綾瀬はるかとファーストサマーウイカ。映画『ファーストボイス』で得た、女性が自分らしく生きるということ。
ミニスカートにド派手なメイク、パッドで大きく肩を張ったシルエット。バブル絶頂期の1989年は、女性たちの装いもひときわパワフルだった。けれど、その煌びやかさの裏側には、「女はこうあるべき」という価値観に縛られた社会があったーー。

そんな時代に、綾瀬はるか演じる弁護士・朝日道子と、ファーストサマーウイカ演じる、職場でハラスメントを受けた女性・上原恵が立ち向かう姿を描く、映画『ファーストボイス』。実話に着想を得て、“常識”を打ち破っていくフィクションだ。今回、ストーリーの肝を演じたふたりに作品を通して感じた社会の変化、そしていまも続く「仕事の現場」を聞いた。
「女の幸せって何?」と聞き返されるシーンで、ハッとした(ウイカ)
――今回が本格的な共演となりますが、実際に一緒に作品をつくってみて、新たに発見したお互いの魅力やサプライズを教えてください。
綾瀬はるか(以下・綾瀬) テレビだとハキハキされていますけど、実際に会うと、すごく気遣い屋さんなんです。あと、台本にたくさん付箋を貼っていらして。すごく真面目な方なんだなと思いました。
ファーストサマーウイカ(以下・ウイカ) 嬉しい! そんなところまで見てくださっていたなんて。一本の映画で、こんなにたくさんセリフをいただいたことがなかったので、綾瀬さんにはもちろん、みなさんに迷惑をかけられないぞと思って、怖くてべたべたと貼っていました(笑)。
綾瀬さんには、皆さんが持っているのと同じような天真爛漫なイメージがあったんです。ふわっとしていて、周りのこともあまり気にされないような方なのかなって(笑)。でも実際にご一緒してみたら、誰も気づかないようなことを指摘されたり、すごく鋭いんですよ。普段の綾瀬さんもそうなのか、弁護士という役がそうさせているのか、最初はわからなかったんです。ちゃんと見るべきところを見ていて、指摘するところはきちんとしている。すごく頼りになる方なんだなと思って。恵が朝日先生を頼りにしていたように、私自身も綾瀬さんには「姉(ねえ)さん、ついていきます!」という感じになりました。綾瀬さんに「姉さん」というイメージはあまりないと思うんですけど、私にとっては今回、「姉さん」と、頼れる存在でした。

――本作では、女性が「こうあるべき」とされてきた価値観が描かれています。この作品を通して、女性が自分らしく生きることについて、改めて考えたことはありましたか?
綾瀬 バブルの時代の人たちはすごく華やかで、髪も服もパワーがあって、すべてがボリューミーで、自分らしく生きているように見えるんですよね。でも、実際には女性にとっての生きづらさみたいなものがたくさんあって。自分らしく生きているように見えて、実はそれがものすごく難しかったのかもしれないなと思ったりしました。派手バブ(派手でバブリーな人)の方はどう?
ウイカ 派手バブは自分の好きなファッションをやっているように見えるけど、もしかしたら弱さを守るための武装みたいなところがあったのかなって。劇中で恵が朝日先生に、「先生は、女の幸せを諦めなかったんですか?」というような質問をしたら、「女の幸せって何?」と聞き返されるシーンで、ハッとするんです。
いまはそういう風潮も少しずつ変わってきたとは思うんですけど、まだどこかに植え付けられているもの、「こうすべきだ」とか「こうあるべきだ」という価値観に、知らないうちにとらわれている部分があるんだなと。そういうことに気づかされた瞬間でした。
――綾瀬さんはウイカさんのメイクや派手な衣装を、日々羨望の眼差しで見ていたと聞きました。上原恵という人物を、どう捉えて作っていったのでしょうか?
