制作に没頭できる豊かな時間。

NIWA鎌倉の庭に臨む、露天風呂や煙突、鎌倉時代から存在するという洞窟を前に、花梨にはある感情が湧き上がってきた。「手が加えられていないうっそうとした自然は怖いと思うんです。人と自然がうまく共生する最たる情景が田舎。年月をかけて人が作り上げてきたこの景色こそ、心惹かれ懐かしく感じるのだと思います」と語る彼女。旅に出ると新しい視点が見えてくる。先日も海里が住むロンドンを訪れた後にモロッコに出向き、ふたりで美術館を巡った。アプローチは違えど好きなものが似ていて、弟からアドバイスや作品への感想をもらうことが多い。海里もまた、姉の美意識や感性を尊敬している。「姉の作品は心から素敵だと思いますし、リスペクトしています。電話で意見を求められ、ここが好きとか好きではないとか具体的に伝えたりもします。姉とは選ぶ色が違うので、余った画材で作品を作ればまた違う視点が入ってきておもしろいですね」（海里）アートワークに集中できる作業スペースがあるのも一棟貸しの宿ならでは。近くのレストランでテイクアウトしたイタリアンを、宿で用意されている食器に丁寧に盛り付け、気心の知れた人々との会話を楽しむ。そのひとときが、次の作品への制作意欲を掻き立てる豊かな時間となる。

上：2階への階段を上がると、大きな窓から豊かな自然が覗く作業スペースがある。旅先の思い出や小説が制作の着想源となるという花梨にとってはうってつけの空間。中央：常日頃からノートやスケッチブックを持ち歩き、心に響いた言葉や印象に残ったモチーフを書き溜める。右下：洗練された空間になじむ本棚には、ホストによってセレクトされた洋書やデザインにまつわる本が置かれている。