Music Sketch

映画『かいじゅうたちのいるところ』&サントラ

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話題作が続々と公開されていますが、注目の作品の1つが今日から公開されているスパイク・ジョーンズ監督『かいじゅうたちのいるところ』。現在、ミシェル・ゴンドリーを筆頭に、最近だったらマーク・ウェブ(『(500)日のサマー』)ようにミュージック・ヴィデオ出身の映画監督が活躍していますが、スパイク・ジョーンズもビースティー・ボーイズやケミカル・ブラザースなどのヴィデオで一世を風靡した人物。映画界でも既にチャーリー・カウフマンとのコンビとして有名で、チャーリー・カウフマン脚本作品による『マルコヴィッチの穴』(1999年)と『アダプテーション』(2002年)で監督を担当しています。

FIGARO062A.jpg主人公マックスとかいじゅうがふれあう、実写がとにかく素晴らしい。

以前にもこの作品について書いたことがありますが(→こちら)、これはモーリス・センダックによる名作の絵本『かいじゅうたちのいるところ(Where The Wild Things Are)』を原作とした作品。かねてからこの作品の大ファンだったスパイクは、新しいスタッフが加わった時など、ポイントごとにモーリスに電話をして助言を貰っていたそうです。なかでも「自分の年代の時に自分のヴァージョンとしてこの絵本を書いたので、今度のこの映画は君のヴァージョンとして作ってほしい」と言われたのが一番嬉しかったそう。

ito222.jpg「絵本のマックスはモーリス・センダックのマックス、映画のマックスはスパイク・ジョーンズのマックスで、小説のマックスは、モーリスのマックスとスパイクのマックスと、僕の少年時代のマックスを組み合わせたものになった」と、そして今回脚本家として参加したデイヴ・エガーズは著書に記しています。

スパイク・ジョーンズの大ファンである私は、昨年12月14日にリッツ・カールトン・ホテルで記者会見に行ってきました。主演のマックス・レコーズは、欧米で1000人ほどから行なったオーディションして選ばれた新人。選ばれた理由として、「内的で非常に繊細な部分からワイルドな部分まで幅広い演技が要求されるなかで、彼はリアルな表情を出せるので、彼がいなかったら、この映画はできなかったと思う。しかもおまけにボーナスとして、彼は役柄と同じマックスという名前だったことに感謝しているよ」と、スパイクは説明していました。

FIGARO062D.JPG記者会見の様子。右からスパイク・ジョーンズ監督、主演のマックス・レコーズ、プロデューサーのビンセント・ランディ。

主演のマックス・レコードは現在は12歳ですが、撮影時は9歳だったそう。話題のオオカミの着ぐるみは場面ごとに合わせて56着も(!)用意して着用したとのこと。一番大変だったのは、やはり"かいじゅう"をCGを使わずに実際にマックスとどう演技させていくかについてで、頭を悩ませ、実現化まで相当時間が掛かってしまったそうです。

FIGARO062E.jpg衣装の可愛らしさも目を惹きます。

カレンO(Yeah Yeah Yeahsのヴォーカル)が担当した音楽も素晴らしかったので、私はスパイク・ジョーンズに何故カレンを起用したのか訊いてみました。
「カレンを起用した理由は、彼女がこれまで映画のための音楽を書いたことがないからなんだ。カレンが書く音楽というのは彼女の心の中から出るものであり、彼女が感じているものを歌にすることにも非常に長けている。僕はこういう種類の映画を初めてやったし、共同で書いた脚本家のデイヴも初めて映画の脚本を書いたし、マックスも初めての映画出演だし、初挑戦という精神のものとして、みんなで一緒に幼少時代を描いていこうと思ったんだ。音楽に、この映画同様に純粋な子供時代の何かナイーブな部分や遊び心、それと同時に感情の奥行き部分がほしかったのだけど、カレンはそういうエモーショナルな部分を音楽に表わすのが上手だった。とにかくこの映画でみんなが9歳の頃を思い出すような作品にしたかったんだよね」

