【虹の刻 第4章】村上虹郎×山田智和×木皿泉。
虹の刻
フィガロ本誌3月号より始まった新連載「虹の刻」は、俳優の村上虹郎と映像作家の山田智和、そして各回ごとに変わる文筆家と音楽家を招き、”とある瞬間”を表現する連載企画。
章ごとに変わる文筆家の第4回目には、木皿泉が登場。そしてムービーの楽曲は、2018年4月にリリースしたアルバム『分離派の夏』で一躍注目を集め、現在はロンドンで活動中の音楽家、小袋成彬率いるTokyo Recordingsが制作。
長年の時を経て積み重なった地層を前に、抗うことのできない時の流れに想いを馳せる。3人の表現者が見つめる、とある瞬間とは――。
ジャケット¥164,160、パンツ¥85,320、ベルト¥34,560、シューズ¥88,560/以上ドリス ヴァン ノッテン(ドリス ヴァン ノッテン)
会いたい人 木皿泉
私の姉は、生まれてすぐに死んだ。一日半の命だった。母は、ふさちゃんが生きていたら(姉は房子という名前だった)、あんたは生まれて来なかったのよと言った。
それを知ったのは七歳の夏の日だった。私は姉をさがしに公園へ出かけた。遊んでいる子たちは姉ではなかった。ジャングルジムによじ登る日に焼けた腕や足は、生きている子供そのものだった。私は公園の隅に鬱蒼と立つ木々の中にモミジを見つけ、葉っぱを一枚ちぎった。できるだけ小さいのをちぎった。姉が死んだ時の手のひらと同じぐらいの大きさのものを。
私はそれを握って家に帰った。今はいない姉と手をつないでいるような気持ちだった。
姉はいないのに私はいる。
そんな大切なことを誰が決めたのだろう。母ではない。もっと大きな力だ。そして、姉の代わりに私は、ここにいる。それは、なんと残酷なことか。
「そうなのよ。残酷なのよ」と手の中で葉っぱが答えた。
家に帰って夕ご飯を食べる頃、この葉っぱはどこかへいってしまった。その後、家族たちとふさちゃんの話をしたことは、一度もない。
私は今でもときどき思い出す。姉の湿ったやわらかい手のひらの感触を。
Tomokazu Yamada
1987年生まれ、東京都出身。Caviar所属。アーティストへの敬意、作品や精神性への共感と愛。光や闇、水などの自然を巧みに取り入れた作品群は、普遍性を持ちつつ私的な感情を描き出す。2018年、米津玄師「Lemon」のMVでMTV VMAJ 2018 最優秀ビデオ賞受賞、19年、スペースシャワーミュージックアワードでBEST VIDEO DIRECTOR受賞。
Nijiro Murakami
1997年生まれ、東京都出身。2014年、カンヌ国際映画祭出品作『2つ目の窓』で主演を務め、俳優デビュー。作品の持つ時代性や自身の内的な記憶と真摯に向き合い、繊細な感情を映し出す演技派。公開待機作に、映画『楽園』、『ある船頭の話』、 『”隠れビッチ"やってました。』。5月9日より始まる舞台『ハムレット』に向けてただいま絶賛稽古中。
Izumi Kizara
1952年生まれの和泉務と、1957年生まれの妻鹿年季子による夫婦脚本家。ともに兵庫県出身。2003年、テレビドラマ「すいか」で第22回向田邦子賞、第41回ギャラクシー賞優秀賞受賞。ほかに05年「野ブタ。をプロデュース」、10年「Q10」など。13年、初の小説『昨夜のカレー、明日のパン』(河出書房新社刊)を刊行し、18年『さざなみのよる』(河出書房新社刊)で2019年本屋大賞ノミネート。
2014年7月に設立した日本のインディーレーベル。作詞家、作曲家、歌手、音楽プロデューサー、ミュージック・ビデオ監督など多岐に渡って音楽活動をおこなう小袋成彬を中心に、平成生まれのクリエイターのみで構成。これまで、OKAMOTO'S、柴咲コウ、きゃりーぱみゅぱみゅ、宇多田ヒカルなどの作品に関わっている。
www.tokyorecordings.com
réalisation : TOMOKAZU YAMADA, direction de la photographie et montage : YUKI SHIRATORI, musique : Tokyo Recordings, acteur : NIJIRO MURAKAMI, texte : IZUMI KIZARA, stylisme : HAYATO TAKADA, coiffure et maquillage : KOTARO for SENSE OF HUMOUR