Architecture 南国らしさを感じる、固有の建築を巡って。【後編】
Travel 2022.12.08
琉球王国の文化を色濃く残す歴史的建造物や、自然との共生をはかる住居など、沖縄の建築物に魅了され、拠点を移して活動する建築家の五十嵐敏恭がすすめる、いま見るべき建築とは。
▶︎中村家住宅
▶︎ホテルムーンビーチ
▶︎識名園
▶︎名護市役所
▶︎沖縄県立博物館・美術館
建築家、スタジオ コチアーキテクツ代表
1984年、埼玉県生まれ。大学時代に沖縄の設計事務所でインターンしたことをきっかけに、沖縄の建築に魅せられ、現地の設計事務所に就職。2014年、スタジオ コチアーキテクツを設立。気候風土を生かし、自然と建築を豊かに繋ぐことをテーマに設計活動を行う。自邸「玉城の家」では大きな屋根を持つ開放的な住まいを実現。
https://studiocochiarchitects.jp
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[ 恩納村 ]ホテルムーンビーチ
光と風を大胆に取り入れたビーチリゾートの先駆け。
建物の中央に、プールのある吹き抜け空間を設けた。吹き抜け上部には天井がなく、光や風が通り、植物が絡む、生き生きとした沖縄の自然と建築を融合させようという試み。
沖縄復帰直後の1975年、沖縄初の本格的リゾートとして竣工したホテルムーンビーチ。三日月の形をした恩納村の美しい浜辺に立つホテルは、沖縄出身の建築家、国場幸房により設計された。贅沢にとられた中庭は、高さ10mもの吹き抜けから光が注ぎ、最上階から長く伸びたポトスが緑のカーテンとなって枝垂れる圧倒的な空間。天井がなく、空と直接繋がる吹き抜けは、風がそよぎ、時に雨も降らす。中庭のプールは広々としたピロティを介し、開放的にそのまま海へと繋がっている。
「パブリックスペースを広く設け、贅沢な半屋外空間を設えた造りは、まるで東南アジアのヴァカンスリゾートのよう。日陰を作って風が抜ければ、空調に頼らなくても快適に過ごせます。自然の中に人の居場所があることを具現化しているのが見事です。沖縄らしい建築とは何かを模索した、70年代の熱い時代が生んだ傑作」(五十嵐)。ビーチリゾートの夢を沖縄の光と風で大胆に描いている。
海外のビーチリゾートのように気持ちが開放されるようなゆったりとした空間の使い方が特徴。内と外の中間領域を上手く取り入れた設計が心地よさを生んでいる。
沖縄県国頭郡恩納村字前兼久1203
tel:098-965-1020
全280室 全室バスタブ付き
ナチュラルスーペリア1室¥16,500~
www.moonbeach.co.jp
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[ 那覇市 ]識名園
広々とした折衷庭園を持つ、琉球王朝の別邸。
心字池の奥には赤瓦の屋根が美しい御殿が見える。日本庭園の様式に中国風のあずまやなど、異文化をミックスした琉球らしい庭園。
那覇市内の高台にある識名園は、1799年に琉球王家の離宮として造られ、世界遺産にも構成資産のひとつとして登録されている。往時は中国からの使者をもてなす迎賓館として利用された歴史を持つ。庭園は日本庭園の一形式である回遊式庭園だが、中国風のあずまや「六角堂」や、琉球石灰岩を積んだアーチ型の石橋を取り入れるなど、随所にこの土地ならではの折衷スタイルが見られる。植栽もガジュマルやデイゴなど沖縄らしい亜熱帯の植物が茂り、独特の南国的雰囲気が漂う庭園だ。歓待の場となった御殿は15もの部屋からなる格式ある建物。
「赤瓦の屋根やチャーギを用いた柱など、琉球の上質な伝統建築の造りが見られます」と五十嵐。戦前から残る湧水、育徳泉の石積みや石畳の園路も見ごたえがあり、のんびり散策が楽しめる。丘にある展望台、勧耕台はあえて海が見えないように設計し、景色として広々とした陸地のみを見せることで、琉球王国を大きく見せたという逸話も。
沖縄県那覇市真地421−7
