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“ル・サンカセット”とは、フランス語で“午後5時から7時”を意味する。
それは、女性たちが仕事から解放され、夜の予定に向けて準備をするロマンティックな時間だ。
作家・金原ひとみが綴る、そんな自由な時間を揺蕩う、ある女性の物語を、女優・水川あさみが朗読する。
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時には、タフなジャケットを一枚でミニドレスのように纏ってセンシュアルな女性性を謳歌したい。余分な装飾のないシックなジャケットが、服を着る女性の揺るぎないパーソナリティを際立たせる。「ル・サンカセット」の名を冠したバッグが、自由なアティチュードを体現する。
ジャケット¥410,000、シャツ¥264,000、シューズ¥137,500、バッグ「ル・サンカセット “ベア”」(H28cm×W50×D18cm)¥456,500 /以上サンローラン バイ アンソニー・ヴァカレロ(サンローラン クライアントサービス)
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ワンピースタイプのスイムウエアをボディスーツのように纏い、膝丈のスカートを合わせる。そんな遊び心を大切に、自由に装う喜びを享受したい。大胆なカッティングからのぞく素肌が、軽やかな印象を添える。
スイムウエア¥104,500、スカート¥418,000、シューズ¥137,500、タイツ(参考商品)/以上サンローラン バイ アンソニー・ヴァカレロ(サンローラン クライアントサービス)
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
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
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右:透け感のある柔らかなヌードベージュのチュールが身体を優しく包み込むリラクシングなドレス。両サイドに寄せたドレープがコンテンポラリーな陰影を生み出す。
ドレス¥341,000、ベルト¥61,000
左:両肩のエポレットに4つのフラップポケットやウエストベルトと、サファリシャツのディテールを引用したミニドレス。肌なじみのよいソフトなシルク素材で、モダンかつノンシャランなムードで着こなしたい。
ドレス¥748,000、シューズ¥170,500、タイツ(参考商品)/以上サンローラン バイ アンソニー・ヴァカレロ(サンローラン クライアントサービス)
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シャープでモダンなフォルムを描く艶やかなシルクサテンのマチュアなミニドレスは、スティレットヒールを合わせてドラマティックに纏いたい。エレガントな装いにはあえてノーアクセサリーで、潔さと反骨精神を宿して。
ドレス¥429,000、シューズ¥154,000、タイツ(参考商品)/以上サンローラン バイ アンソニー・ヴァカレロ(サンローラン クライアントサービス)
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
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細身シルエットの端麗なサファリジャケットをモードに着こなす「サハリエンヌ(サファリジャケットを着た女性)」。このネーミングを考案したムッシュ イヴ・サンローランがかつて生み出したスタイルを再解釈した軽やかなドレスを纏って。足元にはフラットシューズを合わせ、どこまでも軽やかに。
ドレス¥748,000、シューズ¥137,500、タイツ(参考商品)/以上サンローラン バイ アンソニー・ヴァカレロ(サンローラン クライアントサービス)
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左:スリークなシルエットと透ける素材で、彫刻のようにボディラインを際立たせるドレス。シンプルながらも、フェミニニティの解釈を現代的に拡張する一着だ。
ドレス¥418,000、シューズ¥121,000
右:濡れたように輝く艶やかな型押しのレザーが、シャープでセンシュアルなフォルムを形作る。
シューズ¥154,000(ヒール11cm)/以上サンローラン バイ アンソニー・ヴァカレロ(サンローラン クライアントサービス)
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すべての女性を物語の主人公にしてくれる、ロマンティックなミニドレス。ノスタルジックなポルカドットやパフスリーブも、タイトなシルエットで心地よい緊張感を添えて。繊細なチュールにたっぷりと寄せたギャザーが、モードな陰影を描く。
ドレス¥803,000、シューズ¥137,500、タイツ(参考商品)/以上サンローラン バイ アンソニー・ヴァカレロ(サンローラン クライアントサービス)
残り再生時間: 秒
