グザヴィエ・ドランの青春映画『マティアス&マキシム』。
インタビュー
19歳の時、自身が高校時代に書いた小説を基にした『マイ・マザー』(2009年)で監督デビューしてから10年。常に国際的な脚光を浴び、映画祭の最高峰カンヌ国際映画祭でも審査員賞、グランプリ受賞など賞を総なめにしている若き天才グザヴィエ・ドラン。そんな彼の長編8作目となるが『マティアス&マキシム』。30歳を目前に撮った青春映画に込められた思いとは。
主人公のひとりマキシム役を自ら演じたグザヴィエ・ドラン(左)。
これは20代の僕が感じていたこと。
――ハリウッドスターを起用した初の英語映画となった『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』(18年)を経て、ホームグランドで撮った『マティアス&マキシム』は、ほとんど地元の俳優をキャスティングされていますね。
みんな“戻ってきた”と言うけれど、何かの反動でこの作品を撮ったわけではないんだ。単に、この物語を伝えたかった。脚本は17年に書き始めていたしね。『マティアス&マキシム』は、何かと折り合いをつけるための作品ではないよ。友人たちと一緒に映画を撮りたかったんだ。守られていると感じたかったというのはあると思うけれど。自分の中で明らかに欠けていたコミュニティの感覚も取り戻したかった。
――なぜいま、“仲間たち”が登場する青春映画を撮ろうと思ったのでしょう。
僕の20代を知っている人は、僕がいろいろなことをやりすぎていると思っていたかもしれない。作っていた映画はうるさくて派手で緊張感にあふれ、いつでも叫んでいるような。それで、僕はより落ち着いた穏やかなものを作ろうと決めたんだけど、優しい映画だけでは物足りなくもあるんだよね。でも少なくとも、これが僕の感じたこと。20代の前半にはものすごい孤独を感じていたんだ。孤独は、僕の人生に大きな意味を与えてくれた。20代後半に出会った友人たちは、僕が違う側面や不安を持っていることを教えてくれたんだ。
マキシムとマティアスの気のおけない仲間たちの役を、実際にドランの友人が演じている。
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アザは自分自身の心の中にある。
――前作では監督に専念していましたが、本作では主人公のマキシム(マックス)を演じていますね。
当初は自分で演じることは想定していなかったけど、周囲からも言われて演じることにしたんだ。30代はもっと俳優としての仕事をやりたいと思っているんだ。俳優の仕事はより自由が感じられる。
――マキシムの顔にアザがある設定にしたのはなぜですか?
アザがある人は、なにか重い荷物を背負っているようなものなのじゃないかと、彼らの立場に立って考えてみたんだ。絶えず注目を浴びて生きていかなければならない。それは、僕にも起こったことだ。僕はこの10年間、多くの人の視線にさらされて生きてきたから。マックスは顔にアザがあるけれど、仲間たちはそれを忘れさせてくれる存在だ。心地よく、愛されていると感じる。ただ、一度だけ強調されるシーンがあるのだけれど……。アザは僕の心の中にあるような気がする。出血しているアザ、傷のようなものだ。僕の心の不安や恐怖のようなもので、仲間たちといる時だけ忘れられるんだ。
ドランが語る、アザが“一度だけ強調されるシーン”とは……。
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――友人の妹の短編映画の撮影で、マティアス(ガブリエル・ダルメイダ・フレイタス)とマキシムは、演技でキスをするわけですが、その瞬間はほとんど映されませんね。
マティアスは、いい仕事をして婚約者もいる、すべてを持ってるような男で、自分の人生をコントロールすることを知っているんだ。でも自分とは違うセクシュアリティを持っている友人マキシムが旅に出ることになって動揺する。キスシーンを途中でカットしたのは、緊張感を与えて、この膨れ上がってくる欲望を構築するためだよ。
仲間とのパーティでの罰ゲームとして、マティアスとマキシムは友人の妹が撮る短編映画でキスシーンを演じることに。
――セリフの多い仲間たちが集うシーンがたくさんありますが、どのように撮影したのですか?
僕は即興を重んじるほうじゃなんだ。リハーサルを重ねるし、セリフもきちんと書き込みたいから、何度も何度も、脚本は書き直したよ。アドリブでのセリフはリアルだと思うかもしれないけれど、おもしろみに欠けると思うんだ。
仲間同士でテンポよく軽快に交わされる言葉のひとつひとつにも、ドランの思いが詰まっている。
カナダのモントリオール生まれ。4歳より子役として活動をスタート。数々の映画やテレビドラマ、CMに出演した後、19歳の時に初監督および脚本・製作・主演を務めた『マイ・マザー』(2009年)が第62回カンヌ国際映画祭の監督週間で上映されて大きな話題に。続く『胸騒ぎの恋人』(10年)、『わたしはロランス』(12年)もカンヌ国際映画祭で上映、高い評価を得る。16年、『たかが世界の終わり』で第69回カンヌ国際映画祭グランプリを受賞。18年には初の英語作品『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』を監督した。
●監督・脚本・編集・衣装・共同製作・出演/グザヴィエ・ドラン
●出演/ガブリエル・ダルメイダ・フレイタス、ピア=リュック・ファンク、サミュエル・ゴティエ、アンヌ・ドルヴァル、ミシュリーヌ・バーナード、キャサリン・ブルネット、マリリン・カストンゲイほか
●2019年、カナダ映画
●120分
●配給/ファントム・フィルム
●9月25日(金)より、新宿ピカデリーほか全国にて公開
https://phantom-film.com/m-m
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interview et texte : ATSUKO TATSUTA