tel:098-855-5936
開)1~3月、10~12月:9:00~17:00最終入場
4~9月:9:00~17:30最終入場
休)水
料:一般¥400
www.city.naha.okinawa.jp/kankou/bunkazai/shikinaen.html
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[ 名護市 ]名護市役所
草木と建物が一体化、戦後の沖縄建築の金字塔。
建設から築40年以上が経ち、緑に覆われ、周囲にすっかり溶け込んだ外観。アサギテラスが作り出す心地いい環境の中で、市民も職員も自由に休憩できる。
1981年に竣工した象設計集団による戦後の沖縄建築の記念碑的な建物。沖縄の気候や風土を映し出すように、各階には「アサギテラス」という屋根付きテラスが設けられ、ブーゲンビリアなどの植物が絡みつき、まるで古代遺跡のような風貌。沖縄らしい質感を表現するため、街で見かけるコンクリートブロックを積極的に用い、花ブロックで光を遮り、建物内まで風を通した。市民のための市庁舎という画期的なアイデアを、建築が体現しているのが素晴らしい。
「開放的な芝生広場からテラスを介してアプローチする開かれた場所。入口はひとつではなく、どこからでも出入りできるのも興味深いところ。テラスは日中自由に活用でき、本当の意味で市民に開放された市役所だと思います。自由で大らかな沖縄らしい精神を感じさせる」(五十嵐)。「沖縄における建築とは何か、市庁舎はどうあるべきか」というのがコンペティションの課題だったが、それにこたえた情熱をいまもなお感じ取れる。
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[ 那覇市 ]沖縄県立博物館・美術館
グスクに着想を得た白亜の建物で、美と伝統に触れる。
琉球石灰岩を混ぜたファサード。花ブロックをモチーフにしたスクリーン越しに、光の移ろいを感じて。
沖縄を代表する建築物であるグスク(城)をイメージした県立博物館・美術館(通称おきみゅー)。県内最大の収蔵資料数を誇り、歴史や文化、芸術に触れられる。建築は強い日差しを軽減するため、建物の外側にゆるやかにカーブするファサードを重ねた。花ブロックをモチーフとした孔の空いたファサードからは、木漏れ日のような光が入る。外壁はコンクリートに琉球石灰岩を混ぜ、削り出すことで質感を出した。内部に入ると木漏れ日の空間をイメージした吹き抜けのエントランスホールに出迎えられ、トップライトからは自然光が差し込む。
グスクをイメージしたインパクトのある外観。
「特に公共建築に言えますが、セキュリティや防災を重視する現代では、いま沖縄らしい開放的な建築は造りにくくなった。おきみゅーは2007年竣工と比較的新しいのに、自然光を取り入れ、中庭や吹き抜けを設けるなど、内外を繋げようとする意図が感じられる」(五十嵐)。迷宮のような建物を巡りながら、沖縄が誇るアートや文化など、多彩な魅力に思いを馳せてみたい。
沖縄県那覇市おもろまち3-1-1
tel:098-941-8200
開)9:00~17:30最終入場(火~木、日)
9:00~19:30最終入場(金、土)
休)月 ※祝日の場合は開館、翌平日休館
料:博物館常設展:一般¥530
美術館コレクション展:一般¥400
※企画展、特別展は別途観覧料がかかる
https://okimu.jp
*「フィガロジャポン」2022年12月号より抜粋
●掲載施設の開館・営業時間、閉館・定休日、価格、料理、商品などは、取材時から変更になる可能性があります。
●施設によって、別途サービス料や宿泊税、入湯税などがかかる場合があります。
●取材・撮影時はコロナ対策に十分配慮し、少人数で行っております。また、写真でマスクを外している場合がありますが、通常スタッフはマスク着用のうえ感染対策を行っております。
photography: G-Ken text: Chisa Sato