Music Sketch

おおはた雄一 『ストレンジ・フルーツ』を語る ①

Music Sketch

以前にもご紹介したことのある、シンガー・ソングライターのおおはた雄一。コンサートホールやライヴハウス、カフェなど、ギター1本抱えて全国各地へ歌いに行く一方、坂本美雨やドラマー/パーカッショニストの芳垣安洋をはじめとする多数のコラボレーションを展開。また、ハナレグミや持田香織、YO-KING(真心ブラザース)のライヴにギタリストとして参加し、アルバムもソロ作品に加えて、スーパーマリオブラザースといった懐かしいゲームミュージックをカヴァーしたアルバム『トロピカル・コンピューター』を発表、他にも映画音楽やCMを手掛けるなど、フットワーク良く多岐にわたって活躍しているミュージシャンである。

約2年半ぶりとなるアルバム『ストレンジ・フルーツ』は、自身が所属するマネジメントからのリリースとあって、〆切や内容などに縛られることなく制作された作品だ。小淵沢にあるログハウスを改造したスタジオに気心の知れた芳垣安洋や伊賀航(ベース)と籠って、1週間でレコーディングしたという。ログハウスに入る前から3人でライヴ演奏していた曲が多く、そのせいか3人で1発レコーディングした楽曲がほとんど。どれも自由度が高く、じつに伸び伸びとしている。これまでの作品の中で、最もおおはた雄一の人間性に触れることのできる温かみやユーモアに溢れた、じっくり聴き込める内容になっている。

R0010848.JPGいつも穏やかで朴訥な雰囲気のあるおおはた雄一さん。ギターを弾き始めた頃はパンク・バンドをやっていたそう。

----今回この3人で山小屋に籠ってアルバムを制作しようと思った経緯を教えて下さい。

「今までNYに行ってジェシー・ハリス(ノラ・ジョーンズの作品で有名)やリチャード・ジュリアン(ノラ・ジョーンズと"リトル・ウィリーズ"を結成)といったプロデューサーときっちり作ってきて、わりかし完成度の高いものだったと思うんですよ。今回また1人でセルフプロデュースをやらせていただいて、ライヴに来た人が聴いてもそんなにライヴと違わないものにしたかったんですよね。メンバーも最小限で削ぎ落したものをやりたいと思ったし、"やりたいことを全部やれ!"っていうのもありました。レコードっていう中で自由に振る舞いたいなというか、レコーディングだから畏まるのではなくて、あのままの空気をぶち込められないかな、と」

----最初に完成して、「これで行けるな!」と思った核となる曲はどれでしょう?

「『Prayer』という曲がまず最初にできて、それから始まった感じです。全部が東日本大震災の後にできた曲だから、その影響がないわけがないというか、それが結構大きかったんですね」

----意識して歌おうとは思わなかったけれど、言葉に出てしまった、という?

「そうですね、『余白の余韻』もそれがなかったらできなかったでしょうし、『ストレンジ・フルーツ』もそうですよね。ビリー・ホリディの(同名の)有名な曲がありますよね(筆者注:人種差別を告発する歌として知られる)。僕の歌は、福島に行ったミュージシャンから"出荷できないのに、すごくうまそうな果物がいっぱい生っていた"とう話を聞いて、そこからの着想で始まった歌なんです。原発がテーマになっていて、そういう意味でいうと、作る歌の内容がちょっと変わってきたような気もしますね」

stt_400.jpg最新作『ストレンジ・フルーツ』。じっくり聴かせる歌から、詩篇のような曲、ウィットに富んだ歌、インストなど、1枚で何通りにも聴き味わえる秀作。

----『ストレンジ・フルーツ』をアルバムタイトルに持ってきたのは? 核としては『Prayer』でも、重きを置くのはこの曲という?

「最初から自分の中で決まっていたんですよね。曲ができて、いろいろ作っている段階で。アルバムジャケットのデザインもsunuiの人たちに、アルバムをラフの段階で聴いてもらって、出した注文は歌詞カードの文字を大きくしてほしいというだけで。言葉がドーン!と来るような中身にしてほしいという形にしました。ストレンジ・フルーツの意味に関しては話していない。人によって感じ方はそれぞれだと思うから、恋の歌だと思う人もいると思うし、捉え方は人それぞれでいいんですよ」

----歌について話していくと、NYの美術館でモネの絵を観たときの気持ちを歌った「余白の余韻」にしても、「すごい人たち」にしても、歌詞というより、呟きというか、詩のようにさらりとしていますよね。以前だったら歌詞の2番や3番もきっちり作っていたと思いますが、『余白の余韻』は会話が瞬時に曲になってしまうような、即興性が強い気がしました。

「本当に、曲を作るのに全然時間がかかっていないです(笑)」

----一方、「我們是朋友(ウォーメンスーポンヨウ)」や「親指ボムの最後の夢」は、そのまま短編小説になりそうな世界観がありますね。

「嬉しいですね。『我們是朋友(ウォーメンスーポンヨウ)』は昔習った中国語で、行ったことはないけどイメージみたいな、ウソっぽい中国ってあるじゃないですか。僕はまだ中国に行ったことがないので、自分の中の中国みたいなものと、あと子供の頃に住んでいたところの川向いに色街があって、夜になるとネオンがもの凄く派手で、それが全部川に映っててとても綺麗だったんですね。その景色が凄い好きで、そんなようなイメージで、中国の川の船上で阿片じゃないけど煙草を吸っている様な、妄想で作った歌です。子供の頃の思い出が風景としてありますね」

----「親指ボムの最後の夢」は?

「これは、今年1月に突然自分の手帳に書いてあったんですよ。"親指爆弾"ということなんですけど、この言葉とは別にその昔に元ネタになるような人もいたりで、そういう面白い歌を作ってもいいかなぁと思って」

----1人で多重録音しているインストゥメンタル「怖がらずに飛べ」も含めて、いろんなタイプの作品がある中で、おおはたさんは"歌を作ること、歌うこと"については、今どのように捉えているのですか?

「今は、『余白の余韻』みたいなものが一番自分に近いですね。ぱっと呟きを歌うような。壮大ではないんですけど、思ったことを歌いたいなぁと。その中でいいことを言わなくてもいいんだって、思いましたね。何でも歌になるなぁと思うし、その中で、"あれいいね"って言ってくれるものもあれば、消えていくものもあると思うし」

----ちょっとしたキーワードが入っただけで、曲の世界観を創り出しやすくなったのかもしれないですね。世界観の作り方の引き出しがとても増えた気がしました。

「それは嬉しいですね。自分でも面白いなと思って歌っているんです。"意味わかんねえな"っていう歌詞もあるんですけど、でもそれを自分で楽しんでいる時もあるし、『やっかいぶし』みたいに自分にとってはストレートな歌詞もある。サウンドはシンプルですけど、確かに歌詞の幅は広がっていってる気がしますね」

次はサウンド面や曲作り全般についてのお話。

*To Be Continued

伊藤なつみ

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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