Music Sketch

激白!? 奇才チリー・ゴンザレス インタビュー《後編》

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引き続き、30分間に熱く語り通した、奇才プロデューサー/ピアニスト/エンターテイナーであるチリー・ゴンザレスのインタビューを。

0913music_1.jpg現在38歳。交流のあるBECKほか、世界各国のミュージシャンから注目されています。

――エンターテイナーとして、観客とのコミュニケーションの取り方、ある意味、人とのハーモニーも勉強したのですか?

「これはアプローチが全然違う。何故かというと、観客とのやりとりの仕方は研究しながら進んでいく。だから最初にとりあえず試してみる。そこで反応が良かったり悪かったりしたら、そこから合わせていく。喋っている時は、カオスを何とかコントロールしようとしているんだ。何が起こるかわからないまま調整しながら進めているんだよ。やりすぎるとお客さんに嫌われるから、好きになってもらうように調整していくわけだね(笑)。でも、曲のハーモニーの場合は、計算上で自分がどう進んでいくかすべて把握している。だから、わからなくなることもないし、間違いが起こることもないし、進むべき方向は明らかなんだ」

0913music_2.jpgとにかくお客さんに楽しんでもらいたいと、随所に仕掛けのあるステージ。全く飽きません。

――ファイストにインタビューした時に、「ゴンザレスは何も言わなくても、私がやってほしいことをわかってくれる」と話していました。なので、人の心を読み取るコミュニケーションのマジックをもっているのかと思っていました。

「ハハハ(笑)、僕は良い聞き手なんだろうね。良い喋り手でもあるけどね。モーキーやピーチズ、ファイストといった仲間や家族は、正直にモノを言い合える仲じゃないといけないと思うんだ。いろんなものを好きなように感じ合える自由がないと、"家族"や"仲間"って呼べないと思う。幸いなことに、僕らの仲間って、一緒にいるだけでいい化学反応を起こすし、ウマが合うんだ。だから、僕は特別なコミュニケーターではないんだ」

――では、誰が特別なコミュニケーターだと思います?

「オバマだね。あと、ファイストの場合、彼女は音楽的に何が必要かという時に、それを言葉にするのが苦手なんだ。ただ助けは必要としていて、で、僕はたまたま彼女を長く知っていて妹のようなものだから、話さなくても彼女を見ていれば何を求めているかわかるんだ」

0913music_3.jpg後ろに見えるのは、椅子に紐で縛られた通訳の姿。観客に伝えたいことがあると、チリー・ゴンザレスが紐を引っ張って、通訳をステージに登場させます。

――ゴンザレスさんは音楽を通して多彩な表現法をもっていますが、自分の音楽ではどういった感情が表現しやすいですか?

「カオスをもってくるのは簡単だよね。でも僕は自分の音楽を通してカオスを表現することはしたくないよ。パンクになるなんて簡単なもんだよ、すべてを否定し拒絶するのは簡単だし、人を混乱させるのも簡単だけど、誰もネガティヴを望まないからね」

――では、あなたは? あなたなりの美意識が音楽に含まれていると思うのですが。

「たくさんのことを表現したいね。メランコリーや生意気さとか・・・・・・、たくさんの感情。観客が反応してくれるようなものなら、何でも」

――あなたにとって音楽とはどういう意味のあるものですか?

「そうだね、僕は自分のことを大変ラッキーだと思っている。だって、好きなことを見つけることができたし、それで才能もある程度あるし、そのことをやってお金をもらえる立場であることもラッキーだし。そういう人は人口の0.5%くらいしかいないんだよ。音楽の才能というものは、僕に与えられたギフトだと思っている。それをリスペクトするには、よく働くこと、世界中の人とそれをシェアすることが大切なんだ。だからひと言でいうと、音楽は僕にとって"運"。音楽がなければ僕は存在していない。宗教的な人は神のことを良く考えるけれど、僕は宗教的ではない。だけど、与えられた才能は神から贈られたようなスピリチュアルなものであり、自分自身はその贈り物に比べたら本当に小さいと思う。だから、それを踏まえた上で、ステージの上では大きく振る舞うようにしているんだ」

0913music_4.jpg客席から1人ステージに上げて簡単な演奏を頼んで共演したり、いきなり客席の1名にピンスポットを当てて、その人に1曲プレゼントしたり、サプライズの連続が。

――自分自身を成長させるために、どんな努力をしていますか?

「まずはプレッシャーを自分にたくさんかけること。自分から苦労を作るんだ。僕のバックグラウンドに問題がなかった。カナダはいい国だし、田舎で育ったし、いい家庭に育ったから平和そのものだった。だから自分に何か耐えることを与えていかないと成長しないし、大変だったことを乗り越えた時にようやくタフガイになれるんだ。今、僕にプレッシャーをかける奴はいない。だから自分でかけるしかないんだよね。今の僕はラクな生活だよ。だからもっと苦労しなきゃ、苦労しないと大きくなれない」

――素晴らしいですね。では、今生活しているパリは、あなたにとって良い場所ですか?

「どうだかわかないね」

――何故移ったのですか?

「プロデューサーという仕事をもっと経験する目的で行ったんだ。ちょうどフランス人と仕事をしていたから、フランスへ行って、そのままジェーン・バーキン、シャルル・アズナブール、ファイストのアルバムに参加した。パリは、好きな部分もあるし嫌いな部分もあるけど、どっちみちいつも旅しているから、どこに住んでいてもあまり関係ないね」

0913music_5.jpgアンコールでは遅刻した人に向けて(!?)、最初からやってきた演奏内容をコンパクトにメドレーで紹介。これも非常にウケました。

――好きなアーティスト、パフォーマーはいますか?