ウイカ ファッション的には、当時の資料などを見ると、「本当にこれでオフィスに行ってたんだ」って、最初はギョッとしたんです。でも、その「ギョッとする」という感情自体が果たして正しいのかなって、自問自答するときもありました。職場のみんながカラフルな格好をしているって、いいですよね。今の時代には削がれてしまったものなのかなとか、私自身も知らないうちに押さえつけているものがあるのかなと思ったりして。
実際に着てみると、シンプルにバブルファッションはミニスカートだし寒い(笑)。でも、そんなふうに我慢したり、耐えたりしながらでも、自分を表現したいという気持ちはあったんじゃないかなと思うんです。そこは恵とも共通している気がして。耐えつつも戦う、みたいな。ただ、作風はやっぱりリーガルエンターテインメントで、ポップなシーンもたくさんあるんですけど、恵自身は人生がかかっていて、立ち行かない状況にある。そこは決してエンターテインメントではないので、そのバランスを取るところはすごく大変でした。
――綾瀬さんは、朝日先生を演じる上で大切にされたことは?
綾瀬 朝日先生は、基本的にいつもたおやかで、損得や自分の利益というよりも、目の前の人に寄り添って、その人を見捨てない。裁判を終えるまでの長い期間、あの戦いを粘り強く共にして、どんなときも寄り添う。その姿勢が本当に素敵だと思って。あと、ユーモアというか、ちょっと抜けてるところがあるから、堅くなりすぎない。なので、どんなときも朗らかな、チャーミングさみたいなものは大事にしたいなと思っていました。
外側だけでなく、内側まで変化を届けたい(ウイカ)
――おふたりは、いまの社会を生きるなかで女性の視点から「これは変わったな」と思うところはありますか?
ウイカ 撮影現場を職場として考えると、女性がめっちゃ増えたんじゃないですか? 私はコロナの頃からしかこの業界に入っていないので、女性率が低いというイメージはないですけど。昔は全然そんなことなかったんですよね?
綾瀬 映画やドラマの現場は男性が9割ぐらいでしたけど、女性誌はやっぱり女性が多かったので、「そりゃそうか」と思って。職場によって全然違うんだなと思ったんですけど、いまは音声さんや照明さんといった体力をかなり使うお仕事にも女性が増えたよね? カメラマンさんのアシスタントさんとかも、女性の方が多い現場が増えている。
ウイカ ありますよね。ドラマとかだと、本当に女性が多いなと思います。
綾瀬 一度、助監督が全員女性だったときがあって。「こんなことがあるんだ!?」って驚きました。
ウイカ 私も最初はこの世界は男性社会のイメージを持っていたんですけど、実際に現場に入ったら、「あれ、女性が結構たくさんいらっしゃるんだ」と思って。私生活と仕事がうまくバランスが取れるような仕組みになってきたから、増えてきたんだろうなと思ったりもします。働き方というか、ライフワークバランスが取れるようになってきた。そこはすごくいい変化だなと思う。進んでいるんだなと思いました。
――では、もう少し変わったらいいなと思うことは?
綾瀬 とはいえ、ものすごくハードな現場というのがあるので、朝までは嫌だなと思ったりはします(笑)。
ウイカ そうですよね。女性が増えましたが、彼女たちがちゃんといろんなことを伝えられているのかなとか、まだ分からないです。例えば女性って、毎月大変な時期もあるじゃないですか。そういうこととかね。
――生理など、女性特有の体調の変化や不調についても、まだ言い出しにくい部分がありますよね。一方で、男女平等を望むのであれば、そういうときだけ女性の弱さを持ち出すな、といった意見も出てくるわけですし。難しいところはありますよね。
ウイカ そうなんですよね。もちろん、老若男女体調不良はある。でも、その女性にしかない、絶対に逃れられない不調のときに、職場に気持ちが分かる人がいなかったら、相談もしづらいかもしれないから。いま、外側はなんとなく整っているように見えているけど、果たして内側はどうなっているのか、という。その内側まで届くといいなと思います。
実は料亭でアルバイトをしたことがある(綾瀬)
――おふたりはキャリアや人生について、あらかじめプランを立てたり、先のことをイメージして行動するタイプですか?
綾瀬 私はもともとなかったんです。だから、目の前にあることに全力で突っ走ってやっていくという感じだったんですけど、30代後半ぐらいから、自分が本当に心からやりたいことだったり、お仕事じゃない時間をもう少し大切にしたいな、と思うようになっています。
ウイカ 今年37歳になるんですけど、綾瀬さんはそのくらいの時期から、プライベートで始めたことはありますか? いまから何かを始めようと思っても、きっかけがないとなかなかできなかったりすると思うんですけど。
綾瀬 こっそり、料亭でバイトというか、修行をしたことがあるかな。
ウイカ えー? バイトを? 和食? そこで何をされたんですか?