会社の最寄り駅近くの地下にあるビアバーに入ると、開店直後のためか客は一人もいなかった。テーブル席に座り、五時に合わせてタップ5を注文してタブレットを開くとキーボードを接続して、ちょうど出されたビールを飲み込みながら、ガラスの嵌め込まれた壁に映った自分の姿に目を留める。私の脇に置かれたバッグは、五時から七時という名の通り、この退勤から夕飯までの宙に浮かんだような時間を祝福してくれているようだった。いつもはショッピングに行ったり、知り合いの店に顔を出したり、映画館に行ったり、本屋に行ったりと、家のことと仕事のこと、以外のしたいことをこの時間に充てているが、今日の私には何を差し置いてもやるべきことがある。新しい自分に脱皮すること。だ。
タブレットに向き直り、クレジットカードのサイトに飛ぶと、ログインして名義変更をクリックした。ネットでできない銀行口座と免許証の名義変更は、この間出社前に全て手続きしておいた。引き落とし口座の名義が違うと引き落としができなくなると言われていたため、これが第一優先だった。クレジットカードは二枚。二社共に、二週間程度で新しい名義のカードが届きますとのことだった。電気とガスと水道もネットで恙無く変更。しばらく考えてから、携帯会社、サブスクやECショップの名義を軒並み変更した。
もうないかなと思い始めた瞬間、パスポートの存在を思い出した。考えてみれば、再来月に海外出張が迫っていてそろそろチケットも手配しなければならなかった。調べてみると、氏名が変わると新しいパスポートに切り替え発行になるらしく、電子申請は不可だった。かつて結婚した時には、名前や生年月日の次のページに結婚して新しい姓になった旨が印刷されるだけだったのだが、時代は変わったらしい。
申請窓口に並ぶことを思うとうんざりしたけれど、考えてみれば三年前に慌ただしく申請したパスポートの写真は気に入っていなかったし、申請帰りにパスポートセンターの近くにあるお気に入りのビストロにでも行こうと思いついた。じゃあ、あの辺りに住んでるリンにも声をかけて一緒に食べに行こうか。写真は知り合いのカメラマンに依頼して、スタジオで撮ってもらってもいいかもしれない。考えているうちに、新しいパスポートの受領が楽しみになってきた。
パスポートの申請書をクラウドを使って自宅のプリンターで印刷してしまうと、ようやくやることがなくなった。離婚届を出した時や、免許証と銀行口座の名義変更をした時にもアップデートされた自分を感じたけれど、今日はインストールが完了した気分だった。
自分へのはなむけになりそうなカクテルを頼もうとメニューを見ながら、そういえばギムレットは別れのカクテルだったと思い出して、注文した。レイモンド・チャンドラーの『長いお別れ』の中に「ギムレットには早すぎる」という有名なセリフがあり、マーロウとレノックスの二人の暗号、あるいはさよならの象徴として、ギムレットが登場するのだ。二人は二度と酒を酌み交わさなかったのか、それともあれから数年後、あるいは数十年後に再会して飲むことがあったのか、二人のその後の予想は読んだ人によって変わりそうだ。私と元夫はどうだろう。
離婚条件で揉めた時には側溝で野垂れ死ねと思ったけれど、今はもうプラスもマイナスも、一切の感情がない。ともかく、一人も死人を出さず別れに辿り着けて本当に良かった。華奢なグラスに口をつけると、ジンのさっぱりした味と、ライムの酸味、微かな甘味が広がった。カウンターの向こうのバーテンダーが、私の表情を見て頰をわずかに緩ませた。
六時五十分。会計の途中でスマホを見ると、「お母さんも賛成してくれたので正社員になろうと思います」と今日口説いた優秀な派遣社員から絵文字付きのお気楽なメールがきていて、私は小さくガッツポーズをとる。ロンググッドバイ。歌うように呟きながら階段を上ると、入る時に群青だった空は、腰の重そうな漆黒に様変わりしていた。七時までにはまだ少し時間がある。脱皮した私は、少しの時間でどこまででも行けそうな気がした。
金原ひとみ
1983年、東京生まれ。2003年『蛇にピアス』で第27回すばる文学賞を受賞。『マザーズ』(新潮社刊)で第22回Bunkamuraドゥマゴ文学賞、『アタラクシア』(集英社刊)で第5回渡辺淳一文学賞、『アンソーシャル ディスタンス』(新潮社刊)で第57回谷崎潤一郎賞、『ミーツ・ザ・ワールド』(集英社刊)で第35回柴田錬三郎賞を受賞。近著は、『ハジケテマザレ』(講談社刊)
水川あさみ
1983年、大阪府出身。『喜劇 愛妻物語』(2020年)にて、第75回毎日映画コンクール 女優主演賞、第94回キネマ旬報ベスト・テン 主演女優賞を受賞。出演するドラマ「沈黙の艦隊 シーズン1 ~東京湾大海戦~」がAmazo Prime Videoにて、「ブラッシュアップライフ」がNetflixにて配信中。映画『霧の淵』が4月6日より全国順次公開予定。
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毎日のパートナーに。
なめらかなディアスキンが使い込んでいくうちに味わいを増し、レザーの質感とともに経年変化を楽しめる。ゆったりとしたエレガントな形も魅力。インナータイでサイドを折り畳み、シェイプを変えることも可能。
「ル・サンカセット “ベア”」¥456,500(H28×W50×D18cm)/サンローラン クライアントサービス(サンローラン バイ アンソニー・ヴァカレロ)