Music Sketch

海外の最先端を意識した、yahyelの音楽(前編)

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この秋、madame FIGARO.jpのリニューアルのタイミングで、日本の気鋭の若手バンドを5組(Suchmosを含めると6組)紹介させていただいたが(記事はこちら≫)、アルバムのリリースがもう少し早ければそこに絶対に加えたかったのが、このyahyel(ヤイエル)だ。結成時から海外に通用する音楽を意識したこのバンドは、今年2月の『Fool / Midnight Run』の2曲入り7インチのリリースに先駆け、1月には渡英してインディーレーベルの名門ROUGH TRADEのロンドンのブリックレーン店(ショーリッジ)でインストアライヴを行うなど、精力的に活動している。

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今年1月のROUGH TRADEでインストアライヴを行った時の看板。

既にミュージッククリップを発表している「Once」を聴くだけで、そのセンスの高さが伝わると思う。デビューアルバムの完成を機に、中心となる3人のメンバー、池貝峻(Vo)、篠田ミル(Sample,Cho)、杉本亘(Synth,Cho)に話を聞いた。

「Once」

■アメリカにいる時にトム・ウェイツの歌詞に影響を受けて(池貝)

― まず、音楽を始めたきっかけを教えてください。

池貝:中学くらいからですね。アメリカにいた17歳の頃はブルースにハマって、僕は何かを先にカヴァーしてから曲を作るというより、最初から曲を作りつつ、ロバート・ジョンソンやライアン・アダムスとかをカヴァーするということを同時にやっていました。曲を書くのが楽しくて、それこそ携帯のボイスメールに何百とか作り溜めて、そこから時々“これを広げようかな”と1曲に発展させて……というのは、大学の終わりくらいまでずっと続けていましたね。そうそう、トム・ウェイツに凄くハマりました。

― 文学的な歌詞に興味があってということ? そもそもブルースはストーリーテラーな音楽だし。

池貝:どっちかというと、そういうアーティストに影響を受けていたかも。ニック・ドレイクやジョニー・キャッシュの歌詞も調べていたし。でも一番はトム・ウェイツ。僕らが見てないようなボロボロのアメリカというか、東京にはない感じの退廃的な生活をしている人たちのポートレートみたいな書き方をしている彼の歌詞に、すごく影響を受けていました。

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今年1月の7インチシングル発売時にロンドンの店頭に並んだ写真。

■高校時代に衝動的にバンドを始めた(篠田、杉本)

― 篠田さんは?

篠田:高校生の時にあったガレージロック・リバイバルみたいなものに触発されて、初期衝動的にバンドを始めて大学生まで続けていました。その一方で音楽に限らず、コンセプチュアルなアート全体みたいなものがすごく好きで、それこそマン・レイでも何でもいいんですけど、“そういうものを受容することで、ある表現が作品として成立することはどういうことなんだろう”みたいなことを、ただぼんやりずーっと考えていましたね。

― そう思わせるきっかけがあったわけですよね?

篠田:典型的な例でいえば、“美術館に(マルセル・デュシャンのように)トイレ(便座)をバーンと置いたら作品になるのはどういうことなんだ”と考えるような、そういうことに興味があって、自分の好きな音楽もルーツとしてポストパンクというかニューウェーヴ的なことにすごい興味があって、“技術も何もない人たちが頭でっかちに下手くそなりに何かを持ってきても、強度のある表現として成立するのはどういうこと何だろう”と、ずっと考えていて。ただ初期衝動的にやっているバンドとそれがなかなか結びつくことはなかったんです。でも、これって1つにできるよな、というのは自分なりに考えていましたね。

― バンドではベースを?

篠山:はい。最初はストロークスとか、僕らの世代のクラシックスを演奏して。見てくれもかっこいいし、あの時からしたら何でこんなに新しいんだ、研ぎ澄ましてクールなんだっていうものをやりつつ、一方でYMOもずっと好きなので、コンセプトを組み立てて何かある表現をするというのはどういうことなのかなと、ずっと考えていました。

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ROUGH TRADEでインストアライヴを行った時の機材の様子。

― 杉本さんは?

杉本:僕はニルヴァーナ。高1の時に「Smells Like Teen Spirit」のミュージックヴィデオを見て、1回聴いた瞬間から洋楽の虜になって、ロックに目覚めたというか。それこそ初期衝動的なノリで友達と一緒にバンドやろうぜってなって、たまたまギターとヴォーカルのポジションが空いていたから、“お前それやって”って言われて(笑)。で、ニルヴァーナとか他のバンドのカヴァーもしながら、自分でも曲を作る作業を同時にやってました。

― 3人はどこで知り合ったのですか?

篠田:僕ら、大学は結果的に一緒だったんです。僕と池貝は大学が一緒で、音楽の話をする以前からつるむ友達としての関係があって。一方で僕はライヴハウスで演奏するバンド仲間として杉本として知り合って、話していたら“大学一緒なんだ”っていう。

― 音楽の趣味が合うというより、人としてき合うところから始まった感じ?

杉本:音楽の話はしてたんですけど、割とそうですね。

■女性ヴォーカルの方を意識して歌っているアルバム

― 音楽の話に移ると、まず池貝さんの歌が素晴らしいですね。この声ありきという。細かく言い出すとキリがないんですけど(笑)、例えば「ONCE」のwhatの歌い方がアクセントとなっていて巧いですよね。

池貝:嬉しいですね。

― 「The Flare」「Why」、それぞれの歌い方にもこだわりが強く感じられますが、サウンドとの相性を重視して歌っているところはあります?