FIGARO062F.jpgかいじゅうの表情も豊かで、自然と感情移入してしまうほど。

レコード会社から入手したカレンOのインタヴューによると、カレンはこのサウンドトラック制作について以下のように語っています。
「今回の曲作りのアイディアは、単に子供向け用のコマーシャル的なものではなく、私自身の中にある子供心のスピリッツを呼び起こして、それを子供たちの求めている目線と合うようにしながらも、みんなが楽しめるように表現したの」

FIGARO062G.jpg 全体の映像も風景も美しく、実際にその場に行ってみたくなるほど魅せられます。

「映画の登場人物や、主人公の少年が、一人さみしく暗い部屋の中に閉じこもるシーンから、私自身も同じ状況を想像しながら、目を閉じて、鼻歌を歌ってみたの。小さな子供が口ずさんでいるようにね。それを録音して曲作りに生かしたわ」

「いつもとは違う作業だったけど、本来の自分の声から切り離してやってみた。子供の無邪気さを出せるように 自分も楽しみながらやってみたの。子供の気持ちで歌ってみれば 上手く表現できると思って。子供心はとても特別なものだから」

「基本のメロディの上に、それぞれが想う違ったイメージのメロディを重ねては繰り返し、いくつかの音の断片がぶつかり合って、偶然にも上手く組み合わさって、最終的に予想もしなかった素晴らしいものが生まれるの。小さい頃、この絵本の大ファンだったから、本を参考にして詩を書いたわ」

そして驚くようなエピソードも!
「実際に私の子供時代を振り返ると、信じてくれるかどうか分からないけど、この絵本を見ながらピアノで遊びながら 曲や詩を作っていた記憶があるの」

FIGARO062H.jpg音楽も本当に素晴らしい出来です! サウンドトラックは現在発売中。

スパイク自身、カレンOが作り終えた曲を聴いたときは、一瞬にして、これは映画の大事な一部になったと実感したそう。サントラに参加しているのは、ジャック・ローレンス(The Greenhornes, The Raconteurs, The Dead Weather)、ディーン・ファティータ(The Dead Weather, Queens of the Stone Age, The Raconteurs)、イマッド・ワシフ(New Folk Implosion, Alaska)、グレッグ・カースティン(The Bird and the Bee)、ニック&ブライアン(Yeah Yeah Yeahs)、ブラッドフォード・コックス(Deerhunter)......といった、のカレンOの友人たち。

FIGARO062I.jpgNY出身のYeah Yeah Yeahs。カレンO(写真中央)はファッション・アイコンとしても人気。

余談ながらカレンは、フレイミング・リップスの最新作『エンブリオニック』のレコーディングに滞在中のホテルの部屋から参加していて、電話越しに動物の声を本能的に出し、そこから「アイ・キャン・ビー・ア・フロッグ」という曲が完成したそう。おそらく『かいじゅうたちのいるところ』のサントラ制作の方が先に終了していたと思うので、カレンの内側から野生味(本能?)がさらに増していたところだったのかもしれません。


『かいじゅうたちのいるところ』はストーリーはもちろん、マックスやかいじゅうの素晴らしい演技、風景、衣装、音楽......、すべてが魅力的に合わさっている映画作品です。観た人それぞれが自分の子供時代の体験や記憶と重ね合わせながらユニークな感覚を受け取れると思うので、是非ご覧になってください。

グッドタイミングでYeah Yeah Yeahsのライヴが明日東京で行なわれるので、私はそちらも観に行ってきます。


『かいじゅうたちのいるところ』
2010年1月15日(金)丸の内ルーブル他全国ロードショー [吹き替え版同時公開]
公式サイト:http://www.kaiju.jp
ワーナー・ブラザース映画配給
(C) 2009 Warner Bros. Entertainment Inc.


*to be continued

伊藤なつみ

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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