【虹の刻 第8章】村上虹郎×山田智和×新井英樹。
虹の刻
フィガロ本誌3月号より始まった新連載「虹の刻」は、俳優の村上虹郎と映像作家の山田智和、そして各回ごとに変わる文筆家と音楽家を招き、”とある瞬間”を表現する連載企画。
第8回目の文筆家には、漫画家の新井英樹が登場。音楽は、SANABAGUN. とTHE THROTTLEでフロントマンを務める高岩遼が担当。
人生についての手ほどきを受けた、文豪の作品群を前にして――。表現を追求する4人の想いが交差する。
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「いいんだぜ」 新井英樹
「俺って薄情だから」なんて呟きを呑み込むふりしてたのは20代半ばの頃か。それは自身の冷血を認めたくないがための臆病で気取った防御・変換だったはずだ。
病的な自己愛、自意識過剰で生きてきた自分を、どう消化するかが
描き続けている漫画に脈打つ嘆きにもなっている気がする。
40代の厄年前後に義父、父母の3人を亡くした時、孝行できなかった後悔を棚に上げても、涙が出たことに驚いた。
生まれつきか、いつの間にかだとしても自分の涙は信用ならない。「嘆きも自己陶酔の一形態だ」なんて考えも沁みつけてしまっているようだし。
2年ほど前に飼って11年の老文鳥が俺ら家族が囲む目の前で死んだ時、初めて声を上げて泣いた。
死の直前、ホメられ好きの彼に拍手を送ると、彼は首をもたげ目が合った。
そして死の1秒前、彼は羽ばたいたのだ。
嗚咽しながらか、後からだったのか「こいつは生ききった!」
そう思ったらさらに泣けて・・・
自己陶酔の疑いもほぼなかった。ただ呆れるほど泣いた
という記憶にした。
50代半ば。いまや「薄情」の意味すら定かじゃない。
「もういい、それでいいや」と
嬉々として呑み込むようにしている。
Tomokazu Yamada
1987年生まれ、東京都出身。Caviar所属。アーティストへの敬意、作品や精神性への共感と愛。光や闇、水などの自然を巧みに取り入れた作品群は、普遍性を持ちつつ私的な感情を描き出す。2018年、米津玄師「Lemon」のMVでMTV VMAJ 2018 最優秀ビデオ賞受賞、19年、スペースシャワーミュージックアワードでBEST VIDEO DIRECTOR受賞。
Nijiro Murakami
1997年生まれ、東京都出身。2014年カンヌ映画祭出品作『2つ目の窓』で主演を務め、俳優デビュー。作品の持つ時代性や自身の内的な記憶と真摯に向き合い、繊細な感情を映し出す演技派。9/13公開予定の出演映画『ある船頭の話』が第76回ヴェネツィア国際映画祭ヴェニス・デイズ部門に正式出品決定。他の公開待機作に『楽園』など。
Hideki Arai
1963年生まれ、神奈川県出身。明治大学卒業後、文具会社の営業マンとなるが、漫画家を志して退職。89年、『8月の光』(講談社刊)でアフタヌーン四季賞の四季大賞を受賞しデビュー。92年、『宮本から君へ』(講談社刊)で小学館漫画賞受賞。『愛しのアイリーン』(小学館刊)、『ザ・ワールド・イズ・マイン』(小学館刊)、『キーチ‼』(小学館刊)など。
Ryo Takaiwa
1990年生まれ、岩手県宮古市出身。ヒップホップ・チームのSANABAGUN.、ロックンロール・バンドのTHE THROTTLEでフロントマンとして活動中。2018年10月、初のソロアルバム『10』を発表。
réalisation : TOMOKAZU YAMADA, direction de la photographie et montage : YUKI SHIRATORI, musique : RYO TAKAIWA(SANABAGUN. / THE THROTTLE) , acteur : NIJIRO MURAKAMI, texte : HIDEKI ARAI , stylisme : SHOTARO YAMAGUCHI(eight peace), coiffure et maquillage : TAKUYA BABA(SEPT), collaboration : TATESHINA SHINYU ONSEN