フィガロ本誌3月号より始まった新連載「虹の刻」は、俳優の村上虹郎と映像作家の山田智和、そして各回ごとに変わる文筆家と音楽家を招き、”とある瞬間”を表現する連載企画。

第6回目の文筆家には、松居大悟が登場。音楽は、Dos Monosのラッパーでビートメイカーの荘子itが担当。

ネオンサインに照らされ、あらゆるものがひしめき合う新宿・歌舞伎町――。映画監督で劇団ゴジゲン主宰の松居大悟を迎えて、それぞれが想う瞬間を映し出す。

コート￥54,000、パンツ￥48,600、シューズ￥59,940、つけ襟（参考商品）/以上ザ・リラクス（ザ・リラクス フィッティングハウス）

「宵に虫けら」　松居大悟

街を歩けば雑音が多すぎる。

顔を赤らめて笑う若者、背中を丸めてスマホを見つめる社会人、ダンボールで横になる酔っ払い、知らない言葉で騒ぐ外国人。ギャーギャーうるせえなクソが。全員クソだ。オレ以外全員クソ。

そうやってまた、自分を特別な人間だと思い込んでいるんだろう？お前なんかよりみんな戦ってんだよ。苦しいから、笑えるんだ。結局今日だって何もせずに、まとまった洗濯をして何かをした気分になって、SNSに流れる悲しいニュースをみて安心してたじゃないか。ワイドショーのコメンテーターの女みたいな謙虚に全てわかったふりをせずに、その暴走する自意識をまずなんとかしてくれ。

荷物を地面に置いて、マスクを外せ。耳をすますと、人を運ぶ電車の走行音。店から流れる若いロックバンドのBGM。風と風がこすれる音。人々の笑い声。全てひとつだけじゃ成立しない、美しく輝く命の衝突。地面を踏みしめて、息を大きく吸う。息を止める。息をゆっくり吐く。アゴを下げて、前を見据える。そして、手を握りしめて、腕をゆっくりあげる。ショウウィンドウに映るその情けない姿は、小学生の頃の『前にならえ』みたいで、まだファイティングポーズは様にならない。