女優ミシェル・ヨー、クリスマス映画で新境地を開拓。
インタビュー
『007トゥモロー・ネバー・ダイ』(1997年)、『SAYURI』(2005年)など、ハリウッド映画で最も活躍しているアジア人女優のひとり、ミシェル・ヨー。18年には『クレイジー・リッチ!』の大ヒットにより、ますます存在感を高めている名女優の最新作は、クリスマスシーズンの定番ソングでもあるワム!の名曲「ラスト・クリスマス」をモチーフにしたロマンティック・コメデイ『ラスト・クリスマス』だ。エミリア・クラーク、ヘンリー・ゴールディングと共演するこの作品で、初めてコミカルな役に挑戦したという胸の内を聞いた。
19年10月、AMCリンカーン・スクエア・センターでの『ラスト・クリスマス』ニューヨーク・プレミアにて。
――『ラスト・クリスマス』では、エミリア・クラーク演じるヒロインが勤めるロンドンのクリスマスショップのオーナー“サンタ”を演じていますね。この作品に出演したきっかけは何ですか?
監督のポール・フェイグに出会ったことです。『クレイジー・リッチ!』で私の息子を演じたヘンリー(・ゴールディング)が、ポールが私のファンだと言っていたということで、私に紹介してくれたんです。彼らが『シンプル・フェイバー』(18年)を撮影していたトロントで一緒にディナーに出かけました。そして、何か一緒にやれるといいね、という話になったんです。
彼はコメディ監督として一流だから、何か新しいことができるんじゃないかなと思いました。私はこれまでシリアスな役しか演じてこなかったから、ファニーな役を演じられるといいなと思って。『クレイジー・リッチ!』はコメディだけど、私の役はシリアスでしたしね。それで“サンタ”を演じることになったんです。
――確かにあなたにしては珍しくコミカルな役ですね。
脚本は、エマ・トンプソンが書いたのです。彼女は私が最も尊敬する女優のひとりなので、今回は一緒に仕事ができてとても光栄でした。これは愛についての物語で、壊れた家族、赦しといった内容も含んでいて、とても美しい。“サンタ”は、実はエマの身近な人(中国系の義理の娘)にインスパイアされて描かれたキャラクターだったんです。彼女にとって特別だとわかっていたので、とてもプレッシャーを感じましたね。でもポールに、私ならこの役を演じきれると説得されたんです。
“サンタ”というキャラクターは、シニカルなところもありますが、クリスマスのギフトや飾りによって、人々に何かを分け与えようとしているところが好きです。それに彼女は移民で、ファッションも独特のスタイルを持っているんです。イギリスに長く住んでいるパリジェンヌと同じようにね。
主人公ケイト(エミリア・クラーク)が働くクリスマスショップのオーナー、“サンタ”を演じるミシェル・ヨー。
――実際にコミカルな役を演じてみた感想は?
コメディはすべてのジャンルの中でいちばん難しいとずっと思っていました。セリフを言うタイミングも難しい。これまでセリフでジョークを言ったことなんてありませんでしたしね。おもしろく言えるかどうか心配でした。
だから挑戦でしたが、演じたことのない役を演じてみたいものなんです。刑事役で成功すると刑事の役ばかりくるようになったりするものです。だから、この役はとても新鮮で、楽しかったです。
――クリスマスには特別なものを感じますか?
クリスマスは大好きです。クリスマスシーズンは、私にとっていちばん好きな季節です。若い頃、ロンドンに留学していたんですが、クリスマス休暇にもそんなに帰国できないから、ロンドンで過ごしました。ロンドンのクリスマスって最高なんですよ。今回は、コヴェントガーデンやリージェント・ストリートなど、クリスマスシーズンのロンドンのなかでも最も美しい場所でロケできたのもうれしかったですね。
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常に東洋と西洋の間で葛藤している。
ケイト(エミリア・クラーク)の前に突然現れた青年トム(ヘンリー・ゴールディング)。次第にケイトは彼に惹かれはじめるが、トムにはある秘密があった……。
――エミリアとヘンリーとの共演はどうでしたか? ヘンリーとは『クレイジー・リッチ!』でも親子役で共演していますが。
ふたりとの共演は、とても新鮮でした。ヘンリーとは、すでに親しかったのでまた会えたのがうれしかったです。エミリアはビックスターです。ビッグ以上ですね! 「ゲーム・オブ・スローンズ」のようなTVドラマは、いまや映画以上に影響力があります。実際、TVドラマはクオリティもストーリーテリングも映画に勝るとも劣りませんからね。エミリアはその中で、かつてないほどアイコニックなキャラクターを演じました。
彼女はチャーミングで、特に歌声が本当に素晴らしかったですね。映画の興味深いところは、ヘンリーやエミリアなど、いろいろな人が一緒に働き、それぞれの要素が集まることによって出来上がっていくところなんです。それが映画のマジックだし、私がずっと映画業界で働いている理由でもあります。
ニューヨーク・プレミアにて。左から、エマ・トンプソン、ミシェル・ヨー、エミリア・クラーク、ヘンリー・ゴールディング、ポール・フェイグ監督。
――ヘンリーもエミリアとともに主役を演じていますが、『クレイジー・リッチ!』の成功で、アジア人俳優により多くのチャンスが回ってくるようになったと思いますか。
アジア人にとってチャンスが広がったかといえば、そう思います。以前だったら、ヘンリーにこの役は来なかったかもしれません。しかしながら、私たちは長い時間をかけてここまで来たともいえますね。もっとも俳優だけじゃなくて、アジア人には(『クレイジー・リッチ!』の)ジョン・M・チュウ監督をはじめ、スタッフにも素晴らしい才能がたくさんいます。
私たちは、常に東洋と西洋の間で葛藤しているんです。『クレイジー・リッチ!』は、両サイドの文化がわかる脚本家をふたり起用していました。それでも撮影現場では、装飾からしきたりまで、たびたび議論があったくらい。
私は、幸運なことに長いキャリアの中でチャンスに恵まれてきたと思います。家族の理解と支えもありましたし、ゆっくりキャリアを築いてこられたんです。正直、『007 トゥモロー・ネバー・ダイ』に出演した時も、いわゆる“ボンドガール”を演じたいとは思いませんでした。注意深く出演作を選んでいます。監督がどんなビジョンを持っているのか、どんなストーリーを語りたいのか、それが何よりも重要ですね。
●監督/ポール・フェイグ
●出演/エミリア・クラーク、ヘンリー・ゴールディング、ミシェル・ヨー、エマ・トンプソン
●2019年、イギリス映画
●103分
●配給/パルコ、ユニバーサル映画
12月6日(金)より、TOHOシネマズ シャンテほか全国にて公開
https://lastchristmas-movie.jp
© Universal Pictures
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interview et texte : ATSUKO TATSUTA