安藤サクラとシャネル、湛える。
Fashion 2025.05.20
中国の杭州、西湖で発表された2024-25年メティエダールコレクション。マドモアゼル シャネルが所有し、現在もパリのアパルトマンに飾られているコロマンデル屏風を着想源にした幻想的でポエティックなコレクションを、女優の安藤サクラが纏う。
光を反射するシークインが織り込まれたツイードのロングコートのラペルには、花を模ったガラスビーズの刺繍と、スパンコール、ガラスクリスタル、ストーンで刺繍された2頭の鹿が施されている。アトリエ モンテックスによる緻密な手刺繍で、東洋の美しい情景が物語のように綴られている。 ロングコート¥3,682,800、コートの中に着たミニドレス¥694,100、ロングブーツ¥1,321,100(すべて予定価格)/以上シャネル(シャネル カスタマーケア)
ウールをクロッシェ編みで仕立てた軽やかなニットドレスは、袖口にゴールドの装飾が施され、まるで蓮の花が咲くかのように艶やかに広がる。重ね着けしたコスチュームジュエリーで、蓮の連鎖を描いて。ニットドレス¥809,600、ネックレス上から¥242,000、¥206,800、同じアイテムを重ねて着けた2連ネックレス各¥416,900(すべて予定価格)/以上シャネル(シャネル カスタマーケア)
マンチェスター、マルセイユ、そして杭州。女優の安藤サクラは、世界各地で開かれたシャネルのショーを訪れ、その美しく、力強くも繊細な手仕事で紡がれるメゾンの世界観に触れてきた。今回の撮影で纏った2024-25年メティエダール コレクションのショーについて、こう振り返る。
「杭州の街を抜け、船に乗って西湖を渡りショーの会場に向かうのですが、なんだか違う次元に旅立つような感覚だったことを覚えています。その時に見た太陽がとにかく赤くて。まるで昔の中国の絵に描かれていたり、昔の映画で観た太陽のように赤くて印象に残っています。その船の中から眺める景色の中に自分が入っていることだったり、船上で中国の知人との予期せぬ再会があったりして、ショーに向けて気持ちが高まりました」
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繊細なレースの上から独特なグラデーションカラーの着色を施したドレス。夢と現実の境目の曖昧さを、鈍いブロンズのような輝きに落とし込んで。ガラスクリスタル、ビーズ、花を模った金属製のスパンコールで装飾が施されたブレードが煌めく。 ロングドレス¥4,144,800/シャネル(シャネル カスタマーケア)
コロマンデル屏風のシノワズリの模様がカラーパレットに落とし込まれたレースのドレス。小さな花を模ったクリスタルによる装飾がアトリエ モンテックスの手仕事により施され、メゾンの美学に感銘を受ける。ドレス¥2,609,200、チェーンベルト¥513,700、ネックレス上から¥179,300、¥169,400(すべて予定価格)、ブラウス(参考商品)/以上シャネル(シャネル カスタマーケア)
そんな往にし方の旅を楽しむ彼女の船には、インフルエンサーたちも多く乗り合わせていた。いつもと同じように携帯で写真を撮り続ける人々を見た時、「その風景とのコントラストがおもしろくて。古くから受け継いだものがあるからこそ、このいまがあるということを感じながら、その船がちょっと違う空間に連れていってくれるような気がしました」
過去にタイムスリップしたような、歴史を感じる西湖の美しい景色に溶け込む、現代的なデザインのランウェイ。その対比に心を惹かれたとも。
「ショーの始まりを告げる太鼓の音に気持ちが高揚したし、水面に映るモデルたちの姿も印象的でした。でもあの興奮の源は、やはり職人たちが膨大な時間を費やして作った素晴らしくて繊細なマテリアルを身近で拝見できたこと。なかでもいちばん記憶に残っているのは黒という色です。夕暮れとともに、空の色も変化し、いつの間にか真っ暗になっていたと思うのですが、空も水面も全部、黒一色。そこに黒いルックがどんどん登場するんです。それでも、シャネルの服は素材によって黒の表情が違うので、さまざまな黒が次々と出てくる。私は以前、パリにあるマドモアゼル シャネルが時を過ごしたアパルトマンにもお邪魔しました。そこはまるで寺院や教会のような神聖な場所でした。今回の着想源になったアンティークのコロマンデル屏風を拝見し、かつてマドモアゼルがアジアに想いを馳せていたということも、アジア人としてやっぱりすごくうれしかったですね」
