入っているグリーンの家具は、パリに来た初期に購入した食卓のタイルに描かれたモチーフともよいカラーハーモニーをなしている。

アルメルがリビングルームと同じくらい多く時間を過ごすのがキッチンだという。コンピューターを食卓に持ってきて、仕事をすることも。あまり料理は得意ではない彼女だが、友達が集まったときはキッチン内のテーブルで簡単な食事でもてなす。

「キッチンというだけでなく、ここは小さなダイニングスペース。それで壁に額をかけたり、ひとつの居住空間として装飾しています。ここだけ窓がなく、物件探しで見に来た時に外光の差し込まない台所??とためらいがあったんですけど、意外にもとても快適な空間なんですよ」

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グリーンの椅子2脚とスツールがキッチンをモダン空間に。photo : Mariko Omura

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料理するだけでなく食事もするので、ひとつの居住空間として空間を飾っている。気に入って購入したままだったナタリー・レテのトルションを額に入れて。photos : Mariko Omura

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プライベートな品を集めた自分だけの部屋

インティメートな雰囲気をクリエイトしたいからと、旅先で買った品、フェミニンな品、思い出を秘めた品、子ども時代を思わせる品……プライベートなオブジェを彼女は寝室に集めている。他者の目に触れるリビングルームの品と違って、これらは自分だけの楽しみの品々だ。ベッド脇の壁には帽子やバッグを飾り、ラックに明るい色の服を並べるなどモードのコーナーがシンプルな空間にフェミニニティをプラスしている。

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寝室。右端の家具は、週に一度のアトリエに通って指導を受けながらパピエ・マシェで彼女がこしらえた思い出の品だ。引き出しもあり、収納に重宝している。photo : Mariko Omura

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左 : 手製の家具の上に香水などビューティまわりの品々を集めて。ランプ、人形など全体的にアールデコの雰囲気でまとめられているが、ナポレオン3世時代の小箱などもミックス。 右 : ドミニカ共和国に数年前に旅をしたときに購入した人形。新品ながら、ドレスや帽子など古い人形のようで気に入っている。photos :  Mariko Omura

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ベッドの向かいの壁に並べた、精巧な造りの人形の家具のコレクション。蚤の市やブロカントで20年近くかけて買い集めたものだ。photo :  Mariko Omura

静けさを求め、寝室の白い壁には額もオブジェも飾っていない。もっとも、いまでこそ廊下に額をいくつかかけているけれど、それも最近始めたことだという。

「20年も住んでいて、額はいろいろと持っていたのに。あらら、壁が真っ白だわ!って1年位前に気づいたんですよ」

白い空間にクッション、オブジェ、家具によって色のタッチをプラスしていた彼女だが、よりパーソナルな雰囲気を演出するためにアパルトマン内のどこかの壁をペイントするのはどうだろうか、と考えてもいるそうだ。室内が暗くならないような、たとえばピンクベージュ、淡いグリーンなど……。

ブティックを経営する前から、蚤の市やブロカント通いを楽しんでいたアルメル。アパルトマンはひと目惚れした品ばかりという。その中でも絶対に手放さないものというのは何なのだろう。最後に彼女に聞いてみたところ、答えはリビングルームに置いている花形の鏡と、トビア・スカルパの2脚の椅子だった。

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左 : 1960年代頃のイタリアのトビア・スカルパの革の椅子。シュザンヌ・マルシャンド・ドブジェを開店するより以前の購入品だ。 右 : フランスのアーティスト、Jean Vinayの鏡。これはブティックでも扱っている。photo : Mariko Omura

大村真理子 Mariko Omura
madameFIGARO.jpコントリビューティング・エディター
東京の出版社で女性誌の編集に携わった後、1990年に渡仏。フリーエディターとして活動した後、「フィガロジャポン」パリ支局長を務める。主な著書は『とっておきパリ左岸ガイド』(玉村豊男氏と共著/中央公論社刊)、『パリ・オペラ座バレエ物語』(CCCメディアハウス刊)。
Instagram : @mariko_paris_madamefigarojapon

réalisation : MARIKO OMURA

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