綾瀬 裏方だったんだけど、ペーペーすぎて、そこまでやらせてもらえないから、きゅうりの板ずりをしたり、料理長たちがやるのを見て学ぶという。
ウイカ きゅうりだけ?
綾瀬 きゅうりだけって(笑)。千切りもやらせてもらったし、ごぼうをすごくきれいに長方形に切るのもやらせてもらった。最終的に、小鉢の花椒とジャコの炒め物までは行ったんだけど、それは特別進級っていう形でした。本当の料理人の方たちは、3年、5年とかけてやらせてもらうレベルだから。
成長を感じた映画、この先も続けていきたい(ウイカ)
――ウイカさんは、仕事では芝居だけでなく音楽など、さまざまなことに挑戦されていますよね。
ウイカ 仕事ではいろいろやっているんですけど、「じゃあ、プライベートで何がやりたい?」と問われると、わからないんです。仕事があるから、それに付随して「やらなきゃ」と「やりたい」が合致することはあっても、プライベートでやりたいことは、そんなにないのかもしれません……。でも、この映画に参加してみて、映画は、観る側にとっても人生に大きく影響するものなんだなと思ったんです。ドラマももちろん素敵ですが、映画でしかない成長みたいなものを感じたので、映画はできる限り続けたいなと思います。お話をいただけるように頑張らないと。
綾瀬 私は、金継ぎをやりたいの。お皿が大好きなんですけど、この間もお皿を割ってしまって、集めてきたお皿の中で壊れているものたちを直してあげたいです。金継ぎセットが売っているので家でもできるんですけど、教室に行きたいなと思っています。
ウイカ 無心になれて良さそうですね。
――俳優さんは例えば「編み物をすると無心になれるから台詞覚えがよい」などとよくおっしゃいますが、実際どうなんでしょう?
綾瀬 何かを同時進行すると、すごく脳に定着するみたいで、走りながらとか、歩きながらとか、何かしながらやるといいって言うよね?
ウイカ そうなんですよね。綾瀬さんは歩きながら?
綾瀬 うん、歩きながら覚えたりする。ウイカさんは何派?
ウイカ 私も歩きながらもありますけど、全然覚えられない。根性で覚える1000本ノック派です(笑)。でも、金継ぎみたいな無心になれるもの、いいですよね。
綾瀬 お料理上手だし、お料理だって無心になれるんじゃない?
ウイカ それが、料理をするときもラジオを聴いたりしちゃって、何かを入れちゃうんですよね。もし、綾瀬さんが金継ぎをされたら、私は割れたお皿を持ってお邪魔させていただきます(笑)。
Haruka Ayase
1985年、広島県出身。2000年にデビュー。以来、映画やテレビドラマなど幅広く活躍する。おもな出演映画には『レジェンド&バタフライ』(23年)、『リボルバー・リリー』(23年)、『ルート29』(24年)、『人はなぜラブレターを書くのか』(26年)、『箱の中の羊』(26年)。テレビドラマにはNHK大河ドラマ「八重の桜」(13年)、「義母と娘のブルース」(18年〜)、「天国の地獄〜サイコな2人〜」(21年)、「元彼の遺言状」(22年)、「ひとりでしにたい」(25年)ほか。
First Summer Uika
1990年、大阪府出身。2013年にアイドルグループBiSに加入。解散後より、俳優・タレント・歌手として、多岐にわたって活動中。俳優としては、NHK大河ドラマ「光る君へ」(24年)、「時すでにおスシ!?」(26年)など。おもな出演映画は、『花まんま』(25年)、『バナ穴BANA_ANA』(26年)、『シャドウワーク』(26年)など。
『ファーストボイス』
●全国公開中
●出演:綾瀬はるか、ファーストサマーウイカ、松本穂香、木村多江 筒井道隆
●監督・脚本:前田 哲
●配給:松竹/ワーナー・ブラザース映画
https://movies.shochiku.co.j
Recommend
- photography: Daehyun Im
- styling: Saki Nakazawa (Ayase), Iyo Kondo(First Summer Uika)
- hair: ASASHI (ota office, Ayase)
- makeup: Asami Taguchi (First Summer Uika)
- Hair & Makeup: Eriko Yamamoto (Ayase)
- text: Rieko Shibazaki