池貝:それはありますね。曲によって、それぞれどういう雰囲気があるかという。僕らコンテクストという言葉をすごく使うんですけど、この曲はどういう音楽的な成り立ちの上に作っているのかというのをすごく意識しているので、もちろんヴォーカルのスタイルはそれによって全然違いますし、声の出し方はものすごく意識してやっています。それに、ヤイエルのヴォーカルは全編を通じてどっちかというと女性ヴォーカルの方を意識しているんです。

― それはなぜ?

池貝:このアルバムを通して歌っているテーマがすごく破壊的で、生々しくて、事実を提示するみたいな表現の仕方が多いし、そういう正直な表現をしている人たちって、どちらかというと女性のシンガー・ソングライターの方が多いので。

― そうですね。

池貝:特にすごくドーターの大ファンなんです。それこそ空気感とか、彼女の声の出し方、表現、作詞の部分とか影響を受けていて、そういう表現が(自分に)マッチしているので。そういう情景をうまく生かしたりとか。

― ドーターはインタビューしたので、すごくわかります。でも、ヤイエルはそれに比べるともっと冷静な世界観では?

池貝:冷静でありたいと僕は正直思っているんですけど、周りもこの2人にも“意外とエモーショナルだね”って言われていて、そもそも冷静ぶりたいんだけど、実はそこまで冷静じゃない歌詞だったりするし、そういう世界観が歌詞に出ていること自体も実は女性のシンガー・ソングライターのイメージにすごくリンクしているのかもしれない。

― 例えば女性のシンガー・ソングライターの方が失恋の時の感情をうまくラッピングして歌いやすく修正しがちだけど、男性の場合は事実に理想を振りかけて歌うことによって、自分の理想に持っていく方が多いかなと思うことが多いんですよ。

池貝:そうですね。理想もそうですし、もっと何重にも層をかけるというか、表現自体を難解にするということ自体が、ある種のマッチョイズムみたいなところがあると思う。というより、ヤイエルの表現はより中性的なのかな。

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匿名性を重視しているというヤイエルのアーティスト写真。

■歌詞では身体的なパーツや、色をメタファーとして使用

― 話の流れで歌詞について聞きたいんですけど、blood、bones、eyeといった身体の部位や、red、violetといった色彩が多く出てきますが、それは象徴しやすいということからですか?

池貝:そうですね。結構アルバムを通しての身体的なパーツを使った表現がすごく多くて、臓器とか……。

― “目玉を掬う(Spoon out her eyeball)”はちょっときつかったですけど(笑)。

池貝:あれね(笑)。あれは、僕は超いいフレーズだと思っていて。

― いいと思うんですけど、私はすぐ想像しちゃうので。

池貝:「Black Satin」の“目玉を掬う”って表現って、人種的な意味合いをそこのeyeから閉ざしている部分があったり、それぞれの機能がアイデンティティに対して果たしている影響は結構メタファーの中で使われていることなので、僕は好きなんだと思います。そこのメタファーってすごくわかりやすいですし、直接的なんだけど、比喩としても奥深いところがあるので。

― 確かに。メタファー的な面白さはありますよね。「Black Satin」でいうと、終盤に鍵盤がメジャーの和音で入ってきているのがすごく面白くて、普通、不協和音ってマイナーコードでぶつけてくることが多いのに、この曲でしかもメジャー感でぶつけてくるのがすごい発想だと思いましたね。

池貝:狂気的ですよね。その方がより静かな雰囲気のマイナーな曲の中の上に、メジャーの感じの和音が乗ってくるという、なんかちょっと道化的な怖い、狂気的な叫びみたいなものが表現しやすいのかな。

― 誰のアイディアだったの?杉本さん?

杉本:はい。感覚ですけど。これは歌詞よりも先にトラックで作っていましたね。

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アルバムより一足先にリリースされた500枚限定の『Once / The Flare』の2曲入り。

― 色ということで言えば、「Once」の“The peak of your bloody heart and violet grin」というフレーズで、なぜvioletという色が使われているのかなと、気になったんです。

篠田:これはめちゃくちゃ鋭い(笑)。

池貝:よく読んでますね(笑)。violet grinは僕の知っている個人の象徴として、です。

― 色という表現があるとはいえ、grinにvioletって興味深いから。

池貝:色味として、すごくその時を象徴している色味でもあるんですけど、“紫色の微笑み”ってなんかすごくいい表現ですよね。最終的にそれは個人の象徴で始まったんですけど。

― “微笑み”というか、grinは“ちょっとニヤニヤ笑う”って感じですよね。そして、この1行自体凄いですよね。

池貝:良かった。僕そういうの、本当にすごく考えて歌詞を作っているんですけど、なかなか聞かれないですよね。

― だから、曲もサウンドもいいんですけど、この声にこの歌詞っていうのはとても大きいなと。

池貝:すごい嬉しいです。

 

後編へ続きます。

【関連記事】
海外の最先端を意識した、yahyelの音楽(後編)

*ロンドンの写真はヤイエル提供

*To be continued

伊藤なつみ

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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