『プラダを着た悪魔2』公開。気高き人生讃歌に装いの美学を添えて。

Culture

『プラダを着た悪魔』。働く姿勢と、大切にしたいものごとは、時に同じ方向を向かない。

成功と引き換えに失ってしまうものや、自分らしさ、理不尽な環境でも手を動かす大切さ。魅力的なキャラクターの存在に、華やかなスタイリングなど、さまざまな切り口から元気をもらえると、お気に入り映画のひとつとして語るファンは公開から20年経ったいまなお多い。 続編の制作が現実味を帯び、撮影風景がSNSに流れ始めた頃から、この物語の続きに歓喜する声は自然と広がっていった。

出版業界にまだ元気があった前回の状況と違い、最新作『プラダを着た悪魔2』では出版不況という現実や、SNSの発達による想定外の炎上、数字の伴わない記事の是非など、業界のリアルな背景が生々しく描かれている。

ジャーナリストの存在意義についても現実を突きつけられる冒頭は、過剰な演出ではなく、本当に起こりうる業界の行方かもしれない、とも考えてしまう。

そんな物語のスタートから主人公アンディは「RUNWAY」に舞い戻ってくる。前作とは違う仕事に対する姿勢を持って。

悪魔のような編集長ミランダから放たれる無理難題を、オーダーされてから解決へと動いていた受け身な前作とは異なり、本作では見通しのつかない課題に対し、解決策を自ら提示し、それを現実にしようと奔走する。

成長したアンディと、彼女の纏う「フェミニンメンズウェア」

それは彼女自身がキャリアを通して自分のものにした仕事の進め方なのだろうが、行動の後押しにはナイジェルの言葉もあった。 “先が見えなくても頑張るしかない”、“自分のやり方を見つけないと”、そうしたニュアンスの彼のセリフは、アンディへのアドバイスであると同時に、メディア業界全体へのエールとも捉えられる。

そして、進化した彼女の仕事への姿勢は、本作における彼女のスタイルを通し、「フェミニンメンズウェア」という言葉でも語られている。

ベストに、柔らかなブレザーの組み合わせやハイウエストのパンツなど、男性的な構造を持ちながら、同時に女性的な柔らかさも感じとられる。

さらに印象的なのは、ヴィンテージと新しい服のミックス感。彼女はジャーナリストとして世界を飛び回りながら、その土地のヴィンテージショップで服を見つけてきた。そんな背景が込められながら、新旧含めセンスよくミックスされた上品なスタイルは、働く女性への実現可能なワードローブの提案にもなっている。

あえて変わらないことを選ぶ、「ミランダ」という生き方。

一方で、ミランダのスタイルは前作から大きく変わらない。形のいいジャケットとペンシルスカートやドレープの美しいワイドパンツ。それは彼女のユニフォームのような存在であり、変わらないことを選び続ける強さがある。同時に雑誌を守ってきたという意志も。


エレガントなスタイリングのなか、印象的だったのはメリル自身がドラッグストアで手に入れたと言うシルバーのフープピアス。髪型を邪魔せず、けれども控えめすぎない大きさと太さは完璧だと判断され、劇中さりげなく何度も登場する。

ハイとローの境界を軽やかに越えるその選択は、メリルであり、ミランダというキャラクターの美意識の本質を示しているようにも捉えられる。ファッションとは、価格だけではなく、その人自身そのものの姿勢の具現化なのだ、と。

エンタメの中に混ざるひと匙のリアリティの意味。

華やかなスタイリングや、物語を盛り上げるBGMを携えたストーリー展開は、ザッツムービーなエンタメ感満載でありながらも、ファッションウィーク中などの現実を交錯させた演出により、観ている側をフィクションとノンフィクションの中間を見ているような感覚に誘う。 観る側を飽きさせない、小気味いいストーリー展開に現実をほんの少しだけ纏わせることによって、ファンタジーの世界、だけでは終わらない印象も与えてくれる。

作品を見ながらふと思い出したのは、1960年代のミルグラムの“スモールワールド実験”だった。人は平均して約6ステップで会いたい人につながる、という考え方であり、友人、その友人の友人と繋がりを辿れば、6人目に目的となる人に繋がる可能性が高い、と。

SNS時代において、そのステップはより短くなったとも言われている。

そんな前提があると、作中の展開はただの夢物語ではなく、ありえなくはない仕事中のミラクルなのかも、と思わせてくれる。

自分を信じ、肯定することへの表れは、終盤のスタイリングでも仄めかされる。前作でミランダにことごとく否定された装いに近いカラートーンのものが作品内オマージュ的にサラリと登場するのだ。

失敗の象徴として語られた色味が今回では成功体験直後に登場する。装いが彼女を変えたのか、彼女の内側の変化そのものがスタイルを変えたのか——。

メリルの使用するドラッグストアのフープピアスにしろ、その例のカラーリングにしろ、“美意識の表れ”というものはその人次第。

その考え方は、かつての同僚エミリーに語りかけるアンディの暖かなセリフからも読み取ることができる。

——本作は冒頭、意図していなかったSNSでの炎上問題からスタートする。けれども、全貌を知り得ないSNSユーザーに事実はなかなか届かない。謝罪を発表しても、それは悲しいかな、意味のある数字にはなり得ない。

状況がどこか重なる部分がありながら公開へと向かう本作。問われている問題を本記事にて払拭したいという意図はないものの、作中、物語を動かす一員となったのも気高きアジア系の人物であったことをここに記しておきたい。 予告のひとコマだけを見て、炎上内容を理由に見逃すのは惜しい一作。実際、完璧を目指すのは本当に難しい。仕事も私生活も。

それでも、考え続ける、手を動かし続けることにきっと意味がある。うまくいくことばかりではない、けれども働かねば。まずは何を着るかではなく、どう生きるか。そして、どう生きるかは、美意識や仕事への姿勢を通し、”どう装うか”に表れる。  

そんなヒント満載の2時間。どうぞお見逃しないように。

『プラダを着た悪魔2』
●監督/デヴィッド・フランケル
●脚本/アライン・ブロッシュ・マッケンナ
●出演/メリル・ストリープ、アン・ハサウェイ、エミリー・ブラント、スタンリー・トゥッチほか
●配給/ウォルト・ディズニー・ジャパン
© 2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.
2026年5月1日(金)日米同時公開
https://www.20thcenturystudios.jp/movies/devil-wears-prada2

  • text: Izumi Akamatsu