「70、80年代に活躍したパフォーマーのアンディ・カウフマンが好きだよ。ジム・キャリーが映画『マン・オン・ザ・ムーン』で彼のことを演じていたよね。彼はコメディアンのようであり、子供を相手にするようなエンターテイナーでもあり、その間にいるような存在なんだ。バカげたような部分もあるし、詩的な部分もある。特に好きなのが、どこまでが本当かどこまでがウソなのかわからないところ。彼は僕にとって世界中でナンバー1のパフォーマーなんだ。何故なら、彼を見ていると自分を見ているようだからさ(笑)」

――映画といえば、アルバムに合わせて今回製作した『IVORY TOWER』の内容について教えて下さい。Tigaやピーチズも出演しているんですよね?

「2人ともグレートなパフォーマーだからね。兄弟2人と、何かから解放された女性を描きたかった。Tigaは性格的にお兄さんぽいから、彼のためにあの役を作った。Tigaの本質に近いキャラクターだよ。ピーチズも同じで、僕らは役者じゃないし、エンターテイナーといってもカメラの前で演技するのはまたちょっと違うから、バイオグラフィー的要素をそれぞれの役柄の中に入れた。短時間でいいものが撮れるように、説得力のある演技になるように役設定から詰めていったんだけど、それは時間がなかったからそうしたんだよね。演技を勉強する時間が今回はなかったんだ」

――今後は映画も撮っていくのですか?

「映画、音楽、すべてやっていきたい。今のように、資金とエネルギーといいチームが揃っていたら、もっと早く映画を作っていたと思う。長い間、映画のことは考えていたけど、ようやく去年のはじめに実現するかもしれないと思ったんだ」

0913music_6.jpgマイナー展開の方が好きだからと、「HAPPY BIRTHDAY」の曲をマイナー調で演奏したり、目隠しして演奏したり、「ホテル・カリフォルニア」を壮大に演奏したり・・・・・・。エンターテイナーとしての情熱がほとばしるパフォーマンスの連続。

――あなたのように才能や自信に溢れていると、どういうタイプの女性を好きになるのですか?

「ありがとう。僕は独身で結婚していないし、子供もいない(笑)。で、本当に女性が大好きなんだ。昔から、僕は女性の方がうまくいく。マネージャーも女性だし、マネージャーのアシスタントも、出版を運営しているのも女性。もし男性と組むなら、僕のように少しフェミニンな部分や、ソフトな面がないとうまくいかない。タフな男性だと、何故か絶対うまくいかないんだ。僕は、女性かゲイの男性か、すごく女性的な男性としか仕事しないんだよ」

――そのほうが繊細な作品ができるということ?

「何故そうなったのかはわからない。結果として、いつもうまくいくと思うと女性が周りにいる。僕は女性の頭の中がどうなっているのか想像するのが大好きなんだよね。永遠にわからないからさ。とにかく女性には魅了される。男性よりも女性の方が断然面白い(笑)」

――2000年から、ゴンザレスとは別に、チリー・ゴンザレスという名前を使うようになった理由を教えて下さい。

「チリー・ゴンザレスの方がグーグルで検索しやすいだろう? あと、"チリー"が付いた方が、今の人生と同じでマンガっぽいと思うから。ピアノ・アルバムである『ソロ・ピアノ』(2004年)をやった時は、未だマンガっぽい生活ではなくて現実的だった。だから、ゴンザレス名義の方が相応しいと思ったんだ。でも今は旅をしていて、あり得ないことをやっている。たとえばギネスブックに挑戦なんて、チリーじゃないとできないだろう? だから今はチリー・ゴンザレスなんだ」

――何故"Chilly"なの?

「ベルリンにいた時に、誰かがフルネームで付けたんだ。『君は"チリー・ゴンザレスって呼ばれるべきだ』って。観客ではなく、誰かが僕のことを観察して付けてくれた結果なので、自分が付けるのよりとはいいと思うんだ。この違いは大きいよ」

0913music_7.jpgその振る舞いは、まるで役者のよう。

――そろそろ時間なので・・・・・・。

「いや、もう1問、何か訊いてくれよ」

――では、落ち込んだ時は、どうやって克服するんですか?

「僕は落ち込むことなんてないよ(笑)。ストレスしか感じない。でも、僕はストレスが好きなんだ。そしてストレスが来た時は、それを燃料のように燃やすんだ(笑)」

――そんな(笑)。そんなにタフなんて、普段はどんな食事が好きなんですか?

「何でも好きだよ、家では料理しないから。女性が作るものは大好きさ。そういえば昨日、映画『キル・ビル』で有名な『権八』で食べたけど、すごく美味しくてブッ飛んだよ!」

・ ・・・・・・と、その後もしばらく喋り続けていた熱い男、チリー・ゴンザレスでありました。アルバムも魅力的ですが、彼本人も、そしてライヴもとても素晴らしく・・・・・・。次回は是非、みなさんにライヴ会場に足を運んでいただきたいです。

0913music_8.jpgチリー・ゴンザレスの魅力満載の最新アルバム『アイボリー・タワー』。

LIVE PHOTO:Tadamasa Iguchi

*To be continued

伊藤なつみ

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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