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ツイードジャケットに、アトリエ ロニオンによる細波のようなプリーツが揺れるシルクサテンのティアードパンツを合わせたオールホワイトのロマンティックなスタイル。素材のニュアンスの違いが奥行きを生み、軽やかなアティチュードを呼び覚ます。ジャケット¥1,189,100、パンツ¥1,453,100(ともに予定価格)/ともにシャネル(シャネル カスタマーケア)
凛とした意志を表出させる、モノトーンのドレスアップスタイル。フロッキーレースや重なるプリーツなど、細部まで技巧が凝らされている。黒地に白いベルベットの花柄レースが施されたジャケットの袖口から、ボリューミーなプリーツのカフスを覗かせて。ノーカラーのジャケット¥1,139,600、ブラウス¥743,600、パンツ¥760,100/以上シャネル(シャネル カスタマーケア)
安藤さんは昨年、パリの一画にある、シャネルのメティエダールの中核を担う専門のアトリエが集結した複合施設、le19Mも訪ねている。刺繍やプリーツ、羽根細工や金細工など、11の工房と約700人の職人が働く、le19M。そこで彼女が実際に触れたサヴォワールフェールを堪能できるエキシビション『ラ ギャルリー デュ ディズヌフエム トーキョー』が今年の9月30日から10月20日まで、六本木ヒルズ森タワー 52階の森アーツセンターギャラリーと東京シティビューにて開催される。
「le19Mで、たくさんの職人の仕事を拝見しました。彼らのクラフトマンシップに触れた経験があったからこそ、杭州でのショーで余計に手仕事に魅了されたのだと思います。人の手だからこそできること、その続いていく歴史と技術の継承に、尊敬の念と美しさを感じます。繊細に紡ぎ、長い時間をかけて受け継いできた人間でないと辿り着けない、とてもとても特別なクリエイションです。さらに今日の撮影でも再認識したのですが、シャネルの服はとても着心地がいいんです。マドモアゼルがこだわっていたことがいまでも生きている。この着心地の良さが私をちょっと余裕のある女性にしてくれて、気持ちの余裕にも繋がるのだと思います。刺繍などの装飾ももちろんですが、計算された着心地の良い仕立てに隠された職人技。それもまたシャネルらしい」
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空色、淡いイエロー、淡いピンク......美しい翡翠のような色味で睡蓮が描かれたニットは、まるで印象派の絵画のような佇まい。羽根が編み込まれ、ボタンには蓮の花が描かれ、手仕事ならではのあたたかみが宿る。 ニットカーディガン¥1,106,600、ニットスカート¥751,300、スカーフ¥437,800(すべて予定価格)/以上シャネル(シャネル カスタマーケア)
杭州でショーを観て、総合的なクリエイションにおいて、映画作りとの親和性を感じたとも話す。
「映画でもファッションでも、何かを作る時の皆が身体や頭、そして心を動かしながら、ひとつのものに向かってエネルギーを循環させていく感覚は同じだなと。あのショーからは、受け取ったものがたくさんありました。スタッフ全員がより良いものを作ることにエネルギーを注いでいて、そこからメゾンへの愛と尊敬が伝わってきました。全身全霊を懸けて、シャネルの魅力と素晴らしいコレクションを届けようとされていて。さらにそれらを伝えることがゴールではない、という感覚も壮大だなと思います」
それを具現化するシャネルは、安藤さんにとって憧れのブランド、という表現はちょっと違う、と話す。想像と創造。そのどちらの美しさも持ち合わせたシャネルは、幼かった彼女の記憶の中にもいた。
「祖母はシャネルの香水や口紅を愛用していたし、母も大事なシーンではシャネルのジャケットを好んで着ていました。いまでも祖母の写真の横にはシャネルの香水が置いてあります」
その祖母や母の想いも一緒に纏えるのがシャネルというブランドなんだと思う、とも。
「これまでの歴史、積み重ねてきたもの、研鑽された職人技がすべて繋がり、さらにそれをしっかりと伝えていく。そんなシャネルと、祖母から母、私へと繋がってきた関係を最近、やっと背負える年齢になったかな」
1986年、東京都生まれ。2006年デビュー。『百円の恋』(14年)、『万引き家族』(18年)で、日本アカデミー賞最優秀主演女優賞をはじめ数々の主演女優賞を受賞。第47回日本アカデミー賞にて、『怪物』(23年)で最優秀主演女優賞、『ゴジラ-1.0』(23年)で最優秀助演女優賞をダブル受賞。
photography: Kodai Ikemitsu (Be Natural) styling: Rena Semba hair: Yusuke Morioka (eight peace) makeup: Uda (Mekashi Project) text: Tomoko Kawakami